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2.誕生日プレゼント

 俺は、思わず口走ってしまったセクハラ発言を謝罪しようと、慌てて口を開いた。


「いや、スマン! 忘れて――」


 少女がフードを外すと、肩ほどの長さの()()()()()()()()が現れた。

 なるほど、合点がいった。

 彼女は、ハーフエルフというわけか。


「……嫌な思いをする人が多いので、隠してたんです。すみません」


「いやいや、君が謝ることなんてないんだ! むしろ、俺のほうこそ悪かった。すまない」


 彼女に嫌な思いをさせてしまったのは、確実に俺だ。

 俺は慌てて頭を下げると、


「え、え? あ、頭を上げてくださいっ」


 今度は、彼女が慌て始めた。


「わ、私、そんなつもりじゃなくて……むしろ、あなたが嫌な思いをしなかったかと」


「俺が? なぜだ?」


「私が……ハーフエルフだからです」


「あー……俺、そういうのないから」


「へ??」


 そう答えた俺を、ぽかんとした顔で少女が見上げた。


 この世界には様々な種族がおり、俺のような人種を始め、エルフという種族もいる。

 彼女はハーフエルフ、つまり人とエルフの間に生まれた存在だ。

 そして、人とエルフは非常に仲が悪いとされている。

 つまり、彼女は人とエルフのどちらからも疎まれてきたはずだ。

 しかし――、


「まあ、所謂そういう人とエルフの持つ感情ってのは、俺にはないってことだ」


 異世界転生者でもある俺には、そういった悪感情がない。

 そうした人間に会うなんてよほど珍しいのだろう、少女は心底驚いた顔をした。


「……そうなんですね」


 そう言って、彼女は黙り込んでしまった。

 いかん、何か気に障ることを言ってしまったか。

 怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えないが……。


「あー、なんだ。とりあえず、街に戻って飯にするか?」


「あの……」


「ああ、金のことなら心配するな。それくらい奢るさ」


「でも、助けてもらったのに食事まで……何か私にできることありますか?」


「気にするな。そのプレート、アイアンランクだろ? 後輩を助けるのは、先輩の役目だからな」


 少女の首には、アイアンランクのプレートネックレスがぶら下がっていた。


 冒険者はランク分けされており、彼女は1番ペーペーのアイアンランク。

 そして1つ上がると、それに毛が生えた程度のブロンズランクがある。


 ……ちなみに、俺はブロンズランクだ。


 そこから順に、シルバー、ゴールド、プラチナ、そして最上級のミスリルと続く。

 俺くらいの年齢だったらとっくにシルバーランク……いや、マスタークラスのスキルを持っていることを考えたら、ゴールドやプラチナでもおかしくないはずだ。

 うん……これ以上は悲しくなるから、考えるのはやめておこう。


「で、でも……」


「いいって、いいって。そんな大したところに連れてくわけじゃないから。ま、そこなら君がフードを脱いでも、嫌な顔をするような店主じゃないしな」


「あ、ありがとうございます!」


「っと、そういえば……名前まだ聞いてなかったけど、なんて言うんだ?」


 うっかり名前を聞くことを忘れていたことに、俺は今更ながら気づいた。


「えっと……エリス、です。スキルは……『マジックリーダー』です」


「いや、スキルまではいいんだが……俺はシェイド、まあ一応、『シャドウマスター』なんていうものを持ってる」


「マスタークラスですか!?」


 どこかオドオドとして大人しいエリスだが、さすがにマスタークラス持ちには、驚きを隠せないようだった。


「といっても、さっきのサイクロプスの時のように、こうやって『シャドウ』を出して囮に使うくらいしかできないけどな」


 俺は少し自嘲気味に笑って、『シャドウ』を出し、踊らせて見せた。

 一発芸としてはいいかもしれんが、マスタークラスの芸当としては、明らかに不足している。

 だが、こういうのは、期待されて後々ガッカリされるより、先に「役立たずですよ」と言っておいたほうが楽だ。

 ……ちょっと、負け犬根性が染み付き過ぎてるかもしれんな。


「これが『シャドウマスター』……」


「いや、まぁ、うん……。あっ、でもな! 薬草採取の時には結構助かってるんだよ。一緒に採ってくれたり、薬草を持ってくれたり――って、どれもマスタークラスとは思えないよな」


