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5.求めていた姿

 俺たちが音の聞こえた方向へ走り出してすぐ、その姿を視界に捉えた。

 サイクロプスは5メートルほどもある巨大な魔物だ。

 嫌でも目立つ。

 サイクロプスが暴れたせいか、蹂躙されている冒険者たちの姿があった。

 ほとんどが倒れていて生きているかわからないが、1人だけ対峙している者がいた。

 恐らく冒険者だろう。


「よし、いくぞ!」


「はい、シェイドさん!」


 俺は茂みから飛び出し、


「――《シャドウバインド》!」


 我ながら厨二病もここまで来ると清々しいな、なんて考えていると、影から伸びる黒い鎖がサイクロプスの足元に絡みつき、その動きを封じた。

 本当は技名なんて叫ぶ必要ないだろうが、この時を夢見て厨二心を忘れていない俺には必要なことだ。


「グラアァァァ――ッ!!」


 サイクロプスは、《シャドウバインド》を無理やり引きちぎろうとする。

 だが、どうやらそれ以上にこれは頑丈なようだ。

 よかった……正直不安だったが、さすがマスタークラスのスキルなだけはあるようだ。

 これがあの頃から使えてればな、と思わないわけではないが、今、力を解放されただけでもよかったと思っておこう。


「おい! 大丈夫か!?」


「――はっ! だ、大丈夫! 助かったよ!」


「他にも無事なやつはいるのか!?」


 俺はチラリと地面に突っ伏して、動かなくなっている者たちを見る。


「たぶん……ダメだと思う」


 猫獣人の女は、首をふるふると横に振った。

 まあ、そんな気はしていた。


「そうか。お前はケガをしていないんだな? 逃げれるか?」


「大丈夫、走れる!」


 俺は「よし」と頷く。

 今はなんとか《シャドウバインド》で拘束しているが、このままでは倒すこともできない。

 リベンジマッチと意気込んできたが、1度態勢を立て直すのが無難だろう。

 そう思って口を開こうとすると、


「――《フレイムボム》!」


「ギャオオォォゥゥッ!?!」


 突然、炎がサイクロプスの顔を包み込み、苦しそうな咆哮を上げた。


「エリス!?」


「シェイドさんと一緒なら、きっと倒せます!」


 エリスは力強くそう言うと、


「《フレイムボム》!!」


 再度、炎の魔法をサイクロプスの顔に向けて放った。

 サイクロプスは悶え、蹲ろうとするも、俺の《シャドウバインド》によってそれすらも許さない。


 ――あれ? コレって……。


「もしかして――ハメれるのでは?」


 俺は、なんとも簡単な攻略法を見つけてしまったかもしれない。


「エリス。その魔法、まだ撃てるか?」


「はい! 《フレイムボム》!!」


 ボンッとサイクロプスの頭で爆発するように、爆炎が包み込む。

 すでにサイクロプスは声を上げることもできず、もがき苦しむのみだ。

 次第にそれすらなくなり、ついには動かなくなってしまった。


「サイクロプスを封殺……か」


 《シャドウバインド》でサイクロプスを拘束したまま、エリスの魔法で封殺。

 たったこれだけで、ゴールドランクすら手を焼くサイクロプスにあっさり勝利してしまった。

 その事実に俺は呆気にとられた。

 《シャドウバインド》を解くと、サイクロプスの巨体がズシンと大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。


