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34.情報屋

「本当に、その情報屋は信用できるのか?」


 先頭を歩くスットンに、俺は尋ねた。

 大通りから少し外れた裏通り。

 昼間だというのに薄暗く、足元にはゴミが散乱し、淀んだ空気はどことなく鼻をつく。

 スラム街の一歩手前、そんな場所に俺たちはいた。

 なんでも、スットンが『紅蓮の華』のアジトを知る情報屋のところへ連れて行ってくれるらしい。

 エリスが連れ去られた今、わずかな手がかりでも掴みたくて、俺はスットンを信じることにした。


「んー、まあ、情報の中身は信用できるんじゃね? ヤツ自身は金の亡者だけど」


 スットンは、そう言って肩をすくめた。


「金なんて大して持ってないぞ」


 俺がそう言うと、


「そっか。まー、それならそれで、ヤツから何か提案してくるはずだぜ?」


 スットンは、どこか楽しげな口調で言った。

 本当に大丈夫かと訝しむも、他に手がかりもないので大人しく付いていくことにした。


「でも、いったいどういう風の吹き回し? こそ泥のアンタが人助けなんてするとは思えないんだけど」


 と、ピシカがスットンにジトっと疑いの目を向けた。


「だから今は、こそ泥じゃないっつーの!」


 スットンは、ピシカの言葉に噛みつくように言い返した。


「あー、さっきから言ってるが、こそ泥って何の話なんだ? そういえば、最初から知り合いだったみたいだし、昔、何かあったのか?」


 ピシカとスットンが険悪なムードになりかけたので、俺は会話に割って入った。


「そそ、私が冒険者になりたての頃の話だけど、ある村からの依頼で、こそ泥が出るっていうのがあったんだ。それで、その時に捕まえたのが――」


「オレっちこと、このスットン様ってことよ!」


 スットンが胸を張って答える。

 こいつ、まったく反省してないな。


「なーにが、スットン様よ。コイツったら本当にしょうもないこそ泥でね、物音がしたら飛び上がって逃げ出して大転倒。あんなに何の苦労もなく依頼を達成したのは、後にも先にもあれが1番だよ」


 ピシカは、呆れたように淡々と説明した。


「へぇ。まあ、それで真面目に冒険者してるってことだろ? 結構なことじゃないか」


 俺がそう言うと、


「どーだか」


 ピシカは、呆れたように肩をすくめた。

 その言葉には、スットンを信用していないという気持ちが滲み出ていた。


「さっすがシェイド! よくわかってるぜ。その通り、オレっちはあの時から生まれ変わったのよ!」


 スットンは、ピシカの冷ややかな態度にもめげずに、自信満々に胸をそらした。

 その自信がどこから来るのかは、俺には分からないが。


「……そうか。まあ、なんでもいいが、しっかり案内してくれ」


「おうよ!」


 俺は、スットンに軽く促し、再び歩き始めた。

 今は一刻も早く、エリスの居場所を掴みたいからな。



 ◆◇◆



 大通りからさらに外れ、俺たちは、王都の中でも『スラム』と呼ばれる、薄暗く治安の悪い場所へと足を踏み入れた。

 道の両側には朽ちかけた建物が立ち並び、ゴミがそこら中に散乱している。

 生暖かい風は淀み、そこかしこから異臭が鼻をついた。こんな場所に本当に人が住んでいるのだろうかと、疑いたくなるほどだ。


「おい、本当にこんなところに、その男がいるのか?」


 俺がスットンに問いかけると、


「んん? あれ? こっちだったっけ? いや、あっち……か?」


 スットンは、立ち止まって首を傾げた。

 本当にこいつで大丈夫かと、不安がさらに増していく。


「ちょっと! こうしてる間にもエリスに何かあったらどうすんの! 早く案内してよ!」


 ピシカは、焦燥感を隠せない様子でスットンを急かした。

 その言葉には、エリスへの深い心配が込められていた。


「んなこと言ったって、忘れちゃったもんはしょうがねーだろ? それに、攫われたのはお前が人種と喧嘩してたからだろうが! オレっちのせいにすんじゃねーよ!」


 スットンも負けじと言い返す。


「――っ! そんなの、アンタに言われなくてもわかってる!」


 ピシカの顔には、後悔の色が強く入り混じっていた。


「だったら、少し黙ってろ! オレっちは今、一生懸命思い出してんの!」


 2人は言い争いを始める。

 俺は1つため息をつき、


「――いい加減にしろっ!」


 大声で2人の言い争いを遮った。


「今は、そんなことで時間を潰してる場合じゃないだろ! ピシカ、今は一刻も早くエリスを見つけることが先決なんだ。そのための情報はスットンにかかってる。集中させてやってくれ」


 俺はピシカにそう言い聞かせ、今度はスットンに向き直る。


「スットン、お前のことを信用してここまで来たんだ。思い出せないじゃ困る。何としてでも、その男の場所へ――」


 俺がそう言いかけた時、


「――うるさいぞ。お前たちが騒ぐせいで、他のヤツらが集まってくるじゃないか」


 路地の奥から、1人の男が姿を現した。

 その男は、不機嫌そうな顔をしながら俺たちを睨みつけた。

 男の姿を見たスットンが「あっ!」と声を上げる。


「コイツだよコイツ! 情報屋の『ブロウ』だ!」


 スットンは、興奮した様子でブロウと呼んだ男を指差した。


「指を差すんじゃない、スットン。礼儀に欠けるぞ」


 ブロウはため息をつき、スットンを叱る。

 その口調は、まるで先生が出来の悪い生徒を叱るようだ。


「ブロウといったか。俺たちは――」


 俺が名乗ろうとすると、


「シェイドとピシカ、だろ?」


 ブロウは、俺とピシカの名前をあっさりと言い当てた。

 驚いて言葉を失う俺に、ブロウはさらに追い討ちをかける。


「それで、探しているのはハーフエルフのエリスだったか?」


 ブロウは、俺たちが口にする前に、探しているエリスの名前まで言い当てた。

 まさか、そんな事まで知っているとは……。


「……さすが情報屋ってところか」


「え、なんで……まだ何も話してないのに……」


 ピシカも驚きを隠せない様子で呟くと、


「ブロウには、いつもなんでもお見通しなんだよなー」


 そんな俺たちの様子を見て、スットンは得意げに胸を張った。


「お前は……」


「待て。場所を変えよう。ついてこい」


 ブロウはそれだけ言うと踵を返した。

 そして、その足は俺たちに立ち止まる暇を与えずに歩き出す。


「お、おい!」


 ブロウを呼び止めようとするも、その背中は路地裏の奥に消えていく。

 俺とピシカは顔を見合わせて頷き、ブロウの後を追うのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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