五家
かつて環の母である栞は、東湖で麒麟に言われたことは二つあった。
一つは
『もし私が闇に落ちることがあれば、世界は暗黒の時代になるだろう』
そして、もう一つは
『もし将来、私があなたの子供といるならば、聖王が現れる日も近い』
という言葉だったことを志音は三人に伝えた。
そして、半年前、環と悠が麒麟の闇落ちから救った。
その時のことを目の当たりにして、
環の叔父の亮は、悠と環が麒麟児ではないかと
考えていることも三人に伝えた。
「五家の話をしておこう」
「五家ですか?」悠が尋ねた。
「古からこの大陸では、林家、火宮家、壌家、金子家、源家の五家が存在している。守紋の里の守り人たちだ。古から動物や自然は守紋という形で人を守護してくれている。だが、それは誰にでも分かるものではなくて、今はもう、五家と王族の一部の人しか分からないと言われている」
志音は続けた。
「林家は、木を司り、東湖で名前のない島の湯場の温泉を守っている。環の一族だ。
壌家は、土を司り、ここ奈国の名前のない店で錬金術を守っている。私たちの一族だ。
火宮家は、火を司り、南で名前のない洞窟を守っている。
金子家は、金属を司り、西で名前のない港を守っている。
源家は、水を司り、北山のふもとで名前のない森を守っている。悠の一族がそこにいる」
「ぼくの一族?」
悠が身を乗り出して聞いた。
「あぁ、そして四瑞の亀は、名前のない森を越えた北山にいると言われている。まずは、名前のない森に行ってみるといいだろう」
志音は第二王子“倫”の目を見て続けた。
「倫。宿命ならば、四瑞と共に、聖王としてこの大陸を治めることとなるだろう」
「分かりました。私が聖王かどうかは分かりませんが、『四瑞の出現が聖王の前触れ』と言われるならば、確かめてみたいと思います」
第二王子“倫”は桐竹鳳凰の守紋をしっかりと握った。
「悠と環はどうしたい?」
志音が尋ねた。
「僕は、自分の一族に会ってみたいから、倫さんと一緒に行きます」
迷うことなく悠が答えた。
「僕も行きます」
環が答えながら、ポケットの金襴簿から守紋符を出して倫に渡そうとした。
第二王子“倫”は手でそれを制するようにした。
「守紋符は、まだ君たちに持っていてほしい。私にその資格があるか君たちにも見極めてほしいんだ」
環と悠は、第二王子“倫”の顔を見て頷いた。




