黒い麒麟
「さて、まずは私の千鳥を返してもらおう」
電子守紋の麒麟は、黒い炎を建物の中にスルリと滑らせ
黒い炎で千鳥を手元に戻そうとした。
その時、竹虎が竹で叩き落そうとしたが、
黒い炎に竹は焼かれみるみるうちに灰になった。
「敵うか……?」
亮が守紋符を出した。
くるりと回転すると、ポンッと波千鳥が現れた。
波千鳥は、波をロープのようにうねらせ、黒い炎に纏わりついた。
ブワッと波は粒に飛び散り、千鳥は亮の元へと戻ってきた。
亮はその時、思い出した。
鮮明に記憶が蘇り、頭の中で何かが繋がった感覚があった。
あの時、亮が見た麒麟は、輝く黄色で赤い炎だった。
姿、形、大きさもあの時の麒麟とそっくりだが……
しかし、今、目の前にいる麒麟は、黒い。
炎まで黒だ。
そして、『消えた麒麟』の話が脳裏をよぎった。
世界が、ソラクア、ユニア、コードノヴァに分断された離間事変の時に、
守紋の麒麟の姿も消えてしまった。
という話が頭に浮かんだのだ。
その話はただの噂話だと思っていたが、
この黒い麒麟と何か関りがあるのではないかと直感的に感じていた。
「しかし、守紋の麒麟が、電子守紋に変わるなんてありえない」
亮は思わず言葉にしていた。
電子守紋の麒麟はその言葉を聞き逃さなかった。
「ほぉ…。私が麒麟の守紋と気づいたか」
ゆっくりと亮の方を見ながら言った。
「いや、お前は麒麟の守紋ではない!」
「何が違うというのだ」
「姿、形は同じだが、色も声も違う!」
「何が違うというのだ。今の私は、あの麒麟を丸ごとコピーしたのだよ」
「お前は黒い。本物の麒麟は美しい色だ」
「今あの麒麟は黒いさ。全てに絶望して何もかも黒い」
「まさか……。闇にいるというのか」
亮は信じられないという顔で、一歩後ろに下がった。
悠は竹虎といつでも動けるよう構えたまま、
亮と電子守紋の麒麟との会話をじっと聞いていた。




