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28.影の弾幕

 マークが現れると、俺たちを包囲していた魔物たちの殺気が嘘のように静まり返った。

 牙を剥き出し、涎を垂らしていた奴らが、まるでスイッチを切られたかのように動きを止めた。

 その異様な光景に、俺は思わず息を呑んだ。


「くっくっ、よう、シェイド。苦戦してるようじゃないか」


 マークは、まるで勝利宣言でもするかのように、高らかに笑い始めた。その顔は、、昔の面影は欠片もなかった。


「マーク、これはいったいどういうつもりだ……っ!」


 嘲笑と優越感で顔を歪めるマークに、俺はできる限り冷静さを保ちながら問いかけた。


「なぜかって? はっ、決まってんだろ! お前が気に入らないからだよ! 特に、お前が俺より優れてるってのがな!」


「……は?」


 マークは、激情を露わにして吠えた。

 その言葉に、俺は怒りよりも先に呆れを覚えた。

 まさか、こんなにも子供じみた理由で、これだけの騒動を起こしたというのか。


「そんなことで、こんな真似を……! たかが、訓練場での決闘に負けただけで、こんな馬鹿なことをするのか!?」


「そんなこと? たかが? ふざけるなッ!! お前はいつもそうだ! 俺のすべてを奪っていく! いつも俺より優れていやがって……! ああ、お前はガキの頃からそうだった。訓練ではいつも一番。村では1度もお前に勝ったことがない。全部……全部! お前が俺よりも優れていたんだ! いつもいつも、俺より優れてるテメェのことが昔っから大っ嫌いだったんだよ!!!」


 マークは過去の恨みを爆発させるように、まくし立てた。

 その言葉には、嫉妬、憎悪、そして、どうしようもない劣等感が渦巻いていた。

 たご、そんなことでこんなことをするなんて……俺は、マークの幼稚な考えに呆れ果てた。

 そんな子供の頃の話、いつまでも根に持っているというのだ。


「……馬鹿げているな。じゃあ何か? そんなことで、関係のない彼女たちまで巻き込んで殺すつもりか? マーク、いい加減大人になれよ」


「黙れ! テメェごときが俺に説教なんかするんじゃねぇ! ……だが、まあ、いい提案がある。こいつは俺とお前の問題だからな」


 マークはニヤリと、まるで獲物を狙う獣のようないやらしい笑みを浮かべた。


「……提案?」


 俺はマークの言葉に嫌な予感を覚え、警戒心を強めた。


「――そこにいる半端者と、獣人をよこせ」


 マークは悪びれる様子もなく、まるで当然のことのように言い放った。


「……は?」


 俺はマークの言っている意味が理解できず、間抜けな声を上げてしまった。

 エリスとピシカも、困惑した表情でマークを見返している。


「お前はいったい何を言ってるんだ……?」


「あん? 何を呆けてんだ? そのまんまの意味だよ。そいつらを飼いたい奴らがいるみてぇでな。まあ、俺もそんなゲテモノどうかと思うけどよ。大人しくそれを寄越したら、シェイド、お前のことは見逃してやってもいいぞ?」


「ふざけるな!! そんなことを、俺が許すと思うのか!?」


 俺は、低い声でマークを睨みつけた。エリスもピシカも、怒りをあらわにしている。


「わからねぇなぁ。そんな人じゃないものに、命を捨てる意味があんのか? それに、お前だってこのままじゃジリ貧だろ? 1匹1匹は大したことない魔物でも、これだけの数相手に勝てると思ってんのか?」


