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7.冒険者として

 俺たちは『ターリス』という街を出て、『トリント』という街へ向かっていた。

 この『ポーラス王国』という国は、人種による別種族への差別が根強い国だ。

 東方にあるとされる差別のない国は、トリントの更に先にある王都を抜けていかなければならないのだ。


 今のところは魔物や盗賊にも出会わず、それなりに快適な旅を続けていた。

 空は晴れ渡り、風は心地よく、鳥のさえずりが耳に優しく響く。

 エリスが楽しげに笑う度に、俺の顔も自然とほころんでしまう。

 こんなに清々しい気持ちでいれる日々が訪れるなんて、あの頃には考えられなかった。

 まったくもって彼女のおかげだ。


「シェイドさん、次の街はどんなところなんですか?」


 エリスも今の状況は悪くないようで、期待に満ちた目で聞いてくる。


「トリントっていう、ターリスよりも少し大きいくらいの街だ。あと3日くらいはかかるかもな」


「そうなんですね。サイクロプスはそこのギルドで?」


「そうだな。事情を話して、そうしようと思ってる。ターリスみたいなギルドじゃなければいいんだが……」


 俺がそう答えると、エリスは途端に暗い顔つきになる。


「エリス、君のことは俺が守る。ターリスと同じ様に酷い有様だったら、すぐに街を出よう」


 俺に出来る恩返しは、そんなことくらいしかできない。

 彼女が解放してくれた力で、彼女を守ることが1番の恩返しになるだろう。

 エリスは少し照れたように顔を赤らめ、


「ありがとうございます、シェイドさん。シェイドさんと一緒なら、きっと私も大丈夫です」


 と、笑顔で返してくる。

 この笑顔、守らねば――!


