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言葉を考える

名作や時代小説に出てくる『人質』について考えてみたお話

作者: 鶴舞麟太郎

2か月ぶりの短編エッセイです。リハビリがてら書いてみました。





 こんにちは、お久しぶりです! or 初めまして!


 エッセイ大好き鶴舞麟太郎です。


 私は以前、「読書のススメ あなたは『走れメロス』をどう読んだ?」という、太宰治の『走れメロス』に関するエッセイを書いたことがあります。この作品、ポイントこそ4桁には届きませんでしたが、なかなか好評をいただいた私の自信作の一つでもあります。


 なお、『走れメロス』という中学校2年生以上なら、ほとんどの人が読んだことのある小説がテーマということもあって、感想欄が大変盛り上がりました。感想そこを見て他の人に勧めてくださった方もいたくらいです。


 賛否両論から補足まで、バラエティ豊かな感想揃いで、本編を書いた私としても、読んで考えさせられることが多かったです。




 ただ、その中に、何点か、「ちょっと認識にズレがあるんじゃないか?」と考えさせられた感想がありました。


 それが今回取り上げる『人質ひとじち』です。






 皆さんは『人質』ってどんな人を思い浮かべますか?


 最近も「市民を人質に~」とか「人質を取って立てこもり~」とか、「身代金目的の誘拐で人質に~」とか、人権を無視した外道な行いが後を絶ちません。



 そして、『走れメロス』の中にも幾つか、『人質』という言葉が出てきます。せっかくですので、青空文庫より引用します。



★とある老爺がメロスに話した言葉 ※( )内は筆者の補足

『(※王様は)このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手なくらしをしている者には、人質(●●)ひとりずつ差し出すことを命じてります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。』


 この王、何という外道でしょう! 「人質になれ!」と命じたうえ、命令を聞かなければ殺すのです。このようなことが許されていいのでしょうか!






★王に処刑されそうになった時にメロスが放った言葉

『このいちにセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質(●●)としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。』


 このメロス、何という外道でしょう! 友人を許可なく「人質にする!」と約束した上、命じたうえ、「帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい」と懇願しているのです。このようなことが許されていいのでしょうか!










 さて、ここまで読んで、なんか変だとは思いませんか?

 メロスに「邪知暴虐」なんて言われてる王様はともかく、メロス自身が平気で人質(●●)を出してるんですから。


 まあ、メロスが『正義の人』かどうかは、ここでは論じませんが、『人質』という存在自体が、現代よく耳にする“それ”とは違いそうに感じませんか?






 ここで、『人質』とは何なのか。辞書で意味を調べてみましょう。


人質ひとじち

①近世以前、借金の担保として人身を質入れすること。

②服従・同盟などの保証として、自分の妻子・親族などを相手方に渡しとどめておくこと。また、その人。多く戦国時代に行なわれた。質人。

③喧嘩、争論、恐喝などで、交渉を有利にするために相手方の者を自分の方に監禁すること。また、監禁される人。

(精選版 日本国語大辞典より)



Q:この中で、最近よく耳にする『人質』はどの意味で、『走れメロス』における『人質』はどの意味でしょうか?



A:最近=③

  走れメロス=②





 つまり、『走れメロス』では、『服従』のあかしとして、王は人質を要求しているのです。

※セリヌンティウスの場合は『死刑囚代理』なのでちょっと意味合いが違います。


 しかも、現代のように無理矢理連れ去るのではなく、『人質を出すように』と命令しているだけです。


 専制君主制の時代に、王の命令に背いてまで人質を出さない人が殺される。これはある意味仕方がないんじゃないかと私は思うのですが……。




「でも、人質になったら監禁されたり暴行されたりするんじゃないの?」


 このように思う方もいらっしゃるでしょう。でも、ほとんどの場合、それは考えられません。もう一度言葉の意味を見てみましょう。


『服従・同盟などの保証として、自分の妻子・親族などを相手方に渡しとどめておくこと。また、その人。多く戦国時代に行なわれた。質人。』



 人質は、この場合『服従の証』なんです。その大事な『服従の証』が虐げられたり害されたりしたら、預けた人はどう思うでしょうか? 普通は「証の意味ねー!」って怒りませんか?


