18.予想外の再会
神聖エクレシア教国にある召喚の間。
荘厳な空気が漂う中、魔法陣が複雑な紋様を描きながら輝きを増していく。
祈りを捧げる枢機卿たちの声が、静寂を切り裂くように響き渡る。
彼らの視線の先、魔法陣の中央で光が渦を巻き、異世界の門が開かれようとしていた。
「――我らの祈りを! 神聖なる勇者をこの地に!」
教皇グレゴリー・ベネディクトが厳かに宣言した瞬間、魔法陣から眩い光が放たれ、召喚の間を埋め尽くした。
光が収まると、1人の男の姿が浮かび上がった。
その場に伏せていたシスターである『ルシエラ』は、すぐに男に駆け寄り、心配そうに声をかけた。
「勇者様、ご無事ですか?」
男はゆっくりと目を開け、周囲を見渡す。
この世界では見慣れない、日本の高校の制服を着た彼は、状況を理解できずに困惑していた。
「え……? ここは……どこ?」
「神聖エクレシア教国へようこそ、勇者様。あなたは選ばれし者です。さあ、選ばれし勇者様のお名前を」
「……は? 白銀聖哉だけど……」
混乱した表情を浮かべる聖哉に、ルシエラは優しく微笑んだ。
「初めまして、セイヤ様。私はシスターのルシエラと申します。まずは今の状況をご説明させていただければと思います。お部屋をご用意しておりますので、こちらへ」
ルシエラに促され、聖哉は渋々後ろをついていく。
先ほどまでは脳がぐわんぐわんと揺れているようだったが、今は意識もはっきりしている。
どう考えてもおかしいこの状況だが、まずは説明を聞いてからだ。
「こちらです」
「うわ……」
部屋に入ると、豪華な装飾が施された数々のものが聖哉の目に飛び込んでくる。
聖哉は、「これが自分様に用意された部屋なのか」と、すっかり面食らってしまった。
部屋に入り、キョロキョロと首を振っていると、
「――セイヤ様! この度は申し訳ありませんっ!」
と、ルシエラが土下座したのだった。
「え、ちょ、ちょっと!」
聖哉は生まれて初めて見る土下座を、しかもシスターという相手にされる背徳感に、変な気分になりそうになる。
「頭を上げてくれよ!」
「ああ、なんと慈悲深い方でしょう……」
顔を上げたルシエラは、まるで神に祈りを捧げるかのように手を組み、瞳を潤ませながら聖哉を見つめた。
それは、この世のものとは思えないほどの美貌で、いつまでも見ていたいと思うものだった。
「セイヤ様?」
「……は? あ、いやなんでもない――ってかさ、いったいここはどこで、何で俺はここにいんの?」
「セイヤ様は……この世界を救っていただくため、我々が別の世界から呼び寄せてしまったのです」
「呼び寄せたって……それって、異世界召喚ってこと?」
「はい、その認識で間違いありません」
薄々感じてはいたが、まさか自分がそうなるとは思っていなかった。
高校へ登校中に急に光に包まれ、目が覚めたらここだ。
ルシエラの言っていることは間違いないだろうと、聖哉は確信する。
「ということは、なんかチートスキル貰ってたりする?」
「ちーと、ですか?」
ルシエラはぽかんとした顔を浮かべた。
「あー、なんていうか……『異常な力』? みたいなそんな感じの能力ってこと」
「はい、それでしたら勇者様に相応しいスキルがエクレシア神より授けられております。教皇グレゴリー様より、『ブレイブキング』という最高峰のスキルを授かったと聞いております」
「おぉ! なんかすごそう!」
聖哉の得たスキルは「ブレイブキング」。
勇者のための最強のスキルで、例外なく勇者はこれを持つとされ、クラスに関しては違いがあるようだ。
「ふーん、キングクラスね。んで、この上がマスタークラス? いいじゃん、いいじゃん、なんかゲームみたいでさ。最弱から育てるのはダルいし、初めから最強よりもちょっと成長できるくらいがちょうどいい感じじゃん」
どこか他人事とも思える言葉に、ルシエラが笑顔のままピクリと反応したが、聖哉はまるで気付いていない。
「セイヤ様、改めて自己紹介をさせていただきます。私の名前はルシエラといい、今後、セイヤ様のお世話をさせていただきます。ご要望、ご質問等ありましたら、何でも仰ってください」
