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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
守紋と宿命:Heart or Crown【第三章 第一部】
32/76

奈国

 第二王子“(りん)”は、耐え難い喪失感の中にいた。

 何もかもが灰色に見え、何も感じず、何の味もせず、

 心が空っぽになっていた。

 王女“(みお)”が最後に見たであろう景色を見たいと思った。

 どこでどんな風に事故にあったか、誰も語ってはくれなかった。

 一人で奈国(なこく)までの道を辿(たど)っていった。

 しかし、何も分からなかった。

 奈国の入口まで来た時、胸のポケットが熱くなるのを感じた。

 胸のポケットに毎日欠かさず入れていたものを出した。

 それは少し光っていた。

守紋符(しゅもんふ)が……光っている?」

 第二王子“倫”は驚いた。

 楓鹿(ふうろく)の守紋符を継承してから8年が経っていた。


 ――奈国に入っていけということか?

 第二王子“倫”は、奈国への道を進んだ。

 それが正解だというように、

 守紋符の光は鼓動のようにうっすらと光り続けていた。

 十字路に差し掛かった時、守紋符の光が消えた。

 右を向くと再び光った。

 左を向くと光が消えた。

 右の方へ歩いていった。

 再び守紋符は鼓動のように光り続けた。

 しばらく歩くと、また守紋符の光が消えた。

 第二王子“倫”は立ち止ってみたが、曲がり角はなかった。

 立ち止った右側を見ると扉があった。

 扉の方を向くと、再び守紋符は鼓動のように光り続けた。

 扉には

『この紋様が見える方、同じボタンを押してください』

 と書いてあった。

 扉の真ん中に、守紋符に描かれている(かえで)と同じマークがあった。

 取っ手の横には、波のようなマークと楓のマークのボタンがあった。

(これか……)

 楓のマークのボタンを人差し指で押すと、

 ポンッと小さな音が聞こえて、扉が奥へと開いていった。


「扉を閉めて」

 落ち着いた静かな声が聞こえてきた。

 第二王子“倫”は扉を閉めて、中を見た。

 中は少し薄暗かったが、中の様子はよく見えた。

守紋(しゅもん)に導かれたのだね」

 落ち着いた静かな声の方を見た。

 少し年配に見える女の人が、カウンターの向こう側から話しかけてきた。

 第二王子“倫”は危険はないと感じ、カウンターの椅子に座った。

「今の社会は全てデジタル化されていることは知っているね」

「はい。コードノヴァの世界……ですね」

「あぁ、そうさ。このコードノヴァのデジタル社会とは、全く分離された状態で、アナログだけの世界が存在していることは?」

「アナログ……?」

 第二王子“倫”は初めて聞く言葉に、少し戸惑った。

「本物や歴史を知らない君たちは、説明を聞くよりも行ってみた方がいい。行ってみるかい?」

 第二王子“倫”は全てがどうでもよくなっていたので、

 行けと言われれば行けばいいさと思った。

「はい――」

 女の人はニコリと微笑んで続けた。

「君は王族のワタリビトだから、その守紋が導いてくれる。手のひらに守紋符を乗せてごらん」

 倫が手のひらを上に向け乗せると、

 守紋符はくるりと回転するとポンッと楓と鹿が出てきた。

 そして、辺り一面、赤や橙色に紅葉した楓の木々が広がっていった。

 ――なんて美しいんだ。

 楓のグラデーションが広がっていく色彩美に魅入ってしまうほどだった。

 落ち葉をざくざくと踏みしめる音の方を見ると

 鹿が首を下げていた。

 まるで背中に乗れと言っているようだった。

 第二王子“倫”は鹿の背中に乗った。

 すると、楓がぐるぐると渦を巻きながら包み込んできた。

 目に当たりそうで、ぎゅっと目を閉じた。

 そして、目を開けた。


 ――懐かしい。

 大きな大きな青い透き通る空が広がっていた。

 それは、今まで見ていた空とは似ているようで違っているものだった。

 白い雲が流れていた。

 頬に当たる風が気持ちよかった。

 鳥の声が聞こえた。

 全てが似ているようで違っていた。

 柔らかかった。

 心から何かがこみ上げてきた。

 初めて見る風景なのに、懐かしかった。

 “ソラクア”に初めて来た日だった。

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