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21.同じ考え

 ギルドの喧騒が、扉の外にまで聞こえてくる。

 昨日のマークとの再会のせいで、正直、気分が重かった。

 俺が村を出る少し前から俺に対する態度は酷くなっていたが、今はまるで別人のようだった。

 俺は、マークとの決闘に複雑な思いを抱えながら、ギルドの扉を開けた。


「遅ぇぞ! シェイド!」


 ギルドに入ると、入り口付近で待ち構えていたマークが大声で怒鳴った。

 その声は、ギルド内に響き渡り、周囲の冒険者たちの視線が集まる。

 俺はそんなマークを見て、皮肉交じりに言った。


「寝坊ばっかりだったマークが、ずいぶん早起きになったじゃないか。あまり眠れなかったか?」


「ああ、テメェをブチのめせると思うと楽しみでなぁ……!」


 こいつ……。

 俺は嫌な笑みを浮かべるマークに、小さくため息をついた。


「しばらく会わない間に、ずいぶんと悪い趣味になったもんだ」


「ふんっ、口の減らねぇヤツだ。すぐにその生意気な口を利けないようにしてやる。――訓練場は借りてある。付いて来い」


 マークはそう言うと、スタスタと歩き出した。

 俺はエリスとピシカに視線を向け、小さく頷いた。

 3人でマークの後をついていく。


 ギルドの裏手には、訓練場があった。

 街中にあるためか、それほど広くはなく、周囲を建物に囲まれている。

 俺は初めて訪れる王都の訓練場をキョロキョロと見回し、


「……これだけ大きなギルドなのに、人がいないんだな」


 と感想を漏らした。

 その言葉に、マークは鼻で笑って答えた。


「こんなとこを使うのは新人くらいなもんだからな。今回は貸し切りだから、俺たち以外はいねぇ」


「……そうか」


 俺はそれだけ言うと、訓練場の様子を改めて観察し始めた。

 壁には大小様々な武器が掛けられており、床には訓練用の藁人形が転がっている。

 空気は埃っぽく、かすかに汗の匂いが混じっていた。


「んで、武器は何使うんだ?」


 マークの問に、俺は答える。


「知ってるだろ? 俺はスキルで戦うからいらない」


「あぁ? あの黒い影に下手くそな踊りでもさせるつもりか?」


 マークは俺のスキルを嘲笑った。

 だが、俺はその安い挑発に乗ることなく、冷静に答えた。


「少し前の俺だったらそうかもな」


「シェイドさん……」


 エリスが心配そうに俺を見てくる。

 俺はエリスに微笑んで、


「エリス、大丈夫だ」


 と、安心させた。

 ピシカは黙って俺たちの様子を見ていた。


「シェイド、気付いてる?」


「ああ、問題ない。何かあっても必ず守る」


 ピシカに力強く答えると、満足そうに頷いた。


「おい、始めるぞ!」


 マークがそう言うと、訓練場の中央で向き合った。

 俺たちの間に緊張が走る。

 エリスとピシカは、訓練場の端で見守っていた。


「いくぞ!」


 マークが叫ぶと同時に、俺は影を地面に伸ばし、鞭のように操ってマークの足元を絡め取ろうとした。


「――チッ! 《シールドブロック》!」


 マークはそれを、盾のスキルで防御した。

 俺の影は盾に阻まれ、地面に叩きつけられる。


「おらァ! 《レイジスラッシュ》ッ!!」


 マークがその場で下から斬り上げると、赤い斬撃が地を這うように俺に向かってくる。

 俺は冷静にそれを観察し、


「――《シャドウブレイド》」


 と呟き、右手に漆黒の剣を創り出す。

 ……うん、完全に厨二病だな。

 たが、これこそがあの時俺の求めていたものだから、恥ずかしさよりも嬉しさのほうが強い。


「何ニヤニヤしてやがるッ!!」


「まあ……こっちにもいろいろあるんだよッ!」


 俺は《シャドウブレイド》でマークの斬撃を受け止めると、


 ズガガガガガガッ!!


