37.予想外
「ピシカ、頼む」
「うん、任せて」
ピシカは力強く頷くと、『ビーストスキル』の《エンハンス:イヤーズ》を使用し、
「……恐らく、20人以上はいると思う。ごめん、正確な数字はわかんない」
と、『紅蓮の華』のアジトにいる人数を把握する。
「いや、十分だ。敵はかなり多いな。侵入してもすぐに見つかるだろう。一気に行こう」
俺がそう言うと、2人は無言で頷いた。
外に見張りはいなかったため、、俺たちは『紅蓮の華』のアジトの目の前まで接近していた。
ブロウは離れた位置で待機しており、俺たちだけで突入するようだ。
俺たち3人は確認するように1つ頷き、窓からアジトの中へ飛び込む。
「なんだ、お前ら!?」
すぐに複数の人影が現れ、見るからに堅気ではない。
「おい! 他のヤツらも呼んでこい!」
「ここがどこだかわかってんのか、ゴラァッ!!」
男たちは突然のことに驚きつつも、すぐに戦える態勢を整える。
「『紅蓮の華』のアジト、だろ? お前たちが攫った人たちはどこだ。答えろ」
俺が男たちに問い詰めるも、ニヤニヤと笑い、
「へっ、馬鹿が。わざわざ助けるために乗り込んできたってか? 頭イかれてるぜ、コイツ!」
「おっ、そこにいるのも獣人じゃねーか。引き取ってやるぜ? お代はお前の命でなッ!」
そう言って、男たちは笑い、得物を手に襲いかかってくる。
どうやら、答えるつもりはないらしい。
「――『シャドウ』!」
影から現れた『シャドウ』は、俺の命令を待つかのように、静かに構えている。
「さあ、暴れるぞ!」
俺の言葉と同時に、『シャドウ』が動き出した――。
◆◇◆
「どうやら、ここじゃないようだ」
俺たちは、アジトにいる『紅蓮の華』のメンバーを全員倒し、外にいるブロウと合流した。
ブロウは、それを聞くと小さくため息をつき、
「……そうか。では、次だ」
と言って、再び歩き出した。
スットンが「お、おい、待てよ!」と声をかけるも、ブロウは足を止めようとしない。
俺たちは、ブロウに置いていかれないように、慌てて後を追った。
「次はどこだ?」
「ここと変わらん。また、スラムだ」
ブロウは足を止めることなく、素っ気なく答えた。
「また、スラムか……」
「犯罪者にとって、スラムは格好の隠れ家だからな」
ブロウは、まるで当然のことのように言った。
その言葉には、スラムに対する、どこか冷めたような響きがあった。
◆◇◆
俺たちが辿り着いたのは、ブロウの言った通り、王都の別の地区にあるスラム街だった。
「あそこだ」
ブロウは、そう言って1つの建物を指差した。
その建物は、他の建物に比べれば多少マシに見えるが、それでもボロボロなことに変わりはない。
「……1つ目のアジトと大差ないな。まあ、ここのほうが多少建物としてはマシか」
俺は、先ほどのアジトとの違いを少しだけ比較して、そう呟いた。
「可能性としては、ここにいる可能性が高い。……いや、いてくれなきゃ困る」
ブロウは、独り言のように呟いた。
「困る? なぜだ?」
俺はブロウの言葉に違和感を覚え、問いかけた。
「……いや、なんでもない」
ブロウは、俺の問いかけをはぐらかすように、視線を逸らした。
「何それ。気になるなー」
ピシカが、ブロウの態度に怪訝そうな表情を浮かべる。
「さあ、ここからは、お前たちの出番だ。幹部クラスの連中もいるだろう。ガッカリさせるなよ」
ブロウは、ピシカの言葉を華麗にスルーして、俺たちにそう言った。
「いちいち煽らなきゃ気が済まないの、コイツ……」
ピシカはブロウの態度に呆れ、小さく呟いた。
「……よし、行こう」
