26.ランクアップ
「空って、飛んでみるとこんなに速いんだねー」
「そうですね。風が少し冷たいですけど、気持ちいいです」
ピシカとエリスの2人は、最初こそ怯えていたが、今はすっかり空の旅を楽しんでいた。
俺たちは、《モード:フェニックス》になっている『シャドウ』の背中に2人を乗せ、アンハレの街へと戻っている。
「もうすぐ街だな。……ん?」
眼下にアンハレの街並みが見えてきた。
が、何やら様子がおかしい。
街の入口付近が、騒がしいのだ。
「何かあったのか――あっ」
地上にいる兵士たちは、一様に上を向いて指差している。
つまり、原因は俺たちだ。
俺は慌てて街から少し離れた場所に『シャドウ』を着地させ、徒歩で街の入り口へ向かい、臨戦態勢の兵士たちに説明をした。
「――と、いうことでして、決してこの街に危害を加えようとかそういうアレじゃないです」
俺の説明を聞き、顔を見合わせる兵士たち。
どうにかこうにか必死に説明することによって、なんとか納得してもらうことができた。
これだけ大きな騒ぎになるのなら、迂闊に空を飛ぶことは避けたほうがいいかもしれない。
俺たちは時間は掛かったがなんとか街に入り、さっそく冒険者ギルドへと向かった。
ギルドに到着し、受付にいたルークに『黄金果』採取の依頼を達成したことを報告。
ルークは「は?」と間抜けな返事をし、
「これが『黄金果』だ」
俺が現物を見せると、
「そ、そんな馬鹿な……!? あ、ありえない……!」
と、取り乱していた。
「本当にあなたたちがこれを……?」
「ああ、そうだ。何か問題でもあるのか?」
俺がそう言うと、ルークは「いえ……」と言葉を濁した。
「というか、不正をして手に入れたんじゃないですか? あなたたちだけで、そんなことできるわけないでしょう」
ルークは、あからさまに俺たちを疑いの目で見てきた。
「不正って……そもそも誰も取ったことがないのに、どうやって不正するって言うんだ」
「それは……たとえば、誰かの所持する『黄金果』を盗んだり、あるいはその者を謀殺し――」
「――おい」
「――っ」
ある程度は見過ごしていた俺だったが、さすがに看過できなくなってきた。
「自分が何を言っているのかわかっているのか? お前の言葉は、このギルド……いや、冒険者ギルドすべての考えだと思って発言しろよ」
「う……」
俺ができるだけ凄みを持って忠告すると、ルークは押し黙ってしまった。
「ほんとだよ! 私たち……というか、主にシェイドがどんな危険な目に遭ったか、あんたは知らないからそんなこと言えるんだよ!」
「そうです。『疾風の狩人』のみなさんも、認めてくれたはずです」
俺としては、今回のことを認めて謝罪してくれれはいいのだが、2人の言葉にルークは、
「言い訳なんて聞きたくありません!」
と、聞く耳を持たない。
「は、はぁ!? 言い訳なんかじゃ――」
「あなたたちは、黙っててください!!」
ルークは、強引にエリスとピシカを黙らせようと、声を荒らげた。
俺は、またターリスのときのように引き上げるしかないかと考えていると、
「――なにをしておるんじゃ!」
ギルドの奥から、老人の男が現れた。
「ギ、ギルドマスター……!」
ルークは、ギルドマスターと呼んだ男の姿を見て、慌てて襟を正した。
「まったく、奥で聞いていれば、お前はいったい何を考えとるんじゃ! あらぬ疑いをかけ、種族差別をし……本当に情けない。……彼らの言ってることは本当じゃろう。なにせ、そこのシェイドは『マスタークラス』所持者じゃからな」
ギルドマスターは、呆れたようにルークに言った。
「え……?」
ルークは、ギルドマスターの言葉に、困惑した表情を浮かべた。
「あんな風に空から降りてくる冒険者なんて初めてじゃ。あの力を使えば、『黄金果』を取ってこれるのも納得じゃよ」
ギルドマスターは、そう言って頷いた。
どうやら、さっきの騒動はすでにギルドマスターの耳に入っているらしい。
「し、しかしですね――」
「黙らんかッ!!」
ルークが何かを言おうとすると、ギルドマスターは一喝した。
「まったく……ターリスの冒険者ギルドで、差別をしていた受付嬢が解雇されたのをお前も知ってるじゃろう?」
「う……」
ギルドマスターの言葉に、ルークは口を噤んだ。
「お前はもう下がっておれ。後は他の者に担当させる」
「は、はい……」
ルークは、肩を落として裏へと下がっていった。
そして、別の受付嬢がやってきて、俺たちの対応をすることになった。
「すまなかったのぅ。わしはこのアンハレ冒険者ギルドを預かる『ドルフ』じゃ。シェイド、エリス、ピシカ、此度のルークの件、本当に申し訳ない」
は、俺たちに深々と頭を下げた。
俺はちらりとエリスとピシカを見る。
「私は大丈夫です。気にしないでください」
「まあ、私ももういーよ。2度と担当はしてほしくないけどね」
「もちろん、それは約束しよう。お主らに2度と不快な思いをさせないよう、ギルドも改善していこうと思っとる」
俺たちは、ギルドの長であるドルフの謝罪を受け入れ、話を続けた。
「さて、まずこの『黄金果』じゃがの……1つ150万アウルでどうじゃ? もちろん、売ってくれるだけ買い取ろう」
ギルドマスターは、そう言って『黄金果』の買取価格を提示してきた。
「150万!? そんなにするんですか!?」
「ああ、それだけの価値があるものじゃ。『エリクサー』の材料になるくらいじゃからの」
俺たちは、その金額に驚きを隠せなかった。
これはさすがに予想外の金額だ。
俺たちは話し合い、『黄金果』は全部で10個採取できたので、半分だけ売ることにした。
「――5個で本来は750万アウルというところじゃが、今回の迷惑料として50万アウル上乗せし、800万アウルにしよう」
ギルドマスターは、そう言って金貨の入った袋を俺に手渡した。
「では、遠慮なく。ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ、本当に助かった。この依頼は、長年誰も達成できなかったからの」
ギルドマスターは、満面の笑みで言った。
「それと、お主らにはもう1つ、お礼をさせて欲しい」
「お礼、ですか?」
「ああ。今回の功績、そしてこれまでの活躍を鑑みて、お主らのランクを上げることにした」
「ランクアップ……ですか?」
「うむ。シェイドとピシカはシルバーランク、エリスはブロンズランクに昇格じゃ」
ギルドマスターの言葉に、俺たちは驚きを隠せなかった。
まさか、長年上がることがなかったランクが、スキルの力が解放されてこんな短期間で上がるとは思ってもみなかった。
「本当ですか!?」
「やった、ありがとう!」
エリスとピシカは、喜びをあらわにした。
「うむ、これからもよろしく頼むぞ」
俺は、渡されたシルバーランクのプレートネックレスを、強く握りしめた。
「おめでとうございます、シェイドさん」
「シェイド、おめでとう!」
「ああ、ありがとう2人とも。エリスとピシカも、おめでとうな」
「ありがとうございます!」
「ありがと!」
俺たちは、新しくなったプレートネックレスをそれぞれ首にかけ、ギルドを後にした。
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