表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/39

15.大切な約束

「どうしてここに?」


 俺は思わずそう口に出した。

 まさかこんな場所で、ターリスの森で出会ったピシカに再会するなんて、想像もしていなかった。

 ピシカも驚いた顔で、


「あれ? 2人こそ、なんで私の家に?」


 と、翡翠色の瞳を大きく見開いて聞き返してきた。


「私の家? ここが?」


 ピシカの言葉に俺がさらに聞き返すと、


「ピシカねぇちゃん!? 帰ってたの!?」


「おねえちゃん!!」


 家の中からレックとチコが勢いよく飛び出してきた。

 ピシカの顔を見た瞬間、レックとチコの顔は驚きから喜びへと変わり、嬉しそうに駆け寄った。


「レック! チコ! ただいま!」


 ピシカはレックとチコを力強く抱きしめ、再会を喜んでいた。

 彼女の表情は、これまでの不安や緊張が解き放たれたような、安堵感に満ち溢れていた。

 どうやら、ピシカはこの2人の姉のようだが、俺とエリスは状況が飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「ピシカ、おかえりなさい」


「ただいま、お母さん!」


「立ち話もなんだから中に入りなさい。シェイドさん、エリスさん、よろしければもう1度お上がりくださいな」


 マオは笑顔で、俺たちを再度家の中に招き入れてくれた。

 俺たちは促されるままに家の中に入り、テーブルについた。

 先ほどまで家にいた面子にピシカが加わり、久し振りに再会した家族の会話を交わしていた。

 それは、他愛もないものでありながら、深い愛情を感じられる温かい時間だった。

 俺とエリスは、そんな彼女たちの様子を少し離れた場所から眺め、エリスは静かに微笑んでいた。

 しばらくして、ピシカが俺たちのほうへと近づいてきた。


「シェイド、エリス。本当に驚いたよ。まさか、こんなところで再会するなんて」


 ピシカは、明るい笑顔でそう言った。

 俺も頬を綻ばせ、


「ああ、俺たちも驚いたよ。冒険者は少し休憩して故郷に帰ってきたのか?」


 と尋ねた。

 ピシカは少しだけ表情を曇らせ、語り始めた。


「シェイドとエリスに助けられあと、ターリスで冒険者活動を再開させていたんだけど……」


 ピシカは、俺たちがターリスから離れたあとのことを語りだした。

 元パーティーメンバーであるゲインたちの仲間であるディン、俺たちが街を出るきっかけにもなった絡んできた奴らだ。

 どうやらそいつらは、『シャドウ』にボコボコにされたあと、今度はピシカに目をつけたそうだ。

 元々、ディンたちはピシカがゲインたちパーティーメンバーを裏切って、サイクロプスの手柄を横取りにしたと言っていたしな。

 それに、ディンもゲインたちと同じように差別主義者なので、ピシカを獣人というだけで見下していたようだ。


 そういったこともあって、ピシカに嫌がらせをするようになったらしい。

 いや、嫌がらせだけならまだしも、ある時ピシカが狩りをしていると、そのすぐ真横を弓矢が通り過ぎ獲物を横取りされたそうだ。

 さすがに身の危険を感じたピシカは、ターリスから逃げ出す決意を固め、夜中にこっそりと街を抜け出したのだ。


「……それで、トリントへ向かう途中で、故郷の村に寄ったんだ。そしたら、シェイドとエリスがいるんだもん。本当にびっくりしたよ!」


 ピシカは、そう言って明るく笑った。

 俺は、ピシカの話を聞いて、胸が締め付けられるような思いがした。

 まさか、彼女がこんな辛い経験をしていたとは……。

 こうならないように、あの時しっかりと対応しておくべきだったかと、俺は申し訳ない気持ちになった。


「ところで、シェイドとエリスはなんでここに?」


 ピシカが尋ねてきた。

 俺は、ターリスを出てからの出来事を詳細に話し始めた。

 差別のない東方の国へ向かっていること、トリントに一時的に滞在して依頼をこなしていること、そして今回のゴースト退治のこと。

 ピシカは、俺たちの話を真剣な表情で聞いていた。

 そして、エリスがゴーストを《ピュリフィケーション》で倒したと聞いた時、なぜか彼女は一瞬だけ「え……?」と小さく反応していた。


「どうかしたか?」


 俺が不思議に思って尋ねると、


「あ、ううんっ、なんでも!」


 と、ピシカは少し慌てた様子で手を振った。

 俺は、「何か気になることあったか?」と思ったが、深くは追求しなかった。


「――さて、俺たちはそろそろ街に戻るよ。ずいぶん長居しちゃったしな」


「そうですね。お料理、とてもおいしかったです」


 俺とエリスがそう言うと、ピシカは真剣な表情になり、


「私も連れてって欲しい」


 と言った。

 俺は少し驚いたが、ピシカの強い視線に押されるように、


「俺たちは構わないけど……久し振りに会ったんだし、もっとゆっくりしなくていいのか?」


 と尋ねた。

 ピシカはちらりと家族3人を見てから、


「私も東方の国へ連れてって欲しいの」


 と、強い意志のこもった声で言った。

 俺は、ピシカの言葉に驚きを隠せなかった。

 てっきりトリントの街までかと思ったが、まさか東方の国とは。

 差別のない国がある()()()という、あくまで噂程度の話だし、わざわざ家族から離れなくてもと、俺には思えてしまう。

 俺がその理由を聞こうとすると、


「――差別のない国、本当にあるならみんなでそこに移住したいの」


 ピシカはゆっけり話し始めた。


「もちろん、噂は噂でそんなものはないかもしれないけど……もしあるのなら家族みんな――ううん、村のみんなも一緒に行きたいの。でも、いきなりみんなで移動なんて無理だから、まずは私がシェイドたちと一緒に見てみたいの」


 ああ、なるほど。

 あるかどうかもわからないのに、全員で動くのも効率悪いしな。

 それに、危険もあるだろう。

 彼女は率先してその役目を負う、ということか。

 俺はピシカの気持ちを察し、


「わかった。エリスはどうだ?」


「もちろん、一緒に行きましょう!」


 と、エリスは満面の笑みで歓迎した。


「ありがとう、シェイド! エリス! ――お母さん、レック、チコ……私、行ってくるね!」


 ピシカは3人にそう言うと、


「いってらっしゃい。気をつけて行くのよ。無理はしないようにね」


「ねぇちゃん……いつか俺も冒険者になるから、そしたら一緒に冒険しようぜ!」


 マオは優しく微笑み、レックは寂しさをこらえながら力強く、ピシカの後押しをする。

 だが、チコだけは下を向いて黙っている。


「チコ」


 そんな妹の名前をピシカは優しく呼んだ。


「お姉ちゃん、必ず迎えに来るからね。きっっと、みんなが幸せに暮らせるところがあるから! だから、それまで元気に待っててね」


「……うん、わかった! 絶対だよっ、約束!」


「うん、約束!」


 ピシカは、しっかりとチコを抱きしめ、大切な約束を交わした。

 その後、俺たちは一足先にトリントの街へ戻ることにし、ピシカは実家で1泊し、翌日合流することとなった。

お読みいただきありがとうございます。


このお話を少しでも良かったと思っていただけたら、


広告の下にある【☆☆☆☆☆】にて応援をお願いします!

また、【ブックマーク】もしていただけると本当に嬉しいです。


執筆活動の励みになるので、何卒よろしくお願いいたしします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