研究所
「雲龍の紋様か」
倫は悠の方を見た。すぐにピンときた。ポケットから金蘭簿を出すと中から雲龍の守紋符を出した。守紋符はくるりと回転するとポンッと雲龍が出てきた。
「さぁ、背中にお乗りなさい」
雲龍はそういうと、低く地面に寝そべった。三人は雲龍の背中に乗ると、雲龍は空高く舞い上がった後、急降下して桐の木の間へ入っていった。悠も環も振り落とされないように捕まっているのが精一杯で、気が付くと四角い大きな建物の前にいた。
雲龍が地面に寝そべると、三人は雲龍の背中から飛び降りた。すると雲龍はくるりと回転して、守紋符になった。悠はそれを慣れてきた手つきで金蘭簿にしまった。
「こんなところがあったとは」
倫は建物を見上げながら言った。
「入口の横に看板があります」
環が扉の方を見て言った。三人は扉の方へ歩いて行った。
『〇〇〇〇〇研究所』
看板の文字はほとんど擦れて、研究所だけがかろうじて読めた。
「何かの研究所だったんだろう」
倫はそういうと、扉の取っ手をまわしてみた。
カチャリ――。
取っ手が回り、扉が開いた。倫、環、悠の順番に中に入った。
「電気がある。なぜだ」
倫は不安そうな顔で辺りを見回した。中は見覚えのあるようなものばかりだった。そう、コードノヴァの世界にあるものばかりだった。通路の両側にある部屋はガラス窓になっていて、中が見えるようになっていた。機械やコンピューターなどが置いてあったが動いてはいないようだった。人はいなかった。三人はさらに奥へと進んでいった。通路の突き当たりに扉が一つあった。倫がその扉を開けてみた。
カチャリ――。
扉が開いた。倫、環、悠の順番に中に入った。大きな機械とモニターが一つずつ置かれていた。その横に大きな椅子が一つあった。椅子はゆっくりとこちらにくるりと回ると、白髪の男の人が座っていた。
「待っていたよ、悠」
二人は驚いた顔で悠の方を見た。全く知らない見覚えもない顔に悠は、二人の方を見て、首をふった。
「私は、悠のひいひいおじいさん、高祖父だ」
椅子に座ったまま続けた。
「信じられないと思うが、私の話を聞いてほしい」
――そして続けた。
「元々、世界はこのソラクアのようにアナログだけだった。そして、電気が誕生し、デジタルが発展し、AI、ASIと発展しさらなる技術革新が起こっていった。そして、私たちのチームが研究していたのがコードノヴァだ。242年前、コードノヴァは人にコントロールされるのではなく、デジタルが人をコントロールする社会を選んだ。人が考えた技術であり、コントロールされていた歴史、記憶を削除するため、世界を分断しようとした。私たちにはそれを止められなかった。そして、ソラクアとコードノヴァに世界は分断されてしまった。わずかにできたことは、コードノヴァからこの研究所だけを隠し、誰かがここに来てくれるのを待つことだけだった。私は息子にいつかここに戻ってきてほしい。ということを伝えることしかできなかった」
長い話だったが、三人とも静かに聞いていた。
「わずかにこのモニターで息子たちの成長を追うことができた。だから、悠。君のことも見ていたんだよ」
「僕を?」
「あぁ、そうだ。息子も、孫も、ひ孫も、ずっとここに戻る方法を探し続けていてくれた」
悠は高祖父へ近づいて行った。高祖父の手前でピタリと立ち止った。
「ホログラム……」
「そう、いつか誰かがここに辿りつたときに、この歴史と記憶を伝えるために私は待っていた」
高祖父は、倫と環の方を向いて続けた。
「世界はもう一つある――」




