8.トリント
「うお!? 本当にこの人数を2人で倒したのか……?」
トリントの衛兵は、信じられないとでも言いたげな顔で野盗だった者たちを見つめた。
俺たちはトリントの門をくぐると、まずは門を守備する衛兵の詰所を訪れていた。
道の途中に倒した野盗の報告をするためだ。
「――ゼフだ! こいつは賞金首だぞ」
「他にもちらほらいるな。こいつは大手柄だな。証文を渡すから冒険者ギルドで換金してくれ」
衛兵から証文を受け取る。
「ああ、わかった」
「これで街道の危険も減ることだろう。君たちのおかげだ、感謝する」
衛兵たちのお礼を受け、俺たちは詰所をあとにした。
「ふぅ、疲れたな」
「結構時間掛かっちゃいましたね」
すでに太陽は傾きかけ、夕方という時間帯だ。
街の中には色とりどりの屋台や露店が並び、まだまだ活気溢れる光景が広がっている。
だが、長い旅路の果てにようやく辿り着いたのだから、少しは休むことを考えてもいいだろう。
俺たちの次なる目標は、まずは宿探しだ。
「さっそく宿探しだな。街にいるのに野宿は勘弁だからな」
「シェイドさん、宿はどこにしましょうか?」
エリスが期待に満ちた目で問いかけてくる。
俺は少し考え、
「まずは街の中心部に行ってみるか。値段は高いかもしれんが、そこなら見つかるだろう。できれば食事もできる宿屋を見つけるのが1番だ」
今から歩き回るのも大変なので、なるべく楽に見つかりそうな場所を提案する。
「わかりました。ターリスで泊まった場所みたいなところだといいんですが……」
「そうだな。きっといいところがあるさ」
街の中心部に向かって歩いていると、通りに面した宿屋がいくつも見えてきた。
その中で、目立つ看板を掲げた宿屋をあえて避け、少し控えめな宿屋に近づく。
『金の蜂蜜亭』という名前の宿屋だ。
メイン通りに近いため外観も綺麗で、なにより獣人種が入っていくのも見えた。
ここならいいだろうと、俺たちはその宿屋に入ることにした。
宿の中も清掃が行き届いた綺麗な内装で、受付には笑顔の女将が立っていて、俺たちを迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お泊りですか?」
「ああ、彼女と部屋を分けて1泊頼む。食事は……そこでできるかい?」
女将はエリスをチラリと見たが、特に反応することはなかった。
よし、思った通りここは当たりだ。
ロビーの横には食堂が併設されていたので、ここで食事も取れるならありがたい。
「お1人様のお部屋を2つですね。承知しました。夕食と朝食がついておりますので、そちらの食堂にてお召し上がりください」
「それは助かる。いくらだ?」
「1泊15000アウルになります。お2人なので、30000アウルですね」
「ぅぐ……そうか、わかった」
高い、予想以上に高い。
ターリスの宿屋でも8000アウルで、それでも少し割高だと感じてたくらいだ。
ふっかけてるわけでもなさそうだし、やはり、街の中心部に近い宿屋は高級だな。
俺は銀貨で支払い、部屋の鍵を受け取る。
「お部屋は3階になります。ごゆっくりどうぞ」
階段を上り部屋の前でエリスと別れる。
彼女は「何から何まで本当にすみません。これからの報酬はすべてお渡しします」などと言っていたが、これくらいは安いもんだ。
荷物を置いて一息つき、再度部屋を出る。
いい時間になったので、このまま夕食だ。
さすがに高いだけあって、夕食は豪華なものだった。
焼き立てのパンに、新鮮な野菜とジューシーな肉料理。
旅の間はどうしても味気ない食事になるので、身体に染み渡るように美味い。
エリスも満足そうにしていて良かった。
「シェイドさん、この宿、とても素敵ですね」
「そうだな。これなら、ゆっくり休めそうだ」
エリスが微笑み、俺も微笑み返す。
明日はギルドに行く予定だし、今日はしっかりと休むことにしよう。
翌朝、久し振りにしっかりした食事と寝床のおかげか、スッキリした目覚めだった。
少し早めに目が覚めた俺は、エリスに声をかけ、軽く朝食をとってからギルドに向かった。
ギルドは街の中心にあるため宿からも近く、多くの冒険者たちが集まっていた。
「大きいな。ターリスよりも広いし、人も多い」
「ですね。活気があって生き生きしています」
チラリと俺たちのことを見るやつらもいたが、特に絡まれることもなかった。
よく見ると周りには獣人種も何人かいるし、エリスの言うように、皆元気があるように見える。
「俺たちも依頼を見てみようか。少し路銀を稼いでから移動するのもいいかもしれないしな」
「そうですね。私、頑張ります!」
やる気を出すエリスと一緒に、掲示されている依頼を確認する。
ターリスよりも王都に近いせいか、依頼も充実している。
「シェイドさん、この洞窟のゴブリン討伐ってどうですか?」
エリスが指さす依頼を見て、俺もそれに目を通した。
なんでも、ここからそう遠くない村の近くにある洞窟に、ゴブリンが住み着いて迷惑しているそうだ。
報酬も悪くない。
ちゃんとした討伐依頼を2人で受けるのは初めてだし、ちょうどいいかもな。
「そうだな、これにしようか。早速受け付けに行って手続きしよう」
「はい!」
俺たちは受付に向かい、依頼を受ける手続きをする。
受付嬢は若くて愛想が良く、俺たちににこやかに対応してくれた。
まったく、あの受付嬢にも見習ってほしいものだ。
「ゴブリン討伐の依頼を受けたいのだが……」
「いらっしゃいませ。失礼ですが、トリントのギルドは初めてのご利用ですね?」
「ああ、そうだ。拠点登録も頼む」
「はい、私もです」
「初めまして、リズと申します。いご、お見知りおきください。拠点登録とこちらのゴブリン討伐ですね?」
「ああ、俺の名前はシェイド。よろしく頼む」
「エリスです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします、シェイド様、エリス様。それでは少々お待ちください」
リズと名乗ったフワッとした金髪に上品な顔立ちの女性は、優しく微笑むとテキパキと作業を進める。
リズが手続きする間、俺は少し事情を説明することにした。
「すまない、後で証文の引き換えと魔物の買い取りもお願いしたい」
「証文の引き換えと魔物の買い取りですね。まず、証文はどのようなものでしょう?」
「これだ」
俺は衛兵から受け取った証文を手渡した。
「なんと……! あのゼフ一味を倒してくださったのですね。商業ギルドも困っておりまして、近々大規模な隊が編成されるとも言われてました」
そんな大事にまでなっていたのか。
衛兵たちが驚くわけだ。
「ありがとうございました。冒険者ギルドからもお礼を申し上げます」
リズは深く頭を下げた。
「後ほど報酬をお渡しいたします。まずは受注が完了しましたので、ゴブリン討伐よろしくお願いいたします。次に買い取りとのことですが――」
「ああ、それなんだが、ちょーっと大きさが……な」
「ですね……またギルドの中が壊れてしまいます」
「『また』、ですか?」
エリスの「また」という言葉に、一瞬目を光らせたような気がした。
さすが優秀なだけあって聞き逃さないな……。
「い、いえそのっ」
「エリス、ついでだしそれについても伝えておこう。どの道調べればわかるしな。すまないが、解体場ってあるだろ? 話はそっちでもいいか?」
リズは少し訝しげな顔をしながらも、別の職員と替わり、裏手にある解体場へ案内してくれた。
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