 思わず、『シャドウ』を必死に庇ってしまった。

 どう考えても、マスタークラスという最高峰のスキルにそぐわない能力だが。


「えっと……すみません、ちょっと見せてください」


「見るって、なに――」


「《分析(アナライズ)》」


 エリスがそう言って、俺の顔をジッと見つめた。

 アナライズ……分析ってことか?

 要するに、よくある鑑定スキルみたいなものだろうか。


「今、シェイドさんのスキル、見せていただきました」


「おお、そんなことできるのか」


「それでわかったんですけど……あの、その『シャドウマスター』というスキル、《プロテクト》が掛かってます」


「は? 《プロテクト》?」


「なにそれ?」というのが、俺の正直な感想だった。


「はい。『シャドウマスター』の能力を制限されています……これって、心当たりはありますか?」


「制限!?」


 だから、俺の『シャドウ』はあんなに弱かったのか!?

 考えてみれば、マスタークラスなのに、クラスなしより劣っているほうがおかしい。

 どうしてこんなにも弱いのだと、嘆いた回数は数知れず。

 もはや、ハズレスキルだったんだと半ば諦めていたが、エリスの言葉は闇に差した一筋の光のようだった。


「はい。恐らくこの《プロテクト》のせいで、能力を大幅に押さえ込まれてしまっているのかと」


「そうか……そうだったのか」


 納得、ああ、納得だ。

 どうしてかはわからんが、エリスの説明は俺をすぐに納得させた。

 長年の謎が解明されたことに充足感にも似た思いでいると、


「よろしければ――私がそれを解除しましょうか?」


「……ふぇ?」


 エリスの突拍子もない提案に、思わず変な声が出てしまった。

 


「か、可能……なのか?」


 恐る恐る尋ねる俺。


「はい、まかせてください」


 胸の前で、小さく両手の拳を握るエリス。


「《キャンセレーション》!」


 俺の身体が光りに包まれ、「パキィンッ!」という、何かが割れたような音を感じた。


「はい、これで終わりです」


 俺は、すぐに『シャドウ』を呼び出す。


「は、はは……ははっ!」


『シャドウ』は、これまで見たこともないほど軽快な動きを見せてくれた。


「……あ、あれ?」


 いつの間にか俺の頬には涙が流れ、視界がボヤケてきた。


「す、すまない!」


「シェイドさん……」


 大の大人の男が、少女の前で泣き出すだなんてカッコ悪い。

 そう思って袖で涙を拭っていると、


「――つらかったですね」


 ハッと思って顔を上げると、そこに天使がいた。

 いや、比喩じゃなく、俺には本当にそう見えた。

 どう考えたって、生まれてから苦労してきたのは彼女のほうだ。

 その上、俺のスキルが振るわない原因を特定してくれるばかりか、本来の状態に戻してくれたのだ。

 これが天使じゃないなら、いったいなんだと言うんだ。


「……エリス」


「はい?」


「本当にありがとう。本当に……。もう、言葉だけでは伝えられないくらいに感謝している。君が教祖なら、信者になるくらいにはな」


 俺の本音に、エリスは一瞬ポカンとした後、


「ふふ……あはははっ!」


 と、笑い出した。


「面白い人ですね、シェイドさん。ううん、おかしな人かも。ハーフエルフにそんなこと言う人、聞いたことないです」


「いや、マジでそれくらい感謝してるんだけどな。まあ、まずは、恩人に飯を奢らせてくれ。なんなら、毎日奢ってもいいくらいだ。――あっ」


 そこでふと、俺は思い出した。


「どうかしましたか?」


 今日が、30歳の誕生日だということに。


「……いや、なんでもない」


 ――間違いなく、人生最高の誕生日プレゼントだ。

お読みいただきありがとうございます。


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