ルシエラの「何でも」という言葉に、聖哉は思わずドキッとした。
ルシエラは意味深な笑みを浮かべ、話を続ける。
「それでは、セイヤ様の今のこの状況をご説明します」
ルシエラは、聖哉が数多の世界から選ばれた唯一の存在であり、人種にとっての希望の光であること、そして神の儀式によって召喚された聖哉は神に等しい存在であることを語り始めた。
そのルシエラの言葉に、聖哉は気分が高揚していくのを感じていた。
「――今の教国は未曾有の事態に直面しており、世界の均衡が非常に危険な状態です。セイヤ様、あなたには勇者として人種を導いていただきたいのです!」
ルシエラの真剣な眼差しに、聖哉は自分が物語の主人公になったのだと、心を揺さぶられた。
「……俺は何をすればいい?」
聖哉の問いかけに、ルシエラは妖艶な笑みを浮かべながら答えた。
「聖哉様は勇者として、私とともに人種の希望となる『ある国』に行っていただきます」
◆◇◆
「おー、ここが王都か。さすがにデカいな」
トリントの倍ほどもある王都の門をくぐり中に入ると、そこには活気に満ちた街並みが広がっていた。
トリントも綺麗で活気があったが、そこはさすが王都、格が違う。
舗装された道は人で溢れ返り、しっかりとした構えの店が左右にズラッと並び、広場の屋台からは美味しそうな匂いが漂ってくる。
「すごい……ターリスやトリントとは比べ物にならないくらい大きいですね」
「ひゃー、これはほんとすごいね。ちょっとよそ見してると離れ離れになっちゃいそう」
エリスとピシカが感嘆の声を漏らす。
俺は彼女たちの言葉に頷きながら、
「ああ、そうだな。こりゃあ、ワクワクするな」
と答えた。
「もう、浮かれすぎて迷子にならないでよ? 王都は危険も多いって聞くしねー」
ピシカが少し呆れたように言った。
俺はピシカの言葉に苦笑しながら、
「わかってるよ。でも、せっかく王都に来たんだ。楽しまなきゃ損だろ?」
と、3人で顔を見合わせて笑った。
「さっそく冒険者ギルドに行ってみよう」
少しワクワクしながら提案すると、エリスはくすりと笑い、ピシカはやれやれとため息をついた。
俺は少し気恥ずかしくなりながら、冒険者ギルドへと向かった。
道中、様々な店が軒を連ねる賑やかな通りを歩いた。
武器屋、防具屋、道具屋、薬屋、そして美味しそうな匂いを漂わせる食堂。
見ているだけでワクワクしてくる。
「シェイドさん、見てください! あれ、すごく美味しそうです!」
「シェイド、あっちもあっちも! なにあれ、あんなの初めて見たよ!」
エリスが指差す先には美味しそうなパンを売る屋台があり、ピシカのほうは……ほとんどケバブだなありゃ。
「そうだな。後で買って行こう」
「楽しみです!」
「やった!」
子供のように喜ぶ2人としばらく歩くと、トリントのギルドよりもはるかに大きな建物を発見し、俺は「ここだな」と呟いた。
入り口には多くの冒険者が出入りしており、活気に満ち溢れている。
中に入ると、そこは広々とした空間が広がっていた。
壁一面に貼られた依頼書、忙しそうに動く受付嬢、そして見るからにレベルの高そうな冒険者たち。
トリントのギルドよりもはるかに多くの人々が集まっており、熱気と喧騒に包まれていた。
「すごい……こんなにたくさんの冒険者がいるんですね」
エリスが圧倒されたように呟いた。
ピシカも驚きを隠せない様子でキョロキョロと周りを見渡している。
俺はそんな2人を見て、
「ああ、さすが王都だな。どんな依頼があるのか、楽しみだな」
俺がそう言って掲示板へと向かおうとしたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「――あれ? シェイドか?」
俺が驚いて振り返ると、そこには見覚えのある男が立っていた。
「……マーク?」
俺は予想外の再会に、目を見開いて呟くのだった。
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