扉の中
扉の中は、一面コードの波だった。
「これは……」
亮が周りをぐるりと見ながら行った。
「ネオコードノヴァの中の一つだね」
環が答えた。
環は、この扉の中に入った瞬間に、
自分自身がここで何ができるか分かった。
幼いころから情報電子工学の家庭教師が家に来て学んでいた。
幼いころからそうだったので、当たり前の日常だった。
そして、それはきっとよい先生だったんだろうと思う。
何が表示されているか全て分かったからだ。
そして、母親は予想して準備していたんだろうと思った。
環はバーチャルキーボードを表示すると
素早くキーを打ち始めた。
「電子守紋はいらない。元のネオコードノヴァとして人を守るようにするんだ」
ズズゥンッ!
扉に大きなものが当たるような音がして震えた。
「もう少し…」
環はキーを打ち続けていた。
「できた!」
環は悠と亮の顔を見ると
「早くここを出よう。再起動をかけた」
三人は再び麒麟の背中に乗ると扉に向かって行った。
「大丈夫、すり抜けられる」
環は麒麟に言うと同時に外に出た。
そして、麒麟は上へと駆けるように飛んだ。
ギギギッ!
直ぐ下で音がした。
下を見ると、扉の前にいた電子守紋の麒麟が追いかけて来ていた。
しかし、黒い炎はもうなかった。
環と亮は守紋の牡丹蝶を出し、
悠は守紋の竹虎を出し、
白と薄紅色と紫と青色の蝶と
竹の葉が渦を巻くように電子守紋の麒麟を阻んだ。
電子守紋の麒麟が滲むようにうっすらと姿を消していくのが見えた。
ぶわっと新鮮な風と光を感じた。
見覚えのある景色が目の前に現れた。
穴の中から、続けて蝶と竹の葉が出てくると
黒い穴はピタリと塞がった。
三人はそれぞれの守紋をしまった。
麒麟はゆっくりと三人を地面へとおろした。
すると大空から雲が降りてきて、
麒麟をふわりと囲んだ。
「――天と地を結ぶ“瑞雲”か」
亮がその姿を見ながら言った。
輝く黄色に赤い炎をまとった麒麟に、瑞雲が加わった。
その姿は更なる威厳と輝きがあった。
「あなたは、ここに来ていた麒麟なのか」
亮が麒麟に向かって言った。
「そうだ。これからも何度でも何度でも希望持ち続けよう。それを君たちから教わった」
そういうと、くるりと回転し、
ポンッと一瞬で“瑞雲麒麟”の守紋符となり、
環の手の上にふわりと浮かんだ。
環はポケットから守紋符を入れる美しい織物袋の“金蘭簿”を出して、
“瑞雲麒麟”の守紋符を他の守紋と同じようにしまった。
「助けてくれてありがとう」
環は、悠と亮の方を見て言った。
「夏休みは僕が助けられたんだ」
悠が、存在を確かめるように環の肩に触れて言った。
「亮伯父さんの蝶は、白や薄紅色だったんだね」
「そうだ。君のお母さんのと交換したからね。今は、君が青と紫色の蝶を持っている」
「温泉に入ってもいい?」
環が亮に尋ねた。
悠もそうしたいという顔だった。
「もちろんだよ」
微笑みながら亮が答えた。




