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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
守紋と宿命:Heart or Crown【第三章 第一部】
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出逢い

 守紋符(しゅもんふ)を国王から受け取ってから五年。

 守紋符に変化もなく、どう使うかも分からず、

 いつも通りの年月が流れていた。

 その間も南側の隣国、宇田国(うたこく)とは小競り合いが続いていた。

 転機が訪れたのは、第二王子“(りん)”が16歳になった年だった。

 第一王子“(けん)”は17歳、第三王子“(みん)”は14歳になっていた。

 隣国の宇田国の王が国内のクーデーターで亡くなり、

 宇宇国(ううこく)が宇田国の内乱を沈めることとなった。

 その際、宇田国は宇宇国に吸収されることとなった。

 宇田国の王族は、王妃と王女の二人しか残らなかった。

 宇田国の王妃は、宇宇国の国王の第二王妃となった。

 宇田国の王女は、宇宇国の第一王女となった。

 そして、王妃と王女が宇宇国にやってきたのは、秋のことだった。


 第二王子“倫”は、王の間から出て扉を閉めたところだった。

 廊下の奥から人が来る音と気配を感じた。

 廊下の窓側の方を歩いて進んでいると、

 角を曲がってきた三人の姿が見えた。

 一人は井々田(いいだ)総大臣だった。

 その後ろを歩く二人はドレス姿だった。

 ――珍しいな。誰だろう。

 と、すれ違いざまに顔を見た。

 瞬間、時が止まったかのように感じた。

 目が離せなかった。

 その人は見ていることに気が付いたかのように

 すれ違う瞬間にゆっくりと顔を上げた。

 透き通るような肌に、漆黒の黒髪がサラリと揺らいだ。

 目と目があった。

 吸い込まれていきそうな瞳だった。

 お互いに歩みを止めることはなく

 目を見つめながら横を通り過ぎた。

 そして、第二王子“倫”は、歩みを止めて振り返った。

 井々田総大臣が、王の間の扉の前で言った。

「王妃と王女がお着きになりました」


 宇田国の宇宇国への吸収は、粛々と執り行われた。

 王妃と王女が国内外にお披露目されることもなかった。

 国王が、王妃と王女を守る意味もあったのだろう。

 第二王子“倫”が、次に王女と会ったのはそれから一週間後だった。

 東の庭園は第二王子“倫”の居室から一番近い庭だったので、

 早朝、稽古などをしていた。

 いつものように稽古をしていると、

 木の影からカサッと音がした。

「誰だ?」

 第二王子“倫”が音のする方に声かけた。

 カサカサッと音と共に現れたのは、王女だった。

 思いがけない再会に動けなかった。

 瞬間、時が止まったかのように感じた。

(みお)と申します」

 ゆっくりと歩いてきた。

 一歩一歩近づいてくる毎に

 惹かれる……引き寄せられるような感覚が増していった。

 目が離せなかった。

 手が届くところまで来ると立ち止った。

「あの……お名前をお伺いしても……」

 小さな声だった。

「第二王子の倫……と申します」

 思わず、頬に触れるのを止めることができなかった。

 そっと頬に触れると、手のぬくもりを感じるかのように

 王女は目を閉じた。

「――倫王子、庭にいますか」

 後ろの方から声が聞こえてきた声にハッとして手を離した。

 王女“澪”は振り向いて庭園から歩いていった。

「今日の朝会は取りやめだそうです」

 第二王子“倫”の護衛である志々度(ししど)中隊長が伝えに来た。

「分かった」

 第二王子“倫”も振り向いて、志々度中隊長と共に建物に戻っていった。

 ――なんだったんだ。あの感覚は。

 胸が熱く高鳴っていく感覚を忘れられずにいた。

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