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33.『スットン』

 ギルドの中が俄に騒がしくなり、争う声が増していく。

 エリスの前では、ピシカが人種の冒険者と言い争いを始めていた。

 その言い分はまったくもって受け入れられるものではなく、シェイドが2人を止めにいったタイミングで、エリスも抗議しようとすると、


「おう、お前がハーフエルフの女だな。なるほど、中々なもんじゃねぇか。ボスが目を付けるのもわかるぜ」


 突然背後から声をかけられ、エリスが驚いて振り返ると、そこには下卑た笑みを浮かべる小太りの男がいた。

 その後ろには、背の高い男と目付きの鋭い男の2人の男が立っている。


「あの……なんですか?」


 エリスは、男たちの異様な雰囲気に警戒心を抱きながら尋ねた。


「ああ、俺たちか? 俺たちはな、お前を連れ去りに来たんだよ。ほんとはあの雌猫も連れてきたかったが、あの状況じゃあ無理だな」


 小太りの男は、ニヤニヤと笑いながら言った。


「違ぇねぇ。あんな中に入ってったら目立ち過ぎだ」


 背の高い男も、小太りの男に同意するように頷いた。


「……っ!」


 エリスは男たちの言葉に身の危険を感じ、助けを求めようと、


「シェイ――」


 と、シェイドの名前を呼び掛けたところで、小太りの男に口を塞がれてしまう。


「はいはい、そこまでな」


 エリスは口をモゴモゴさせて叫ぼうとするも、もう1人いた目付きの鋭い男が近付き、


「――《スリープ》」


 と言ってエリスに向けて手をかざす。

 すると、エリスは急激な眠気に襲われ、その意識が途絶えてしまう。

 意識を失う直前、シェイドが男と争っているのが見える。

 だが、こちらに気付くことはなく、


「シェイ……ド……さ……」


 エリスは小さく声を漏らし、完全に意識を手放した。



 ◆◇◆



「ピシカ、怪我はしてないか?」


 俺は、ようやく落ち着きを取り戻しつつあるギルドで、ピシカに怪我がないか確認した。


「うん、大丈夫だよ」


「そうか、それならよかった。……ところで、エリスが見当たらないんだ」


 それを聞いたピシカは「え……」と絶句し、2人でギルドの中を探し始めた。


「エリス、どこに行ったんだ……?」


 俺は不安な気持ちを抱えながら、ギルド内を探し回った。

 だが、どれだけ探してもエリスの姿は見つからなかった。

 焦燥感が、俺の心を蝕んでいく。


「おい、そこのお前」


 突然、背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこには狼獣人の男が立っていた。


「……なんだ?」


 また喧嘩をふっかけられるのかと警戒し、俺は低い声で返事をした。


「おいおい、違うって! オレっちはお前さんのことが気に入ったんだよ!」


 狼獣人の男は俺の警戒心を読み取り、慌てたように弁解した。

 だが、俺は男の言葉に戸惑い、別の意味で警戒心を強めた。


「いや、俺はそういう気は……」


「だから違うって! オレっちは、お前さんの人種に対する態度が気に入ったってことだよ!」


 俺が少しでも距離を取ろうとすると、狼獣人の男はさらに慌てて、先ほどの言葉を言い直した。


「いや、だから俺はだな、別にお前たち獣人種に肩入れしてるわけじゃなくて――」


「わーっかってるって! お前さんが誰も差別しない珍しいタイプってことはよ。だから、オレっちは気に入ったって言ったんだよ」


 狼獣人はニヤリと笑った。


「そ、そうか」


 俺は、狼獣人の勢いに押され、曖昧な返事をした。


「オレっちは『スットン』だ。お前さんは?」


「俺はシェイドだ。すまんが今人探しをして――」


 俺が簡単に挨拶してその場を離れようとすると、


「ねぇ、シェイド! エリス、やっぱりどこにもいないよ!」


 ピシカが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「んん? ピシカ?」


 スットンがピシカの姿を見て、首を傾げた。


「ん? あっ! こそ泥のスットコだ!」


 スットンの視線に気づいたピシカは、目を丸くしてスットンを指差した。


「オレっちはスット()だ!! そ、それにもうこそ泥なんてしてねぇ! ちゃんとした冒険者だ!」


 スットンは、胸に下げたアイアンランクのプレートを、ピシカに見せびらかしながら言った。


「ふーん、あっそ」


 ピシカはスットンの言葉に興味がないようで、そっぽを向いて言った。

 そして俺に振り返り、


「そんなことよりも! シェイド、エリスやっぱりギルドの中にいないよ! エリスが1人で行くわけないけど、一応、隣の酒場も見てきたけど、どこにもいなかった」


 ピシカは必死な顔で報告した。

 すると、


「んあ? それってもしかして、黒髪のハーフエルフのお嬢ちゃんのことか?」


 スットンの後ろにいた犬獣人の男が、何かを思い出したように口を開いた。


「なんだピック、お前さん知ってんのか?」


「おー、そのお嬢ちゃんなら、3人組の男たちとなんか揉めてたなぁ。ありゃあ、『紅蓮の華』のヤツらじゃねーかな?」


 ピックと呼ばれた犬獣人の男は、のんびりとした口調で答えた。

 その言葉に俺は激しく動揺し、


「エリスがそいつらに連れてかれたのか!?」


 ピックに詰め寄って問いただす。


「そ、そこまでは見てないけどよぉ……」


 ピックは俺の剣幕に押されて後ずさりをした。


「シェイド、どうしよう……! 私が揉めてたせいで……」


 ピシカは涙目になり、今にも泣き出しそうだった。


「あの状況ならしかたない。とにかく、今はエリスを探しにいこう」


 俺は、ピシカを落ち着かせるように肩に手を置き、優しく言った。

 だが、内心では焦りを隠しきれなかった。


「へへっ、こんな広い王都を探し回ったって、んな簡単に見つかりっこないぜ?」


「そんなこと言ったって、見つけるしかないでしょ!」


 ピシカは、スットンの言葉に語気を強める。


「だからよ、オレっちが力になってやるってことよ」


 スットンは、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。

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