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求古綺譚:Lucky Lore  作者: いろは
守紋の記憶:Echoes of the Lost Realms【第一章 第一部】
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再生

 二十階はあるかと思う高い建物の屋上だった。強めの風が当たっていた。三人は静かにそれを見ていた。

日烏(ひのからす)――。本当にいたとは」

 倫は自分自身に言っていたようだった。

 それは真っ黒い烏だった。大きな烏が目の前に羽を広げて浮かんでいた。

「足が三本しかない」

 (たまき)が口を開いた。

「そうだ三本足。伝承だけだと思っていたが」

 (りん)は動くことなく言った。

 その時、(ゆう)はポケットが熱くなっているのを感じた。ポケットから金蘭簿(きんらんぼ)を出すと中から、守紋符(しゅもんふ)が飛び出してきた。倫も環も同時に金蘭簿を出していた。

 四枚の守紋符から、雪輪兎(ゆきわうさぎ)竹虎(たけとら)鱗桜蝶(うろこさくらちょう)流水楓鹿(りゅうすいふうろく)雲龍(うんりゅう)が現れ、三人を守るように烏との間に立った。

 空に浮かんでいた烏は突然、大きく羽をさらに広げ、三回ばさっばさっと羽をばたつかせると三羽の烏になった。

「お前たちはここから立ち去れ」真ん中の烏の低い声が響いた。

「お前たちはここから立ち去れ」左の烏の低い声が響いた。

「お前たちはここから立ち去れ」右の烏の低い声が響いた。

 その声は、まるでソラクア、ユニア、コードノヴァのそれぞれの世界から拒絶されているようだった。三羽の烏が動き出そうとしたその時、雲龍が素早く飛んで行き、雲で烏の後ろの太陽を覆った。

 雪輪兎が吹雪で、鱗桜蝶が桜吹雪で、流水楓鹿が水流で、三羽の烏を攻撃した。

 しかし、すぐに跳ね返されてしまった。

 悠の脳裏に黒龍と戦った時のことがよぎった。

(世界のバランス……。太陽とのバランスは……月。それならば――!)

 金蘭簿から月兎(げっと)の守紋符を出した。守紋符はくるりと回転して、白く輝く月兎が現れた。

 月兎は悠の意図が分かるように、三羽烏の後ろの太陽へと飛び込んでいった。飛び込んだ月兎は月を太陽に被せようとしたが、そのまま太陽に飲み込まれてしまった。

 三羽の烏は同時に言った。

「お前たちはここから立ち去れ」

 さっきよりも強い拒絶を感じた。

 悠はその時、高祖父のことを思い出した。もう一枚の守紋符を金蘭簿から出すと、守紋符はくるりと回転して桐鳳凰が現れた。金色と赤色の美しい鳥だった。

「どうしたいですか?」

 桐鳳凰は悠に向かって静かに尋ねた。

「僕は……三つの世界が一つに戻ってほしい」

「その選択に迷いはないですか? 今、この瞬間、少しでも迷いがあると、この世界は二度と一つに再生されることはないでしょう」

 悠はドキリとした。その選択の重さに胸がヒヤリともした。

 悠は、倫と環、そして守紋たちを見た。まっすぐ僕の方を見ていた。みんなが僕を信じてくれている目だと伝わってきた。おなかの下あたりが熱く重くなっていくのを感じた。

(自分を信じる――。みんなを信じる――)

 悠は深呼吸した。

「ソラクアもユニアもコードノヴァも一つの世界に再生してほしい」

 桐鳳凰をまっすぐ見た。

 桐鳳凰はうなずくと、悠の意図が分かるように三羽の烏の前に飛んで行った。しかし、桐鳳凰よりも早く三羽の烏は飛び出し、桐鳳凰の羽と長い尾を突いた。桐鳳凰は今にも落ちていきそうだった。

 すると、竹虎が桐鳳凰の方へ飛び出し、竹から実を出し鳳凰を守るように散りばめた。桐鳳凰はさらに大きくなり、桐竹鳳凰(きりたけほうおう)となった。そして、巨大な羽で三羽の烏を覆いこんでしまった。金色に輝きが増していき、羽の間から漏れる光が弱まっていくと、桐竹鳳凰はゆっくりと羽を広げた。

 そこには金色に輝く一羽の烏が浮かんでいた。

金烏(きんう)となるか!」

 倫が驚いた顔で言った。そして、はっとした顔になった。

「まさか……」

 桐竹鳳凰は、さらに大きな羽で金烏と後ろの太陽を覆った。一瞬大きな光が羽の間から漏れ、それが消えると、桐竹鳳凰は再び、ゆっくりと羽を広げた。

 そこには一枚の守紋符があった。

 守紋符はすぅと悠の手のひらの上に来た。そこには太陽と烏、月と兎が描かれていた。

金烏玉兎(きんうぎょくと)――」

 倫がつぶやいた。

「さぁ、帰りましょう」

 桐竹鳳凰は三人に向かって言った。桐竹鳳凰はくるりと回転すると大きな屏風となった。それは、名前のない店で見た屏風と同じものだった。

(入るときは右側から、出るときは左側から)

 悠は、その言葉を思い出した。

 守紋たちはくるりと回転して、それぞれの金蘭簿に戻っていった。金烏玉兎の守紋符は、悠の金蘭簿へと入っていった。

「さぁ、戻ろうか」

 倫はそう言うと屏風の左側へ足を踏み入れた。

「また、学校で会おうね」

 環はそう言って屏風の左側へ進んでいった。

 悠は、ユニアの世界をもう一度目に焼き付けておこうと、後ろを振り返った。そして、屏風の左側へ入っていった。

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