表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/39

8.トリント

「うお!? 本当にこの人数を2人で倒したのか……?」


 トリントの衛兵は、信じられないとでも言いたげな顔で野盗()()()者たちを見つめた。

 俺たちはトリントの門をくぐると、まずは門を守備する衛兵の詰所を訪れていた。

 道の途中に倒した野盗の報告をするためだ。


「――ゼフだ! こいつは賞金首だぞ」


「他にもちらほらいるな。こいつは大手柄だな。証文を渡すから冒険者ギルドで換金してくれ」


 衛兵から証文を受け取る。


「ああ、わかった」


「これで街道の危険も減ることだろう。君たちのおかげだ、感謝する」


 衛兵たちのお礼を受け、俺たちは詰所をあとにした。


「ふぅ、疲れたな」


「結構時間掛かっちゃいましたね」


 すでに太陽は傾きかけ、夕方という時間帯だ。

 街の中には色とりどりの屋台や露店が並び、まだまだ活気溢れる光景が広がっている。

 だが、長い旅路の果てにようやく辿り着いたのだから、少しは休むことを考えてもいいだろう。

 俺たちの次なる目標は、まずは宿探しだ。


「さっそく宿探しだな。街にいるのに野宿は勘弁だからな」


「シェイドさん、宿はどこにしましょうか?」


 エリスが期待に満ちた目で問いかけてくる。

 俺は少し考え、


「まずは街の中心部に行ってみるか。値段は高いかもしれんが、そこなら見つかるだろう。できれば食事もできる宿屋を見つけるのが1番だ」


 今から歩き回るのも大変なので、なるべく楽に見つかりそうな場所を提案する。


「わかりました。ターリスで泊まった場所みたいなところだといいんですが……」


「そうだな。きっといいところがあるさ」


 街の中心部に向かって歩いていると、通りに面した宿屋がいくつも見えてきた。

 その中で、目立つ看板を掲げた宿屋をあえて避け、少し控えめな宿屋に近づく。

『金の蜂蜜亭』という名前の宿屋だ。

 メイン通りに近いため外観も綺麗で、なにより獣人種が入っていくのも見えた。

 ここならいいだろうと、俺たちはその宿屋に入ることにした。


 宿の中も清掃が行き届いた綺麗な内装で、受付には笑顔の女将が立っていて、俺たちを迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。お泊りですか?」