 と、激しい音が訓練場に響き渡る。

 俺の剣はマークの斬撃を押し返す。

 だが――、


「――もらった!」


 マークは《レイジスラッシュ》と同時に距離を詰めており、剣を俺に向けて振り下ろす。

 その瞬間、


「――『シャドウ』」


 俺がそう呼ぶと、マークの横に突如として『シャドウ』が現れる。

 そして――、


「ぐふっ!?」


『シャドウ』は、迷うことなくマークの顔面に強烈なパンチを叩き込んだ。

 マークは衝撃で吹き飛ばされ、訓練場の壁に激突した。


「な、なんだそれは!?」


 マークは、驚きと痛みで顔を歪めた。

 俺はそんなマークに、涼しい顔で答える。


「知ってるだろ? 『シャドウ』だよ」


「あの時の木偶の坊が、こんな……!?」


 マークはまだ状況を理解できていないようだった。

 俺は追撃の手を緩めず、『シャドウ』にさらなる攻撃を指示する。

『シャドウ』は高速で移動し、マークに襲いかかった。

 マークは盾で防御しようとするが、『シャドウ』の攻撃は速すぎてまったく追いつかない。

 マークは防戦一方になり、次第に追い詰められていった。


「ぐぁ……ッ! ――ひ、卑怯だぞシェイド! スキルだけ使って!!」


「それが『シャドウマスター』の本当の力だ。文句があるなら、お前もスキルを使えばいい」


 マークの非難に俺が冷たく答えると、見るからに苛立ちを募らせた。


「――くっ……!!」


『シャドウ』が盾を弾き飛ばし、完全に無防備な状態になった。

 俺が勝負を決めようとしたその時――、


「――やれッ!」


 と、マークが叫んだ。

 すると、四方から《ファイアアロー》と弓矢が飛んできた。

 どうやら周りの建物からのようだ。


「――《シャドウバリア》!」


 俺は咄嗟にドーム型の影を展開し、飛んでくる《ファイアアロー》と矢をすべて防いだ。

 それを見たマークは、唖然と立ち尽くす。

 当然、俺はそんな隙を逃すつもりはないので、『シャドウ』にマークを掴ませ、目の前に投げ飛ばさせた。


「ぐぇッ!?」


 マークが地面に叩きつけられ、呻き声を上げる。

 俺は、《シャドウブレイド》の黒い剣先をマークの喉元に突きつけ、


「俺の勝ちだな」


 と、静かに宣言した。


「ぐっ……クソがッ!」


 マークは悔しそうに顔を歪め、仲間たちに抱えられる。


「これで終わったと思うなよ……ッ!!」


 と、捨て台詞を残し、その場を後にしようとする。

 俺はそんなマークの後ろから声を掛ける。


「お前の言った『スキルがすべてじゃない』ってやつだがな……それについては俺も同じ考えだよ。信じてもらえないかもしれんが」


 マークはそれには何も答えず、去っていった。


「シェイドさん、大丈夫ですか?」


 エリスが心配そうに駆け寄ってくる。


「ああ、大丈夫だ。心配かけてすまない」


 俺はそう言って、エリスに微笑む。


「さっすが、シェイド! 楽勝だったね! アイツラの企みにも気づいてたの?」


「ああ、ギルドで見かけた痩せ型の男がいなかったからな。これだけ周りが建物に囲まれてれば、何かしらあるだろうとは踏んでたよ」


「おー、さすが伊達に年は重ねてないねぇ」


「そこは、『経験』とでも言ってくれ」


 ピシカのからかい半分の言葉に、俺は苦笑いする。


 とにかく、これで過去の因縁に決着をつけれればよかったが、マークのあの感じではまだ何かありそうだ。

 だが、俺はもうエリスやピシカと前に進むことに決めた。

 それを邪魔してくるのが旧友だとしても、俺は立ち止まるわけには行かない。


 俺はマークが去った方向を、じっと見続けた――。

お読みいただきありがとうございます。


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執筆活動の励みになるので、何卒よろしくお願いいたしします!

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