消えた麒麟
闇――という言葉が環の頭から離れなかった。
胸のあたりがずぅんと重くなり、
呼吸ができているかどうかも分からなかった。
足に力が入らず、地面に手をついた。
そうしたかった。
頭も体も胸も何もかもが重かった。
地面についた手の下の土が染みのように黒くなっていった。
周りを侵食していくように黒は広がっていった。
何も感じることなく、その黒をただただ見ていた。
「環!見るな!」
頭の後ろの方で悠の声が聞こえた。
黒は環の手元で足元でじわじわと広がっていった。
環はただただ黒を見ていた。
環の体がすっぽりと入るくらいの大きさになった時
(落ちて行きたい)
環はそう思った。
その瞬間、環の体は黒に暗闇に吸い込まれていくように
ゆっくりと落ちて行った。
それは一瞬だった。
「環!」
悠が、環の後を追うように黒い闇の中へ飛び降りた。
(行くしかないか)
亮も続けて飛び降りた。
――落ちていく。
早いとも遅いとも感じない速度で落ちているのが分かった。
ほどなくして、足が地面のようなところに着いたのが分かった。
真っ暗闇だったが、
環は目の前に何かが横たわっているのが分かった。
ゆっくりとそれに近づいて行った。
さっき見た麒麟と同じような黒い麒麟だった。
環はその麒麟の横に座った。
環は背中をそっと麒麟につけて座った。
柔らかかった。
触れたところから、
スゥッと麒麟の感情が流れ入ってくるような感覚になった。
深い絶望感に孤独に
頭も体も浸食されていくようだった。
(もう私の言葉は届かなくなった……)
環は見て感じていた。
美しく力強く輝く麒麟が、
古から数多くの国王や将軍と出会って来たことを。
国同士が争わず、平穏に暮らすことを説いてきたことを。
しかし、何千年も前から繰り返される戦いと悲劇を。
いつの間にか、
誰も麒麟の姿を見ることも
声を聞くこともなくなったことを。
寂しさと虚しさに満たされていった。
環の心も共鳴していた。




