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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
守紋の記憶:Echoes of the Lost Realms【第一章 第一部】
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守紋

「これを」

 店主がカウンターの上にそれを置いた。手の中に収まるくらいのカードのようだった。

「君がこの店に入った時から、このカードは君のものになった」

 真っ白で何も書かれてないようだった。

 カードを手にした瞬間、ドクンと胸が少し高鳴った。どこか懐かしく胸の奥があたたかくなる初めての感覚。初めての手ざわり。思わず店主の顔を見た。

「これは、アナログの世界のものさ」

「真っ白ですね」

「そうかい?見ようと思うと見えるものさ」

 その言葉にもう一度カードを見てみた。すると、うっすらと丸い絵のようなものが見えてきた。入口の扉に描かれていたマークと同じだ、と思った。

 ……ん?

 他にも何か見えるような……。

 白い……うさぎ?

 マークの中にこちらを見るように座っている兎の絵が見えてきた。

 と同時にカードが手からするりと浮いてくるりと回転すると、ポンッとカウンターの上に兎が現れた。絵と同じようにまっすぐ僕の方を見ていた。ふわふわの真っ白な毛並みと、こちらを見る目に

 ……かわいい。 と思った。

「撫でてもいいですか?」

「いいんじゃない?」

 そっと背中に手を置くと、細くふわりと柔らかい毛が心地よかった。

「あったかい……」

 毛並みにそって撫でてみた。兎は少し目を細めた。

「僕の知っている兎は、もっと硬くて冷たい感じです」

「そうだね。ロボットの兎だからね。似たように作っているけど、本物とは違う」

「本物?」

「そう、これが本物の兎。アナログの世界の兎さ」

 続けて言った。

「私たち人と同じ生き物さ。アナログの世界では遥か昔から人は、動物や自然と共に生きていた。そして、動物や自然が守ってくれる力が一部、こうして人に分かる形で現れたものが“守紋(しゅもん)” と呼ばれている」

「しゅもん ……」

「君がさっき手にしたのは“守紋符(しゅもんふ)”と呼ばれる守紋が護符になったものさ。それを手にしている人を守ってくれる」

「さっき、丸にギザギザがついたような絵も見えたんです」

「それは雪の結晶を意味する “雪輪”という紋様だね。その兎は冬の属性を持つ“雪輪兎(ゆきわうさぎ)”。守紋は自然界の属性をそれぞれに持っているのさ」

「ちょっといつまで撫でてんのよ」

「ぅわ……」

 僕は兎から手を離した。

「話した!」

「話す守紋もいれば、話さない守紋もいるわ。私は話すのが好き」

 雪輪兎が言った。小さな体のように軽やかな声だった。

「行くわよ」

 ぴょんとカウンターから床に降りた。雪輪兎は店の奥の方へとぴょんぴょんと跳ねていった。後をついて行くと、そこには僕の身長よりも大きな板のようなものがあった。

「相変わらずせっかちだ」

 店主はそういうと大きな板を二つに開いた。とても綺麗だった。金色で描かれた雲に見たことのない風景が描かれていた。綺麗というよりも、美しい。という言葉の方がぴったりな気がした。

「この屏風の中が、アナログの世界への入口。ここで君を助けてくれる守紋を見つけると次の扉が開く。入るときは右側から、出るときは左側から」

「待って。僕まだ、コードノヴァのことも、守紋のことも、アナログの世界のことも、何も分からないんだけど」

 あわてて言った。

「全部説明してもいいけど、君は説明を聞くよりも、まず体験したいのでは?」

「そ、そうだけど」

 気持ちの半分以上はもう行ってみたくなっていたので、反論もできなかった。

「まぁ行ってみてごらんなさい。そうそう、 これを持っていくといい」

 店主が渡してくれたのは、ポケットに入るくらいの巾着袋だった。

「ありがとうございます。綺麗な袋ですね」

 初めて見る色彩と手触りにきっとこれもアナログの世界のものだと思った。

「“金襴簿(きんらんぼ) ”という。これに守紋符を入れるといい」

 金襴簿には巾着のようなマークがあった。ポケットに入れた。店主の顔が笑顔だったを見て、気持ちが少し和らいだ。

「行くわよ」

 雪輪兎が屏風に入ろうとすると、ぼんやりと絵が薄らいでゆらゆらとした。そして、ぴょんと中に入って行ってしまった。

 僕はもう一度、店主の顔を見ると店主は口を開いた。

「アナログの世界はこう呼ばれている。――“ソラクア”」

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