別離
東の隣国である奈国は中立国として、
宇宇国と良好な関係を続けていた。
毎年、奈国への友好の証として、使節団を送り交流していた。
第二王子“倫”が19歳、王女“澪”が17歳の秋のことだった。
この年の使節団には、王女“澪”が行くこととなった。
その知らせを聞いた第二王子“倫”は、国王の元へ行った。
「国王、私を使節団の護衛に入れてください」
「だめだ。お前は西の羽国へ行ってもらいたい」
「羽国へは私以外のものを」
「だめだ。羽国の軍備について調べてくるのだ。軍のことに関しては第一王子“健”よりもお前の方が長けておる」
「わかり……ました……」
それ以上は国王に意見することはできず、
第二王子“倫”は王の間を後にした。
このとき、第二王子“倫”は小さな胸騒ぎを感じていた。
奈国への使節団が出発する日よりも一日早く、
第二王子“倫”は、羽国へと出発することとなった。
その日の早朝、東の庭園では王女“澪”が日が昇らない内から待っていた。
「倫王子、お気をつけて」
王女“澪”は、首から銀色のネックレスを外した。
そして、第二王子“倫”へ手渡した。
「これは母から受け継いだものです。きっと倫王子を守ってくださります」
手渡されたネックレスを見ると、丸い玉のようなものがついていた。
そして、それを自分の首につけた。
「ありがとう。私はあなたに、あげられるものを身についけていない……」
「よいのです。ご無事で帰ってきてください」
「それは、あなたも同じです」
第二王子“倫”は、この時はじめて王女“澪”を引き寄せ抱きしめた。
心から全身が満たされていく感覚だった。
同時にこのまま時が止まれば……とも思った。
そして、それが王女“澪”を見た最後の姿だった。
第二王子“倫”が羽国に向かった2日目の午後、知らせが届いた。
奈国に向かう途中、王女“澪”が乗った専用機が事故にあったと。
第二王子“倫”は、すぐに宇宇国へ引き返した。
――おかしい。コードノヴァの世界では全てが電子制御されているのに、事故などないはずだ。
あの時感じた小さな胸騒ぎが大きくなっていき、緊張していくのが分かった。
「志々度中隊長、直ぐに事故現場へ向かう」
「倫王子、すでに事故現場は片づけられているそうです……」
志々度中隊長は続きの報告を言えずにいた。
そのまま終始無言で、宇宇国についた第二王子“倫”は王宮へ向かった。
「王女は!王女はどこにいる」
王宮の全ての人は暗い顔で、第二王子“倫”と顔を合わそうとしなかった。
「倫……」
第一王子“健”が階段を降りてきた。
「こちらだ」
そういうと、北塔に第二王子“倫”を連れて行った。
――まさか!まさか。
第二王子“倫”は背中が冷えていくのを感じた。
足の感覚がなくなっていきそうだった。
第一王子“健”が、北塔の扉を開けた瞬間、
何が起こっているか理解できなかった。
目の前には棺が一つ置かれていた。
棺の横では王妃が涙を流していた。
早く確かめたいのに、足は少ししか動かなかった。
「倫王子……見ない方が……」
王妃が擦れる声で言った。
「専用機ごと炎上してしまったのだ。もう分かる状態じゃない」
第一王子“健”が静かに言った。
それでも一目確かめたかった。
第二王子“倫”は、震える手で棺をゆっくり開けた。
その場に崩れ落ちた。




