継承
――美しい。なんて綺麗なんだ。
第二王子“倫”は、目の前に現れた鹿と萩を眺めながら思っていた。
少し輝いているようにも見えた。
「古から動物と自然は幸運を運ぶ人の守護として存在していた。動物や自然のものが組み合わさり、人を守護してくれているものが、“守紋”と呼ばれている」
国王は続けた。
「このように動物の姿になったり、守紋符と言われるカードの形になったりする」
国王が手のひらを上に向けると
鹿はくるりと回転し、
ポンッと一瞬で守紋符に変わり、国王の手のひらに収まった。
国王は、第一王子“健”へその守紋符を手渡した。
「おまえの守紋は“萩鹿”だ」
「さきほど見た鹿と萩ですね」
第一王子“健”が言った。
「そうだ。第二王子が“楓鹿”、第三王子が“菊鹿”だ。代々、王位継承者に“萩鹿”を継ぐこととなっている」
第一王子“健”が顔を上げ、国王の目を見た。
国王も第一王子“健”の目をしっかりと見ていた。
第二王子“倫”は横で、第三王子“明”が一瞬悔しそうな表情を浮かべた気がしたが、
この時はさほど気に留めなかった。
「気づいていると思うが、我が王族の鹿角の家紋と同じ鹿だ」
三人とも、国王が座っていた椅子を見た。
椅子の背もたれには鹿角の家紋が施されてあった。
「古から宇宇国の守護の一つは鹿である。これが必要な時は、おのずと分かるはずだ。全ての人が守紋を見れるわけではない。むやみに人には見せないようにすることだ。もう、下がってよいぞ」
国王は後ろを向き、国王の椅子に戻った。
三人は、一礼して王の間を出た。
三人は廊下を歩いていた。
守紋とはなんだ?どんな時にどんな風に使うのだ?
知りたいことはたくさんあったが、
国王はいつも言葉少なかったので、
これ以上は何も聞けないだろうと三人とも思っていた。
この時、第一王子“健”はこの時12歳、第二王子“倫”は11歳、第三王子“明”は9歳だった。
年齢も近かったので、子供の頃はよく三人一緒に王宮で、遊び、学んでいた。
自然とその頃、よく遊んだ南の庭へと足が向いていた。
第一王子“健”は、守紋符を手のひらに置いて眺めた。
「美しいな」
「そうですね。まだただのカードにしか見えませんけど、ね」
第二王子“倫”も答えながら、守紋符を眺めた。
第三王子“明”は違っていた。
(健兄上は病弱で優しすぎる。倫兄上はただ武道に優れているだけだ。文武ともにバランスが取れている私こそが王に相応しいのに。ただ生まれた順番が最後だということだけで……)
まだわずが9歳ながら、
心の奥から湧き上がってくるその感情に
第三王子“明”自身は気づいているのだろうか。
まだ無意識下であるのか。
何も言わず、何も表情も変えることなくそこにいた。
「今日は、兄上の12歳の誕生パーティーですね。そろそろ着替えて広間にいかなくては」
「そうだな、ではまた広間で会おう」
第一王子“健”はそう答えると、
三人とも別々の方向にそれぞれの部屋に戻っていった。




