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30.聖戦

「ふぅ……」


 俺は『シャドウ』の背中から降り立ち、乱れた息を整えた。

 目の前にはマークがいた場所……そこは、まるで巨大な獣が爪を立てて走り去ったかのように抉れ、黒いすすだけが残っていた。


「……」


 何とも言えない気持ちが、胸の中に渦巻いていた。

 あんなにも憎しみ、俺を倒すことに執着していた男が、今はもうこの世にはいない。

 あの時、助けようと思えばできたかもしれない。

 だが、助けるという選択肢を俺は選ばなかった。

 この世界に生まれ落ちたばかりの俺からするとありえないだろうが、今の俺は、すっかりこの世界の冒険者になっているといえた。


「シェイドさん!」


「シェイド!」


 背後から聞こえる2人の声に、俺はハッとして我に返った。

 振り返り、必死の形相でこちらに向かってくる彼女たちの姿を見て、少しだけ気持ちが楽になった気がした。


「シェイドさん! 大丈夫ですか!?」


 エリスは駆け寄ってくると、俺の腕を掴んで心配そうに顔を覗き込んだ。

 ピシカも、俺の顔を不安そうに見つめている。


「ああ……大丈夫だ。心配かけたな。生き残ったヤツはいたか?」


「……全員、死んでるよ」


 ピシカは、小さく首を振って答えた。


「そうか……」


 俺はそれだけを言うと、再びマークが最後にいた場所を見つめる。

 頭の中を整理しようとしたかったが、上手くいかない。

 まるで、何かに引っかかっているかのように、上手くまとめることができなかった。


「……シェイドさん、大丈夫ですか?」


 そんな俺の様子を見て、エリスが、心配そうに声をかけてきた。

 その声は、優しく、俺の心をそっと包み込むようだった。


「……ああ、大丈夫だ。心配かけてすまんな」


 俺は、エリスに微笑みかけた。


「まあまあ、シェイドが気に病むことなんてないって! あんなヤツ、自業自得だよ! 全部、あのマークって奴が悪いんだから!」


 ピシカは、いつものように明るく振る舞いながら、シェイドを励ましてくれた。

 そして、エリスもそれに同調するように、


「そうですよ。シェイドさんが悪いわけじゃありません。旧友を失わなければいけないのは辛いことだと思いますけど……そ、傍にはわたしがいますのでっ、何でも言ってください!」


 と少し顔を赤らめ、腕を少し摘んだ。


「はいはーい、私も私も!」


「え、ちょっ、ピシカさん!?」


「いいじゃん、反対側空いてるんだしー」


 そう言って、ピシカは反対の腕に抱きついた。

 俺はそんな2人のおかげで、だいぶ気持ちの整理がついたように感じた。


「……ありがとな、2人とも。俺は、本当にいい仲間を持ったよ」


 そう言って、俺は2人の頭を優しく撫でた。

 エリスは少し照れくさそうにしながらも、嬉しそうに微笑んだ。

 ピシカは「えへへ」と、得意げな表情を浮かべている。


「よし、それじゃあ、王都に戻るとするか」


 俺は、気持ちを切り替えるように、明るい声で言って立ち上がった。


「はい!」


「うん!」


 2人とも元気よく返事をし、俺の隣に並び、王都へと続く道を歩き出した。



 ◆◇◆



 翌日の昼過ぎ、俺たちはようやく王都の門をくぐった。


「つ、疲れたー!」


 ピシカが疲れ切った様子で言うと、エリスも「疲れましたね……」と、言葉少なめでいつも以上に疲れているように見える。


「そうだな、さすがに長距離を歩いたからな。それに、昨日のこともあるしな」


 俺も、体の芯が疲れているような気がした。


「とりあえず、ギルドへ護衛任務の報告だけして、宿に行って今日はゆっくり休もう」


 俺が2人にそう提案すると、2人はすぐにその言葉に賛同した。


「あの、シェイドさん。マークさんたちのことは、どう報告しますか?」


 エリスが、少し不安そうに尋ねた。


「それなんだよなぁ……」


 俺は少しだけ顎に手を当て、考え込んだ。

 あれをそのまま報告して信じてもらえるだろうか?

 むしろ、あらぬ疑いを掛けられるような気もする。


「んー、襲われた証拠もないし、下手に疑われるのもマズイから、ほっとけばいいんじゃない? マークは死体すら残らなかったし、他の連中も埋めちゃったしね。黙ってればバレることはないでしょー」


 ピシカは、いつものように、楽天的な意見を述べた。

 まあ、確かに、ピシカの言う通り証拠は何もない。


「……いや、ギルドへは報告しよう。アイツにも家族はいただろうしな」


「ん、そっか」


 ピシカは少しだけ驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷いた。


 俺たちは、冒険者ギルドに向かった。

 中に入ると、いつものように多くの冒険者で賑わっていた。

 俺たちは受付にいたソフィアに声をかけ、護衛依頼を達成したことを報告した。


「護衛依頼達成、おめでとうございます。それでは、証文のほうを確認させていただきます」


 ソフィアは俺たちから証文を受け取ると、慣れた手つきで手続きを進めていった。


「確かに、護衛依頼達成の証文、確認いたしました。報酬はこちらになります」


 と、硬貨の入った袋を手渡した。


「ありがとう」


 俺は報酬を受け取り、エリスとピシカに分け前を渡した。


「それで、実はもう1つ報告があってな……」


「報告、ですか?」


「ああ。アンハレから王都へ戻る途中で、マークという冒険者とその仲間に襲われて――」


 俺は、マークたちに襲われたこと、そして彼らを返り討ちにしたことを正直に話した。

 ソフィアは俺の話を真剣な表情で聞き、


「――承知いたしました。その件につきましては、こちらでもすぐに調査いたします。明日、改めてお話を伺うことになるかと思いますので、その際はご協力をお願いいたします」


「ああ、わかった」


 どうやら信じてもらえたようだ。

 幸い、マークたちの普段の素行の悪さもあって、俺たちの話はすんなりと受け入れられたみたいだ。

 簡単な事情聴取を終え、明日、ギルドにて再度確認することになった。


「さて、それじゃあ、宿に行くか」


 俺は2人に声をかけ、ギルドを後にした。



 ◆◇◆



 翌日、俺たちは約束通りギルドを訪れた。

 中に入ると、昨日とは打って変わって、ギルド内は騒然としていた。

 特に、人種ではない種族の冒険者たちが、深刻な表情で話し込んでいるように見える。


「なんか、いつもと雰囲気が違うな」


 シェイドは、異様な空気に、思わず呟いた。


「何かあったんですかね?」


「うーん、何か問題でもあったのかな」


 エリスとピシカも、不安そうな表情を浮かべている。

 俺たちは受付カウンターへと向かい、ソフィアに声をかけた。


「おはよう。昨日の件で来たんだが……何かあったのか?」


「あ、シェイドさん。おはようございます。実は、その……」


「ん?」


「はい……。その、非常にお伝えしにくいのですが……」


 ソフィアは神妙な顔で前置きし、


「――教会が、聖戦を宣言したのです」


 と、重々しく告げるのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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