 エリスと談笑しながらしばらく歩いていると、


「――崖か」


 両側に切り立った崖が見えた。

 どうやら、ここを抜けていかなければならなそうだ。


「どうかしましたか?」


「ん、ああ、こういう地形のところはな……野盗の類が出やすいんだよ」


「野盗、ですか」


「ああ。両側は切り立った崖、前後を塞げば逃げ道もなし。稼ぎ場としては悪くない場所だ」


 周りを見渡しても崖は見える範囲で続いており、迂回するにはどれほど遠回りになるかわからない。


「……通るしかなさそうですね」


「そうだな。エリス、念の為()()()()()()どうするか決めておこう」


 俺はエリスとあらかじめ対策を立てることにした。

 更に念には念を入れ、『シャドウ』を先行させておく。


 ――そして、その時は訪れた。


『シャドウ』が何かを察知したらしく、俺のズボンの裾を引っ張る。

 俺は立ち止まり、『シャドウ』に目を向ける。


「どうした、『シャドウ』?」と尋ねると、『シャドウ』は前方の岩陰を指さした。

「何かあるみたいですね」とエリスが心配そうに言う。


「ああ、悪い予感が当たったな。どうやら野盗が待ち伏せしているらしい」


 俺は低く答えた。

『シャドウ』が茂みの中に潜んでいる盗賊たちの姿を示してくれたおかげで、俺たちは彼らの動きを事前に把握することができた。


「油断するなよ、エリス」


「はい、わかりました」


 俺が警戒を促す。

 エリスも緊張を隠せない様子だ。


 しばらく進むと、野盗たちが姿を現した。

 その中にいるボスらしき男が前に出てきて、俺たちに向かって冷たい笑みを浮かべる。


「なあおい、悪いんだが、この先は通行料が必要なんだよ」


「通行料? こんなところで通行料を取るなんておかしな話だな。悪いと思うんなら勘弁してくれないか?」


 男は言葉では申し訳なさそうにしているが、その顔はまったく悪びれていない。


「ああ、残念だがそりゃ無理だ。そうだな……お前の連れの女と、持ってる金目の物を置いていけば、お前は見逃してやるぞ」


 男は不敵に笑った。


「彼女はどうなるんだ?」


「ハッ! まあ、慰み者になった後は……殺すか奴隷だな」


「なら、そんな提案は受け入れられないな」


 俺は両手を広げて拒絶する。

 それまではどこか戯けた調子だったヤツらも、俺の態度が気に食わないのか鋭い目付きで睨んでくる。


「ずいぶん余裕があるじゃねぇか。まあ、なら――力づくで奪うまでだ!」


 男が叫ぶと、一斉に襲いかかってきた。


「エリス!」


「はい! ――《アースクエイク》!」


 事前に打ち合わせた通りに、エリスが《アースクエイク》で地面を揺らし、盗賊たちの足元を崩した。


「うお!?」


「くそっ、この程度――!」


 なおも向かってこようとする野盗たちに、


「――《シャドウリーパー》!!」


 影で創り出した大鎌を振り回し、範囲内にいる野盗の身体を真っ二つに切り裂いた。


「ぐっ……なかなかやるじゃねぇか……!! だが、最後に笑うのは俺たちだ!!」


 多くの仲間を失ったはずだが、男は余裕を見せてそう宣言した。


「ほう、いったい何を見せてくれるんだ?」


「馬鹿がッ! 男の方は構わんからヤッちまえ!!」


 大きな声で命令する男。

 だが、何も起こらない。

 男の表情が次第に焦りに変わっていく。


「お、おい! 何やってる!?」


 男か俺たちの後ろへ向かって声を掛けると、岩陰から男の足元へ向かって何かが飛んできた。


「んな――っ!?」


 男は驚愕し、動揺した顔でそれを見つめた。

 それは死体だった。


「な、なんで……? いったい何が起きたんだ……」


 これをやったのは俺、もっと言えば『シャドウ』だ。

 俺は必ず後ろに伏兵がいると踏んでいたので、先に『シャドウ』を切り離していた。

 格好を見るに弓使いのようだが、胸に剣で貫かれたような穴が空いている。

『シャドウ』に1撃でやられたんだろう。


「残念だが、お前たちの計画はすべて見透かされてたんだよ」


「そんな……くそっ! お前たち、ずらかるぞ!!」


 男は悔しそうな顔で仲間に命令を出した。


「逃がすわけないだろう。――《シャドウバインド》」


 俺は《シャドウバインド》で、5人いた残りの野盗たちを一網打尽にした。


「な、なんだこりゃ!?」


「た、助けてくれえぇぇっ!!」


 男は完全に戦意を喪失して膝をつき、


「もうやめてくれ……俺たちの負けだ……」


 と、許しを請うように頭を下げた。


「盗賊が捕まれば死罪だ。それに、お前たちは初めてじゃないだろう? 俺は、世の中の酸いも甘いも知ったおっさんだからな。見逃すほど甘くない」


 俺の言葉に野盗たちはサッと顔が青褪める。

 何か言おうと口を開いたが、言葉を発するよりも早く俺は《シャドウリーパー》で首を刎ねた。


「俺には《シャドウボックス》があるからな。突き出すのは首だけで十分だ」


 俺は転がっている野盗たちの首を《シャドウボックス》に収納した。


「シェイドさん……」


 エリスが少し驚いたように俺を見つめる。


「これが現実だ、エリス。盗賊を許しても、また同じことを繰り返すだけだ。次の犠牲者を出さないために、冒険者としてやるべきことをしなければいけない」


 これは冒険者の先輩としての教えだ。

 エリスは少し考え込んだ後、「はい、わかりました」と小さく、だが覚悟を決めた瞳で頷いた。


 その後、特に問題もなく、俺たちは順調に旅を続けた。

 途中、村に寄って休んだりしつつ、予定通り3日ほどでトリントの街が見えてきた。


「シェイドさん、見えました!」


 エリスが嬉しそうに指を差す。


「ああ、ようやくだな。今日はゆっくりと休めそうだ」


 俺は、久し振りのまともな食事と寝床に期待しつつ、街へと足を進めた。

お読みいただきありがとうございます。


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執筆活動の励みになるので、何卒よろしくお願いいたしします!

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