 マークはそう言って俺を挑発し、視線を俺から別の男に移した。


「そこにいる男は《テイマーリーダー》だ。この魔物たちも、命令一つで、一斉にお前を攻撃することもできるんだぜ?」


 その男は、マークの近くにいる以前見た男たちとは違い、これまで見たことのない顔だった。

 他の連中とは違い、どこか落ち着いた雰囲気を持っており、その視線は冷たく俺たちを見つめていた。


「なあ、シェイド。さっきは散々言っちまったけどよ、大人しくその半端者とケモノ女を寄越せば、過去のことは水に流してやるって」


 まるで俺のことを慮ったような口調だが、その内容はますます俺を怒らせた。


「ふざけるなッ!! エリスとピシカは、俺の大切な仲間だ! お前には絶対に渡さない!」


「ハッ! だったら仕方ねぇな! ――おい、あの男を殺せ。女は殺すなよ」


 マークが《テイマーリーダー》の男に命令すると、その男は無言で頷き、片手を上げた。

 そして、その手をシェイドに向けて振り下ろすと、静まり返っていた魔物たちが、一斉に唸り声を上げ、俺に向かって走り出した。


「くっ……!」


 俺は迫りくる魔物たちを《シャドウリーパー》で薙ぎ払った。

 巨大な黒い鎌が、魔物の身体を切り裂き、鮮血が飛び散る。


「『シャドウ』!」


『シャドウ』も俺の指示に従い、縦横無尽に動き回りながら魔物を撃退していく。


「おい、お前らも攻撃しろ!」


 マークの声に呼応し、仲間の男たちが遠距離から弓矢や魔法で俺に向かって攻撃を始めた。


「くっ!」


 遠距離からの攻撃に、俺は動きを制限されて思うように戦えなくなる。


「シェイドさん、援護します!」


「シェイド! なんとか耐えて!」


「エリス! ピシカ!」


 エリスは杖を構えて遠距離攻撃を仕掛けてくる男たちに魔法を放ち、ピシカは俊敏な動きで魔物を倒していく。

 だが魔物の数は一向に減る気配がない。

 いや、それどころか、敵の攻撃はさらに激しさを増し、俺は次第に追い詰められていった。


「このままでは、まずいな……」


 俺は焦りを覚えながらも、打開策を模索した。

 このままでは、いつか力尽きてしまう。


「ギャハハハ! どうしたシェイド!! マスタークラス様はその程度かぁ!?」


 マークが高台から俺を見下ろし、嘲笑っている。

 何か魔物を一掃する方法はないかと俺は考え、


「一掃……そうだ! ――『シャドウ』、戻れ!」


 あることを思いつき、『シャドウ』を呼び戻した。


「おいおい、どうしたシェイド! まさか、もう終わりか!?」


 マークが、勝ち誇ったように言った。

 俺はマークの言葉を無視し、()()()を創り出す。


「? 何だぁ?」


 マークはそれを見て怪訝な表情を浮かべる。

 それはそうだろう。

 これはこっちの世界にはない代物で、俺が前世の記憶から創り出したものだからだ。


「エリス! ピシカ! 距離を取って、木の陰に隠れてくれ!」


 俺がそう言うと、2人はすぐさま理解し、木の後ろへ隠れた。

 そして俺は、それを魔物へと狙いを定め、


「――くらえ!!」


 砲口から無数の影の弾を放出した。


「――グギャアァァァ――ッ!!」


「――グオオォォォ――ッ!!」


「――ギィヤアァァァ――ッ!!」


 影の弾は、魔物たちを次々と撃ち抜き、その巨体を地面に沈めていく。

 撃ち抜かれた魔物たちは、次々と地面に倒れていき、その勢いは止まらない。


「お、おい! マーク!? あんなの聞いてないぞッ!?」


 呆然とするマークに、《テイマーリーダー》の男が詰め寄っているのが見える。

 それもそうだろう、自分の操る魔物が為す術もなく倒されていくのだから。


「な、何だそれ……は……何だそれはあぁぁ――ッ!?」


 マークは、恐怖と困惑が入り混じった悲鳴のような声を上げた。


「そうだな……名付けるなら、《シャドウガトリング》ってとこか」


 俺は、ニヤリと笑いながらスキル名を口にする。

 影の弾幕は魔物の群れを完全に一掃し、辺りには静寂が訪れたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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