覚醒
「早くここから出なくては」
牡丹蝶の守紋符をしまい、亮が上を見上げながら言った。
「この…」
亮が環と悠に話しかけようとした時、声がした。
「落ちぬか……」
電子守紋の麒麟が目の前にいた。
「おまえは本物の麒麟とは全く違う!」
覚醒した環が力強く言った。
「麒麟を丸ごとコピーしたと言ったけど、おまえは破壊や争いを生むばかりだ。だけど、本物の麒麟はそんなことは望んではいない!」
「私は知ったのだよ。過去の歴史と繋がった時、古の歴史を知ったのだよ。古から、人々の歴史は戦いの歴史ばかりだ。人には戦いが必要なのではないのか?だから、守紋の敵である電子守紋を作ったのだよ」
電子守紋の麒麟は続けて言った。
「お前も今、私と戦おうとしているのではないか?」
環は言葉を失った。
「環、きっと答えは自分の中にあるんだ」
環の横に立った悠が言った。
環は確かめるように自分の中に問いかけた。
「この電子守紋の麒麟から皆を守りたいと思う」
そして、環は電子守紋の麒麟を見ながら続けた。
「――電子守紋の麒麟は、本物の守紋と同じように人を守れないのかな?」
「ふっ、戯言を。私はそんな風には作られていない」
電子守紋の麒麟はすぐに言葉を返した。
環は、電子守紋の麒麟が、
僅かに後ろをかばうようにする仕草を見逃さなかった。
太い蔦の向こうに一つの扉が見えた。
亮は麒麟を見ていた。
環が確かな言葉を発する毎に
鮮やかな色彩が戻っていく姿を。
悠は気づいていた。
環が電子守紋の麒麟の後ろにある扉を見つけたことを。
環がその扉の方へ一歩踏み出した瞬間、
電子守紋の麒麟の黒い炎が勢いよく壁のように立ち上がった。
(あの扉の向こうに何かがある――)
胸が高鳴った。
その時、横たわっていた麒麟はむくりと立ち上がった。
環の動きと言葉に呼応するように
美しく鮮やかな色彩が戻っていた。
麒麟は力強く立った。
環、悠、亮はこの黒い炎を超え、
あの扉の向こうに行くことに
もう心が決まっていた。
麒麟はそのことが分かったかのように
少し屈んで、三人に背中に乗るように促した。
「そこの扉へ!」
環がそう言ったと同時に、
麒麟の周りに赤い炎が立ち上がり、黒いの炎の方へと
早い速度で地を這うように
黒い炎を払うように、広がり、立ち上った。
黒い炎の壁に少しの隙間ができたことを
見逃さず、麒麟は飛び出し、
黒い炎も電子守紋の麒麟も超えて行った。
そして、電子守紋の麒麟が追いつくよりも早く、
扉の中に入っていった。




