ユニア
「世界はもう一つある」
もう一度そういうと、静かに続けた。三人ともそのまま動くこともなく聞いていた。
「アナログの時代ソラクアから、デジタルの時代コードノヴァに移行するアナログとデジタルが共存していた時代があった。その移行期の時代が、もう一つの世界として分断されている」
「アナログとデジタルの共存……?」
高祖父は悠の方に向かって話を続けた。
「そうだ。電気が誕生し急にデジタルだけの社会になったわけではない。少しずつ、デジタルが発展していく間、アナログもあり、デジタルもあり、人は両方ある社会で暮らしていたんだよ」
「その世界は今もあるんだね」
悠は少し力強い声で聞いた。
高祖父は深くうなづいた。悠は、倫と環の方を見た。二人とも近くに歩いて寄ってきた。
「ユニア――。その世界をそう呼んでる。コードノヴァに気づかれないようそこに行く術をずっとここで守り、待っていた」
高祖父が手のひらを上に向けると車輪が二つ付いた車のようなものが乗っていた。
「この御所車がその世界への入口だ」
御所車は輝きながら部屋いっぱいに大きくなった。黒と金色で美しく輝いていた。
「さぁ、早く乗りなさい。今の動作でコードノヴァに気づかれてしまったかもしれない」
倫、環は御所車の後ろから揺れる布を左右に開いて入っていった。
悠も後から続き乗り込むと、
「待ちなさい。これを!」
高祖父が何かを差し出した。悠は振り返って閉じかけた布を開き、それを受け取ったと同時に布が閉じ、高祖父の姿は見えなくなった。
手を開いてみると、それは守紋符だった。
「桐鳳凰か」
守紋符を見ながら倫が言った。
ふわりと浮いた感覚から、ずしんと重力を感じる感覚に変わったので、到着した気がした。
布を開いて辺りの様子を伺い、外に出た倫に続いて、環が出ていった。悠は急いで、守紋符を金蘭簿にしまい後をついて出た。金蘭簿には御所車の紋様が加わっていた。
御所車から降りると路地裏のようでアスファルトの道路だった。車の走る音がする方を見ると倫が歩いて行っていた。路地裏を出ると大きな道路に出て、車がたくさん走っていて、ビルなどが立ち並び、街路樹があった。
「コードノヴァの建物よりずいぶん古い感じだね。車もなんというか……古い」
環が周りを見渡しながら言った。
「街路樹はソラクアで見たのと同じようだ」
悠が続けて言った。歩道を歩く人たちは三人を気に留めることなくせわしく歩いていた。
「本当にソラクアとコードノヴァがごちゃまぜにあるようだね」
環が興味深いといった表情だった。
倫は静かだった。静かに見ていた。悠はその視線の先を追ってみた。
(太陽? いや違う。太陽は僕たち背中にある)
得体の知れない何かに背筋がぞくりとした。それは、もう一つの太陽のようだった。太陽の中に黒いものが見えた。
「とり……?」
つぶやいた瞬間、倫が悠を振り返った。ばっとそれを口にしてはいけないという顔でもう遅いという顔でもあった。体はもう重力を感じていなく、一瞬でどこかの屋上にいた。




