第一王子の意志
奈国の名前のない店に戻ると
世界は“ネオコードノヴァ”として再生されていた。
そして、第二王子“倫”、悠、環はぞれぞれの帰路についた。
足早に奈国から宇宇国への道を進んでいった。
これまでのデジタルだけの世界から
アナログも残り、融合している風景も
今は目に入らず、宇宇国へ急いだ。
王宮へ戻ると門の近くで、志々度中隊長が待っていた。
「倫王子!帰りをお待ちしておりました」
いつも冷静な態度を崩さない志々度中隊長が、
早口で話していることに違和感を覚えた。
志々度中隊長が駆け寄ってくると、小さく早い声で伝えた。
「第一王子のお部屋へ早く」
東塔の第一王子“健”の居室へ急いだ。
ちょうど沙々山総隊長が居室から出てくるところだった。
普段は表情を変えず考えが読めない沙々山総隊長だったが
沈んでいるのが分かった。
――何があったのだ。
「倫王子がお見えになりました」
第二王子“倫”に気づいた沙々山総隊長が扉越しに伝えた。
「入るよう伝えてくれ」
第一王子“健”の声が聞こえて、少しほっとした。
しかし、部屋の中に入ると、その安堵感は一瞬で消えた。
今にも消えてしまいそうなくらい
白く細くなった兄の姿がそこにあった。
「ウィルスにやられてしまったようだ……」
――こんな急激に。
第二王子“倫”は入口から動けずにいた。
「近くに来てくれないか」
第二王子“倫”がベッドの傍まで来ると
第一王子“健”は手に持っていたものを手渡した。
手に渡されたものを確かめてみると
それは“萩鹿”の守紋符だった。
第二王子“倫”は驚き、第一王子“健”の顔を見た。
「もう私はそれを持っていることができない。お前に引き継いでもらいたいのだ」
「そんな、まだ……」
「いや、いいんだ。何も言わなくていい。分かるんだ」
――再び、また大切な人を失ってしまうのか。
「国王の承諾も取ってある」
第二王子“倫”は、自分の定めを覚悟している兄の目を見て
弱音を履くことはできないと自分自身を鼓舞した。
――『心を強く持つ』と決めたばかりではないか。
「分かりました」
第二王子“倫”は、第一王子“健”の目を見て続けた。
「私は兄から、この“萩鹿”とともに『覚悟と責任』を継ぎます」
その目と声に、大丈夫だと確信が持てた第一王子“健”は、
それから一週間後に亡くなった。
第三王子“明”は苛立っていた。
悲しみよりも苛立ちの方が勝っていた。
そのことを尾々木内大臣は見逃さなかった。
尾々木内大臣は、第三王子“明”へそっと囁やいた。
「倫王子はこの5年間、国内を出たり入ったり、国務はおざなりでした。家臣の信頼も失いつつあるでしょう。王位継承を引き継いだとはいえ、周りが認めているかどうか……」
「どういうことだ?」
「王位継承に相応しいのは誰か……ということです」
「ふ、奸臣というのは本当にいるものなんだな」
尾々木内大臣はうっすらと笑った。
王の間では、国王と井々田総大臣が話をしていた。
「国王。最近、尾々木内大臣の動きが気になります。明王子の周りをうろついております。そろそろ、沙々山総隊長を倫王子の傍に置いて、王位継承者を明確にしてはいかがでしょう」
「うむ、明は野心を持っているからのぉ」
「それでは……」
「いや、しばらく様子を見たいのだ。これを納められければ倫は国王になっても、国政を上手くまとめられまい」
「承知いたしました」
井々田総大臣はそう答えると静かに王の間を出た。




