北山
扉の中に入ると、そこは一変した風景だった。
曇ったように薄暗く、肌寒く、黒い高い山々がそびえていた。
そして、目の前には五重塔が建っていた。
まるで静けさに包まれているようだった。
「あ、玉手箱。僕、持ってても大丈夫ですか?」
環が第二王子“倫”に聞いた。
「すまない。ありがとう」
そういうと、玉手箱を環から受け取った。
そして、第二王子“倫”は一礼して塔の中に入った。
悠と環も一礼して、後に続いた。
塔の中に入るとがらんと広い空間が広がってた。
そこには何もなかった。
端に階段がポツリとあるだけだった。
「階段を上がってみよう」
三人は階段を上がっていった。
二階に着くと同じようにがらんと広い空間が広がってた。
慎重に辺りを調べてみたが、そこには何もなかった。
端に階段がポツリとあるだけだった。
ふと、外からサーと軽く雨が降り始めた音が聞こえてきた。
「上がってみよう」
第二王子“倫”はそういうと、三人は階段を上がっていった。
すると今度は、階段を上がってすぐのところに
一面真っ白な壁があり、奥に進めなくなっていた。
第二王子“倫”は部屋の端からゆっくりと壁に沿って観察していった。
悠も倫もそれぞれに壁を調べていた。
「守紋で奥に進めるのかな?」
悠がつぶやいた。
「でも守紋のマークらしきものもないし……」
環が迷うように答えた。
「壁でなければ……」
第二王子“倫”は、上下左右後ろを観察していった。
そして手元に持っているものを見た。
――玉手箱……もしかしたら。
第二王子“倫”は悠の方を見て聞いた。
「金烏玉兎の守紋を今も持っているかい?」
悠はポケットの金蘭簿から金烏玉兎の守紋符を出して見せた。
「これです」
悠が言い終わるかどうかというタイミングで
それはくるりと回転し
ポンッと一瞬で守紋符から
金色に輝く一羽の烏と、月のように静かに輝く兎の姿が現れた。
そして、金烏と玉兎はすぅーと白い壁の向こうに消えていった。
すると、白い壁は急激にくすんだ色になりボロボロと崩れていった。
全て崩れると壁の向こうが見えた。
一階、二階と同じようにがらんと広い空間が広がってた。
端に階段がポツリとあるだけだった。
「倫さん、これは……」
悠が驚いた顔で聞いた。
「玉手箱に早く過ぎ去っていく歳月に関係する昔話があったことを思い出して、似た意味を持つ金烏玉兎を出してみただけだが……。きっと壁の歳月を早め崩れたんだろう」
三人は、崩れた壁の上を乗り越えた。
すると、玉手箱の白色の丸印が一つふわっと光り
うっすらと文字が現れて消え
金色の丸印に変わった。
「智の文字でしたね。そうすると残りは、仁、義、信の三つかもしれませんね」
環が言った。
「……そうかもしれないな」
第二王子“倫”が言うと、三人は部屋の奥へと進んでいった。
階段の前には、金烏と月兎がまるで待っているようだった。
悠が近くまで行くと
それはくるりと回転し
ポンッと一瞬で金烏玉兎の守紋符に変わった。
悠はそれをポケットの金蘭簿にしまった。




