四瑞と聖剣
環は抱えていた玉手箱を両手で持ち直した。
王の間にいた全員が扉の方を見ていた。
玉手箱の白色の丸印が二つふわっと光り
うっすらと文字が現れて消え
金色の丸印に変わった。
「仁と義……」
環が言った。
「全部揃った」
悠が言った。
その瞬間、玉手箱の赤い紐がほどけて、
ふわりと蓋が持ち上がった。
ポンッと白い煙が立ち上がり、玉手箱は消えた。
そして、煙から何かが出てきて、大きくなった。
「亀だ!」
悠が声に出した。
第二王子“倫”は、胸のポケットが熱くなるのを感じた。
手を入れて、守紋符を出した。
すると、それらはくるりと回転し、
ポンッと一瞬で守紋符から龍、鳳凰、麒麟の姿が
部屋いっぱいの大きさで現れた。
「龍、鳳凰、麒麟、亀……四瑞は本当にいたのか」
国王は驚きの表情で言葉にした。
麒麟が、第二王子“倫”の方を向いた。
「お前はこれから聖王と呼ばれるであろう」
第二王子“倫”は応えた。
「私は弱い人間です。完璧でもありません。聖王に相応しいかどうか……」
麒麟は応えた。
「長年、完全な王や将軍ばかりを探していたのかもしれない。しかし、人はいつも不完全だ。不完全だからこそ、聖王になれるのかもしれない」
「平和な世になるよう努力し続けたいと思います」
第二王子“倫”は応えた。
「お前が辿ってきた道と教えを忘れぬよう、聖剣を与えよう。そして、守紋は多くの人には見えぬからな。聖剣という形で聖王の象徴として扱うとよいだろう」
麒麟が言い終わると、第二王子“倫”の手元に
龍、鳳凰、麒麟、亀が集まって、光となり、
龍、鳳凰、麒麟、亀の四瑞は、四方向に飛んで行き、姿を消した。
そして、光が消えると、手元に一つの聖剣が現れた。
剣の持ち手の近くには、
龍、鳳凰、麒麟、亀のそれぞれの刻印が入っていた。
国王は、聖剣を手にする第二王子“倫”の姿を見て、微笑んだ。
そして、王の間を後にし、王妃と共に歩いていった。
第三王子“明”は、信じられない光景を目の当たりにし、
(敵わないな――)
と、すっかり戦意も自惚れも消失していた。
「沙々山総隊長、明王子を北山の麓の源家に預けてほしい。後で、当主への手紙を書いて渡そう」
「承知いたしました」
「それから、尾々木内大臣の件は、志々度中隊長と対応しておく。国の外に出すとまた厄介事を起こしそうだから、しばらくここで見張りをつけておく」
沙々山総隊長は一礼すると、第三王子“明”と兵を連れて部屋を出た。
扉の前で、二人の兵が靴紐で両手を縛られているのを見て、
第二王子“倫”はすぐに、悠と環が自分を真似てしたんだと気がついた。
(やはり、賢いな……)
「倫王子」
王の間の入口に、志々度中隊長が立っていた。
「入れ」
志々度中隊長が、第二王子“倫”の傍に来て報告した。
「井々田総大臣が大臣室で、騒ぎになる前に、尾々木内大臣たちを抑えてくれていました」
「さすがだな。こちらは収まった。今回のことは箝口令を敷く。井々田総大臣にそう伝えてくれ」
「承知いたしました」
志々度中隊長は一礼して、王の間を出ていった。
悠と環の傍に歩いていった。
「ありがとう」
「四瑞が揃いましたね」
悠が嬉しそうに話した。
「美しい剣ですね」
環が聖剣の刻印を眺めながら言葉にした。
「明日、王位継承の戴冠式となるだろう。二人には是非、見届けてほしいのだが」
「もちろんです!」
悠と環は嬉しそうな声で答えた。
「あ、家に連絡したいんです。心配すると思うので」
環が言った。
「もちろんだ。使いをすぐに送ろう。まずは食事を一緒にしないか?」
三人は王の間を出た。