 そう! 『人質を虐待する』ということは、相手に『裏切って良い』という御墨付きを与えているような物なんです。



 古代から中世において、大事な人質を虐げるなんて、よほどの馬鹿でなければしません。仮に、とびっきりの馬鹿が君主だった場合でも、普通は家臣が止めます。残念なことに、止めてくれる家臣すらいなければ、四方八方から外敵に攻められた上、国内では裏切りが続発し、あっという間に滅亡でしょう。



 さらに突き詰めて言えば、人質という熟語は『人+質』ですよね。


 人は問題ないと思いますので割愛しますが、『しち』とはどのような意味でしょうか?



しち

①契約を履行する担保として物を預けること。またはその物。

(イ) 約束の保証として預け、違約のときの償いとするもの。

(ロ) 借金の担保として預けておくもの。借金のかた。

(ハ) 質屋から金を借りるための担保。また、担保として質屋に渡す物品。しちぐさ。

②人質。

(精選版 日本国語大辞典より)




『質』自体に『人質』の意味があるのが面白いですが、昔はそれだけ『日常化していた』という証拠とも言えると思います。


 まあ、これは副次的な意味として、この中で本来の意味は何かといえば、『約束の保証として預けるもの』でしょう。



 最近あまり見かけなくなりましたが『質屋しちや』さんという商売があります。皆さんの中には『質屋=リサイクルショップ』と勘違いしている人がいるかもしれませんが、リサイクルショップに該当する昔の商売は『古道具屋』です。


 では『質屋』とは何かと言いますと、『金融屋』さんなんです。現代の銀行等の金融業と違うのは、担保になるのが土地や証券等ではなく、物品であることです。物品を預けて金を借りる。その借りた金を期限までに返せなければ、質屋は預かった物品を売って、金に換える。この品物が『質流しちながれ』です。


 返済期限までは、あくまで質屋は預かっているだけですから、勝手に処分したり破損させたりはできません。これが契約です。


 しかし、ひとたび期限が過ぎようものなら遠慮会釈無しに処分する。この辺は人質の扱いと一緒ですね。






 現代では、人間を盾にした国家間の交渉はほぼ無くなりました。それは、西欧諸国が血みどろの戦争を繰り返した結果、『国際法』というものが生まれたことが一つの大きな要因でしょう。国際法やそれに則った国家間の条約を遵守していれば、ある程度の安全が担保されるようになったことから、本来あった『人的保証』としての人質は姿を消していきました。これは人道的に素晴らしいことだと思います。


 しかし、その結果、現代では、『喧嘩、争論、恐喝などで、交渉を有利にするために相手方の者を自分の方に監禁すること。また、監禁される人』という意味での『人質』の方が、一般的になってしまいました。


 漢字本来の意味としては奇妙な存在であるにも関わらず、です。




 人間を担保にする『人質』という行為自体が、現代的な人権意識からすると論外な物であることは確実です。


 しかしながら、近代以前において、


『人質政策は、外交や国内不満分子懐柔の大きな、しかもかなり平和的な手段であった』


 古典や歴史に触れる上で、このことは頭の片隅にとどめておいた方が良い。わたしはこう思うのです。




 

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近=③ 走れメロス=② 太宰=① なお、メロスは戻ったが太宰は戻らなかった模様 涙なしには語れない
[良い点] そう言われればそうですね、どうも現代の常識に引っ張られていたようです。 銀行強盗が人質を取って銃を突き付けて……、これが現代日本人の「人質」に対するイメージでしょうね。 歴史を見る時はそ…
[一言] あー、確かに歴史ものに馴染みのない方だと、③をまず想像するかも。 私らは②の例も、それに伴う悲劇も色々知ってるので、違和感なく②だと理解できますけどね。
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