38.貴族様
俺のスキルは『ロックリーダー』。身体の一部を部分的に、岩みてぇに頑丈にするだけの、地味で単純なスキルだ。
だが、俺にはこれで十分、むしろ、合っている。
余計な小細工なんていらねぇし、これで固めた拳でぶん殴りゃ済む話だからな。
あの『ナイトリーダー』なんていう負け犬スキルとは違う、野蛮で、暴力的なスキル。
それが俺の誇りだ。
このシェイドとかいう野郎のスキルはよくわからねぇが、俺のスキルで防ぐことが出来るのはわかった。
後はいつも通り、隙ができたら、容赦なく、ただひたすらに拳を叩き込むだけだ。
「お、どうした? 大人しくなっちまったな。んじゃ、次は俺の番だな」
俺はニヤリと笑い、ヤツに殴りかかった。
狙うは、ヤツの薄汚い顔面だ。
だが、その拳はギリギリで躱され、空を切る。
「ちっ……!」
勢い余った俺の拳は、そのまま近くの壁を殴りつけた。
――ドゴォンッ!!
轟音とともに、壁が派手にぶっ壊れ、大きな穴が開いた。
「「「――!?」」」
それを見ていた3人が、揃って間抜けな面を晒して驚いてやがる。
まあ、無理もねぇか。
この俺様の『ロックリーダー』で固めた拳は、こんな壁程度じゃ耐えられねぇからな。
「オラオラオラッ! さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」
俺は、驚きで固まってるヤツらを嘲笑いながら、さらに拳を振り回す。
だが、この野郎は俺の攻撃をヒョイヒョイと躱しやがる。
「チッ、しゃらくせぇ……ッ!」
「――『シャドウ』!」
野郎が突然、何かを呼んだ。
「うお!?」
すると、野郎の足元から黒い影が人の形になって現れやがった。
マークの野郎がこてんぱんにされたやつか……!
「面白ぇ……!」
俺はその異様な光景に、一瞬動きを止めてしまったが、すぐにそれに向かって走り出した。
「《ハードニング》!!」
そして、《ハードニング》で拳を硬め、『シャドウ』と呼ばれた化け物へと叩き込む。
化け物はそれを避けることもなく、俺の拳と化け物の拳がぶつかり合う。
『ガゴンッ!』と、硬いものがぶつかる音が辺りに響き渡る。
「やるじゃねぇか……!」
俺は、化け物の力に少しだけ感心した。
だが、所詮は影で創られたまやかしだ。
俺と殴り合いで勝てるヤツなんざ、存在するわけがねぇ!
「――オラァッ!!」
俺は渾身の力を込めて、化け物の顔面に拳を叩き込んだ。
すると化け物は、まるで風船が弾けるように、フッと消え失せやがった。
「フンッ、大したことないな。おら、仕切り直し――」
俺は勝ち誇ったよう野郎のほうを見ると、視線の先には、先程の影とは比べ物にならないほど巨大な、黒い影がゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「な、なんだ、それは……」
俺は思わず後ずさりすると、嫌な汗が頬をつたった。
それは、単なる汗ではなく、本能的な恐怖からくるものだった。
その巨影は、俺が見上げるほどの大きさで、まるで巨人のようだった。
――ドゴオォォォォォンッッ!!!
そして、俺を見下ろすようにゆっくりと頭部を持ち上げながら立ち上がり、建物の天井を頭でいとも容易く突き破った。
天井が大きな音を立てて、崩れ落ちた。
「――《モード:ギガント》!『シャドウ』、スカーフェイスを粉砕しろ!」
野郎が化け物に、冷たい声で命令を下しやがった。
「このッ、化け物があぁァァァ――ッッ!!!」
俺は恐怖に駆られながらも、拳を化け物に向けて振り上げる。
何度も何度も何度も、化け物の足を殴る。
殴る殴る殴――。
「――ぁ」
化け物は両手を組んでハンマーのようにした。
「――は?」
俺は、迫りくる闇に飲み込ま――。
◆◇◆
――ドゴォォォォォォンッッ!!!!
『シャドウ』が拳を振り下ろすと、轟音とともに、スカーフェイスの体を地面に叩きつけた。
「うわ……」
その光景を見ていたピシカが声を漏らす。
「うわぁ……こりゃ、とんでもねーな。恐ろしすぎるだろ、シェイドのそれ!」
スットンは、地面に開いた大穴から下を覗き込み、驚愕の声を上げた。
どうやら、『シャドウ』の攻撃は2階から1階の床までをぶち抜き、穴の底にはスカーフェイスが原型を留めていない状態で横たわっているそうだ。
役目を終えた『シャドウ』を消すと同時に、急激な目眩が俺を襲い、「うっ……」とよろめいてしまう。
「シェイド! 大丈夫!?」
ピシカが慌てて駆け寄り、俺を支えてくれる。
「ああ、心配ない……。さすがにあの大きさの『シャドウ』を操るのは、疲労が大きいようだ」
短時間でこれだとすると、長時間動かすのにはまだまだ訓練が必要そうだ。
「しっかし、すげぇ大きさだったな。さっきのアレ……『シャドウ』だっけ?」
スットンが感心したように言う。
「ああ、あれはお前たちとヤツの影も利用させてもらったからな。それに、日が少し落ちてきてたのもある」
『シャドウ』は、自身の影だけでなく、他の者の影も利用することができる。
俺は、ピシカやスットン、さらにはスカーフェイスの影にも『シャドウ』を潜り込ませ、それを合体させることで《モード:ギガント》を作り出したのだ。
それに、日が落ちてきたことで影が伸び、より巨大化しやすかったのもある。
「へー、まあよくわからんけど、よかったよかった」
スットンは、本当に理解してるのか怪しい口調で、楽観的に言った。
「全然、よくないし! エリス、ここにもいないじゃん!」
ピシカは、スットンの言葉に噛みつくように言い返した。
「う……」と、スットンが言葉を詰まらせ、
「その通りだ」
振り返ると、外で待機していたブロウがいつの間にかいた。
「ここにもいなかったか……クソッ!」
ブロウは珍しく感情を露わにし、壁を拳で叩いた。
「何をそんなに焦っている。お前が俺たちに、焦るなと言ってたじゃないか」
俺は、ブロウの態度に違和感を覚え、問いかけた。
「ああ、そうだ。だが、この2つのアジトにいなかったということは、最後のアジトである『アレルドの家』にいるということになる」
「……いったい、何が言いたい?」
ブロウの回りくどい言い方に、俺は眉をひそめて尋ねた。
ブロウは1つため息をつき、
「『アルドリック・ディ・ヴァロワ』……これが、アレルドの本名だ」
と、静かに告げた。
「……え?」
「おいおい、まさか……」
ピシカとスットンが、何かを悟ったように呟き、俺は心の中で「そういうことか」と、理解する。
「そのまさかだ。爵位は『男爵』、つまり――『貴族様』だ」
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