「『マジックリーダー』ってすごいんだな」


 解放された俺のスキルも確かにすごいが、実際に倒したエリスの魔法は相当なものだ。

 俺は感心してエリスを見ると、なぜか彼女は浮かない顔をしている。


「どうしたんだ、エリス?」


「あ、いえ! 倒せてよかったです」


「ああ、そうだな。後はコイツをどうやって運ぶかなんだけど、俺にいい方法が――」


 すっかり素材回収の気分になっていると、サイクロプスは再び立ち上がった。


「ガアアァァァァアアア――ッ!!!」


 サイクロプスは両手でハンマーのようにし、エリス目掛けて振り下ろして。


「――ッ『シャドウ』!!」


 俺は即座に『シャドウ』を呼び出し、


「《モード:ヘッジホッグ》!!」


 その途端、『シャドウ』は姿を変え、その身体からハリネズミのように無数の針を伸ばし、サイクロプスを穴だらけにした。


「ふぅ……危なかった」


 サイクロプスは再び地面に崩れ落ち、今度こそ動かなくなった。

 俺は初めての実戦で《シャドウ・モード:ヘッジホッグ》を成功させたことに安堵した。


「シェイドさん、ありがとうございます! また、助けられちゃいましたね」


「なんとか上手くいってよかったよ」


「昨日、本来の能力を扱えるようになったばかりなのにすごいです」


「あー、まあ……ね」


 俺はスキルを得たあの日から、いつもこんなことができたらと考えていた。

 転生者なので漫画やアニメで見たような技も想像してたけど、残念ながら今日まで使えることはなかった。


「長かったな……」


「え?」


「ああ、いや、なんでもない。それより……無事か?」


「すごいものを見た……」


 助けられた獣人が驚愕し、脱帽した表情で俺たちを見ていた。


「おーい」


 獣人はハッと我に返り、


「ありがとう、本当にありがとう! 私の命の恩人だよ! 私は『ピシカ』、あなたたちの名前を教えてくれる?」


 俺とエリスの手を握りながらお礼を言った。


「俺はシェイド、ブロンズの冒険者だ」


「私はエリスです。今日アイアンランクになりました」


「ブ、ブロンズにアイアン??」


 ピシカは困惑している様子だ。

 まあ無理もない。

 ピシカのプレートはブロンズで俺と同じ、自分と同じランクと新人がサイクロプスを圧倒するなんて普通は信じられるわけがない。

 だが、彼女はそれを間近で目撃したからこそ、困惑してるのだろう。


「一応教えとくと、俺はマスタークラスだ。それより、ピシカ。いったい何があったんだ?」


「マ、マスタークラス!? なるほど、だから……。あ、えっと――」


 ピシカの説明を要約するとこうだ。

 獣人である彼女は、人種の冒険者と組んで活動していたが、実際のところは下僕のような扱いだった。

 そしてサイクロプスに出会い、彼女を囮に逃走。

 だが逃げる者からサイクロプスは倒していき、最後に生き残っていたのがピシカだったそうだ。

 話を聞くに、なんともな気持ちになってくるな。


「私は力が強いわけじゃないし、獣人の仲間もいなかったからコイツラと組むしかなかったんたけど……まさか最期がこんな風になるなんて、ね……」


「そうだな。因果応報というかなんというか……とりあえず、プレートだけでもギルドへ届けてやろう」


「そうだね。一応はパーティーメンバーだから」


 そういって、ピシカは彼らのプレートネックレスを集め始めた。

 これを持っていけば、身元もわかるしギルドで対応してもらえるだろう。


「さて、後はコイツだな」


 俺の前にはサイクロプスが転がっている。


「シェイドさん、そういえば先ほど何かを言いかけてませんでしたか?」


「ああ、コイツの回収方法を考えたんだよ」


「え? 回収って、この大きさをですか!?」


 そう、俺にはずっと考えていた技があった。

 これまで実現する機会はなかったが、昨日の夜試したら上手くいったのだ。

 このサイズを()()できるかはわからないが、やってみるだけの価値はあるだろう。


「ああ、絶対にできるとは言えないけどな。ちょっと試してみよう。――《シャドウボックス》」


 俺はエリスにニヤリと笑い、《シャドウボックス》を発動する。

 すると、倒れているサイクロプスの下に影が広がり、とぷんと吸い込まれた。


「おっ、入ったか」


「え!?」


「なになに、どういうこと!?」


 2人は、信じられないものでも見たというくらいに目を見開いた。

 俺もここまでの巨体を収納できるとは、いい意味で予想を裏切られた。


「これは《シャドウボックス》といって、様々なものを入れる収納空間だ」


「そんなことまでできるなんてすごいです、シェイドさん!」


「すごいどころじゃないよ! 《アイテムボックス》なんて、伝説の大商人級じゃん!」


「はは、いざとなったら冒険者やめて商人になるのもいいかもな。そうだ、彼らの遺体も入るようなら、連れて帰ってあげよう」


 俺は彼らの亡骸を《シャドウボックス》に入れ、


「よし、ギルドへ戻ろう。ピシカも一緒にきてくれ」


「もちろん!」


「それじゃ、行こう」


「はい、シェイドさん」


 《シャドウマスター》の本当の能力、こうして実戦で開放してみると、とんでもないものだ。

 しかも、まだまだその力のすべてを出し切ったわけではない。

 俺は「ようやく求めていた冒険者像らしくなったな」と、心の中で呟いた。

お読みいただきありがとうございます。


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執筆活動の励みになるので、何卒よろしくお願いいたしします!

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