俺たちは、1つ目のアジトと同じように、次々と敵を倒していった。
途中、幹部クラスと思われる、明らかに先ほどのアジトの連中よりも強い連中もいたが、俺たちの敵ではなかった。
そして、1番広い部屋にたどり着くと、
「テメェ等、こんだけ荒らして簡単に死ねると思うなよ」
そこには、顔に大きな傷跡のある男が待ち構えていた。
「スカーフェイス、か」
俺は男の顔を見て、ブロウが言っていた名前を思い出した。
「あん? お前……あっ、負け犬くんと戦ってたやつか」
「……マークのことか?」
すると、スカーフェイスはニヤリと笑い、
「そうそう。何だお前、こんな事してどういうつもりだ?」
と、尋ねてきた。
「お前たちが俺たちの仲間を攫ったから、助けに来ただけだ。人種以外の人身売買を企んでいるんだろ?」
俺は、スカーフェイスを睨みつけながら問い返した。
「いや、俺はその辺、一切関わりがないからよ。新しい『ビジネス』を始めたのは知ってるが、お前たちの仲間を攫ったのは知らねぇな」
スカーフェイスは肩をすくめながら、あっけらかんと答えた。
その態度はまるで他人事のようで、嘘やごまかしといったものが一切含まれていないように感じる。
「……本当に、知らなかったのか?」
俺は、スカーフェイスの言葉を疑いながらも、そう問いかけた。
スカーフェイスは、少しだけ考え込むように、腕を組む。
「なんだったら、俺がお前の仲間を返すようにボスに言ってやるか?」
スカーフェイスは、唐突にそう言った。
「え!?」
「……なんだと?」
ピシカが驚きの声を上げ、俺はスカーフェイスの真意を図りかねて、怪訝な表情を浮かべた。
「おい、あんな奴の言うこと真に受けんなって! どうせ裏があるぜ。あの目、弱者を痛ぶることに快感を感じる、クソ野郎の目だ」
スットンが俺たちに警告する。
「おいおい……なんつー酷ぇ言い草だ、この犬っころは」
スカーフェイスは、スットンの言葉に苦笑いを浮かべた。
「オレっちは犬じゃねえ! 狼だっ!」
「おー、そりゃあ悪かったな。だけど、お前も悪いんだぜ? 俺のことを、見た目で勝手に判断したんだからな。傷つくぜ」
その言葉とは裏腹に、スカーフェイスはニヤリと笑った。
「だったら、すぐにエリスを解放してよ!」
ピシカがスカーフェイスに訴える。
「ああ、いいぜ。ボスに進言してやるよ。――ただし、お前たちが俺たち『紅蓮の華』に入るならな」
スカーフェイスはニヤリと笑みを浮かべ、俺たちが受け入れるはずのない無茶な提案をした。
「……は?」
ピシカはスカーフェイスの言葉に、呆気に取られたような声を上げた。
「ギャハハハハッ! 冗談に決まってんだろ! 馬鹿がッ!!」
スカーフェイスは、ピシカの反応を見て大笑いする。
「もう、黙れ」
俺は、これ以上はもう時間の無駄だと悟り、
「――《シャドウランス》」
と、地面にある俺の影を、スカーフェイスに向かって大槍のように伸ばした。
だが――、
――ガギンッ!!
鈍い音が、狭いアジトに響き渡る。
《シャドウランス》は、スカーフェイスに確かに当たった。
だが、身体ごと貫くつもりで攻撃したそれは、腕に阻まれ傷1つ負わせることができなかった。
俺は、予想外のスカーフェイスの防御力に驚愕する。
「いきなり攻撃するなんて、見た目と違ってずいぶん好戦的じゃねぇか。ま、そういうのは嫌いじゃねぇよ?」
スカーフェイスは、《シャドウランス》を受け止めた腕をさすりながら不敵な笑みを浮かべ、俺を挑発するのだった。
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