「ああ、彼女と部屋を分けて1泊頼む。食事は……そこでできるかい?」


 女将はエリスをチラリと見たが、特に反応することはなかった。

 よし、思った通りここは当たりだ。

 ロビーの横には食堂が併設されていたので、ここで食事も取れるならありがたい。


「お1人様のお部屋を2つですね。承知しました。夕食と朝食がついておりますので、そちらの食堂にてお召し上がりください」


「それは助かる。いくらだ?」


「1泊15000アウルになります。お2人なので、30000アウルですね」


「ぅぐ……そうか、わかった」


 高い、予想以上に高い。

 ターリスの宿屋でも8000アウルで、それでも少し割高だと感じてたくらいだ。

 ふっかけてるわけでもなさそうだし、やはり、街の中心部に近い宿屋は高級だな。

 俺は銀貨で支払い、部屋の鍵を受け取る。


「お部屋は3階になります。ごゆっくりどうぞ」


 階段を上り部屋の前でエリスと別れる。

 彼女は「何から何まで本当にすみません。これからの報酬はすべてお渡しします」などと言っていたが、これくらいは安いもんだ。


 荷物を置いて一息つき、再度部屋を出る。

 いい時間になったので、このまま夕食だ。

 さすがに高いだけあって、夕食は豪華なものだった。

 焼き立てのパンに、新鮮な野菜とジューシーな肉料理。

 旅の間はどうしても味気ない食事になるので、身体に染み渡るように美味い。

 エリスも満足そうにしていて良かった。


「シェイドさん、この宿、とても素敵ですね」


「そうだな。これなら、ゆっくり休めそうだ」


 エリスが微笑み、俺も微笑み返す。

 明日はギルドに行く予定だし、今日はしっかりと休むことにしよう。


 翌朝、久し振りにしっかりした食事と寝床のおかげか、スッキリした目覚めだった。

 少し早めに目が覚めた俺は、エリスに声をかけ、軽く朝食をとってからギルドに向かった。

 ギルドは街の中心にあるため宿からも近く、多くの冒険者たちが集まっていた。


「大きいな。ターリスよりも広いし、人も多い」


「ですね。活気があって生き生きしています」


 チラリと俺たちのことを見るやつらもいたが、特に絡まれることもなかった。

 よく見ると周りには獣人種も何人かいるし、エリスの言うように、皆元気があるように見える。


「俺たちも依頼を見てみようか。少し路銀を稼いでから移動するのもいいかもしれないしな」


「そうですね。私、頑張ります!」


 やる気を出すエリスと一緒に、掲示されている依頼を確認する。

 ターリスよりも王都に近いせいか、依頼も充実している。


「シェイドさん、この洞窟のゴブリン討伐ってどうですか?」


 エリスが指さす依頼を見て、俺もそれに目を通した。

 なんでも、ここからそう遠くない村の近くにある洞窟に、ゴブリンが住み着いて迷惑しているそうだ。

 報酬も悪くない。

 ちゃんとした討伐依頼を2人で受けるのは初めてだし、ちょうどいいかもな。


「そうだな、これにしようか。早速受け付けに行って手続きしよう」


「はい!」


 俺たちは受付に向かい、依頼を受ける手続きをする。

 受付嬢は若くて愛想が良く、俺たちににこやかに対応してくれた。

 まったく、あの受付嬢にも見習ってほしいものだ。


「ゴブリン討伐の依頼を受けたいのだが……」


「いらっしゃいませ。失礼ですが、トリントのギルドは初めてのご利用ですね?」


「ああ、そうだ。拠点登録も頼む」


「はい、私もです」


「初めまして、リズと申します。いご、お見知りおきください。拠点登録とこちらのゴブリン討伐ですね?」


「ああ、俺の名前はシェイド。よろしく頼む」


「エリスです。よろしくお願いします」


「よろしくお願いいたします、シェイド様、エリス様。それでは少々お待ちください」


 リズと名乗ったフワッとした金髪に上品な顔立ちの女性は、優しく微笑むとテキパキと作業を進める。

 リズが手続きする間、俺は少し事情を説明することにした。


「すまない、後で証文の引き換えと魔物の買い取りもお願いしたい」


「証文の引き換えと魔物の買い取りですね。まず、証文はどのようなものでしょう?」


「これだ」


 俺は衛兵から受け取った証文を手渡した。


「なんと……! あのゼフ一味を倒してくださったのですね。商業ギルドも困っておりまして、近々大規模な隊が編成されるとも言われてました」


 そんな大事にまでなっていたのか。

 衛兵たちが驚くわけだ。


「ありがとうございました。冒険者ギルドからもお礼を申し上げます」


 リズは深く頭を下げた。


「後ほど報酬をお渡しいたします。まずは受注が完了しましたので、ゴブリン討伐よろしくお願いいたします。次に買い取りとのことですが――」


「ああ、それなんだが、ちょーっと大きさが……な」


「ですね……またギルドの中が壊れてしまいます」


「『また』、ですか?」


 エリスの「また」という言葉に、一瞬目を光らせたような気がした。

 さすが優秀なだけあって聞き逃さないな……。


「い、いえそのっ」


「エリス、ついでだしそれについても伝えておこう。どの道調べればわかるしな。すまないが、解体場ってあるだろ? 話はそっちでもいいか?」


 リズは少し訝しげな顔をしながらも、別の職員と替わり、裏手にある解体場へ案内してくれた。

お読みいただきありがとうございます。


このお話を少しでも良かったと思っていただけたら、


広告の下にある【☆☆☆☆☆】にて応援をお願いします!

また、【ブックマーク】もしていただけると本当に嬉しいです。


執筆活動の励みになるので、何卒よろしくお願いいたしします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