玉手箱の解
建物を出ると三人は、悠の祖父のあとをついて歩いた。
しばらく歩くと木々の中に、少し開けた場所があった。
そして、その奥に小さなお堂のような古い祠があった。
四人はその場で立ち止った。
とても静かだった。
鳥も虫の声も聞こえず、風も吹いてなかった。
ふと、祠の横の木から、葉っぱが一枚落ちた。
その葉っぱが落ちる微かな音が聞こえるくらい静かだった。
「あの祠の中に古より伝わる玉手箱が入っているそうじゃ。しかし、その扉を開けることができたものはおらぬ」
悠の祖父は、祠の方を見て話した。
第二王子“倫”は、ゆっくりと歩いて行った。
『知らない人から急に話しかけられたら、驚くだろう?神様たちもきっと同じだ。まずは会釈し、そして名乗ってから話しかけるものだ』
子供のころから王族の儀式などで神社などに参る時、
国王から言われていたことが習慣になっていた。
祠の前に来ると一礼した。
(私は宇宇国の第二王子“倫”と申します。扉を開けてもよろしいでしょうか?)
第二王子“倫”は、心の中で祠の中に話しかけた。
ふいに木々がザザッと揺れるほどの風が吹いた。
「ほぉ、開ける前に我に話しかけてきたものは、初めてじゃ」
祠の中から声が聞こえてきた。
「今までのものは、礼もせず、何も言わず、いきなりガタガタと扉を開けようとするものばかりじゃ。しかし、そなたは礼儀正しいのぉ」
「あなた様にとっても、私にとっても初対面でありますゆえ」
再び、静けさが戻った。
「開けよ――」
第二王子“倫”は、そっと扉に手をかけた。
すると、すっと扉が左右に開いた。
中は薄暗かったが、両手で持てる位の箱が置かれていた。
第二王子“倫”は、両手でゆっくりと箱を手に取り、手元に引き寄せた。
パタン――。
同時に扉が閉まった。
「ありがとうございます」
第二王子“倫”は、一礼した。
手元の箱を見ると、黒塗りの箱に、五つのうっすら見える白色の丸印、
両端から赤い紐が結ばれていた。
白色の丸印が一つふわっと光り、うっすらと文字が現れて消え、
金色の丸印に変わった。
第二王子“倫”は、箱を手に三人のところへ戻った。
「おぉ、これが玉手箱か――」
悠の祖父が目を輝かせて見ていた。
「この紐はほどけるの?中は見れる?」
悠が聞いた。
「ちょっと持ってくれるかい」
第二王子“倫”が環に玉手箱を手渡し、紐を引っ張ってみた。
「ほどけないな……」
第二王子“倫”が思い出したように、悠の祖父に聞いた。
「さっき、この玉手箱を手にしたとき、ここの金色の丸が一つ光って文字が見えたんです」
「文字は?」
「確か……礼……だったと思います」
悠の祖父は、少し考えて答えた。
「もしかしたら、丸が5つあるから五常のことかもしれんのぉ」
「五常ですか」
「おそらく、仁、義、礼、智、信の礼のことじゃろう。それがこの玉手箱を開ける鍵かもしれん」
「玉手箱が開くと亀が見つかる?」
悠が聞いた。
「それは分からぬが、この玉手箱は古より北山から来たもので、この祠に長年、祀られておった。これを持って、北山に行ってみるとよいじゃろう」
悠の祖父は、懐から鍵のようなものを出した。
「これは、宝鑰という鍵じゃ。これで北山の塔まで行けるじゃろう」
そして、宝鑰を第二王子“倫”に手渡した。
「これでどうやって行くの?」
想像もつかないなという顔で悠が聞いた。
「何度かこの宝鑰で、北山の塔に行ったことがあるが、亀を見たことはなかった。じゃが、玉手箱を持っていけば、会えるかもしれん」
悠の祖父はそういうと、手元に鍵を持ったふりををして
扉の鍵を開けるように右に回した。
「このように扉の鍵を開けるようにするんじゃ。そうすると、扉が見えるじゃろう」
第二王子“倫”は、まるでそこに扉があるかのように宝鑰を右に回してみた。
カチャリ――。
鍵が開く音がして、うっすらと半透明の両開き扉が見えた。
キィィ――。
扉が開いた。




