コードノヴァ
僕は悠。今、とても混乱している。
「ちょっと待ってよ、分けわかんないよ」
夕食を終えた家のダイニングで目の前に座っている父さんと母さんを見た。
「そうだな。もう一度ゆっくり話そうか」
「いや、言ってることは分かるんだけど……」
そう言いながら僕は、二人が嘘を言ったり、冗談を言っている顔ではないということを分かっていた。
「つまり……今の世界は全部がコードノヴァっていうコードで作られていて、その機関で父さんは働いていて、その仕事は門外不出で、僕もその仕事をするかどうかをこの夏休みの間に決めなくちゃいけないってこと?」
「まぁ、そういうことだな」
「なんで急にそんな……」
「そういう決まりなよ」
静かに母さんが言った。
「父さんと同じ機関に入るなら、専門に学ぶ学校が4月から始まるの。そこに行くかどうかを夏休みが終わるまでに決めなくちゃならないのよ。それをあなたに伝えるのも、12歳になった夏休みが始まる日というのも決められてしまっているのよ」
仕方がないのよ……という顔で僕を見た。
「コードノヴァってなんなのさ」
お茶を飲んでいた父さんに向かって聞いた。湯呑みをコトリと置き、ゆっくりと話し始めた。
「今は完全デジタル社会だ。全てコードで、電子制御されている。天気も気温も自然も何もかも電子制御されているんだ。それら全てを統制しているのがコードノヴァだよ。人が生きられるように、そのコードノヴァの元で少数の人たちが働いている機関があるんだ。父さんもその機関にいるんだ。悠が今日まで知らなかったように他の人もコードノヴァのことも知らないし、電子制御されていることも知らない。本当に一部の限られた人たちしか知らないんだよ」
そう説明すると父さんは再びお茶を飲んだ。
どうやら、父さんの勤めるその機関というのは、この社会の中でも特殊な機関らしく、そこで働く子供が引き継いで門外不出を守ってきたらしい。父さんも12歳の時に同じようにじいちゃんから言われたそうだ。
「そのコードノヴァっていうの僕は見れるの?」
「それは無理だ」
即座に言い返された。
「じゃぁ、どうやって決めればいいのさ。父さんの時はどうしたの?」
「今日すぐに決めなくてもいいんだ。1か月くらいあるんだ。夏休みの間に考えればいい」
「考えるたって……」
「また明日も続きをゆっくり話そう」
「そうよ。今日はもう寝なさい。明日、また、ね」
椅子から立ち上がりながら母さんが言った。
「分かったよ……」
僕も立ち上がりながら、リビングのテーブルに上に置いた袋を見た。食事が終わったら部屋に行ってしようと思っていたのに、さっき買ってきたゲームはすっかり色あせて見えた。
(なんてことだ! 最悪の夏休みになりそうだ)
僕の夏休みはこうして始まった。