アステルダムへ行くんなら、転移門を使うといいよ
「アステルダムへ行くんなら、転移門を使うといいよ」
教えてくれたのは、防具屋のおっさんだ。
ここはオレが転生したところからすぐ近くにある町。トアル町だ。
この世界では、主要な町は時空転移装置でつながっていて、お金を払えば町から町へ一瞬で着くらしい。
便利だ。
「で、その時空転移装置って、どれくらいのお金がかかるんです?」
「片道、金貨20枚だ」
「それってどれくらいのお金なんだ……?」
高そうだ。
と思って、売り物を見回す。
防具屋へ来たのは、防御力もHPも低いオレが少しでも身を守れる方法が欲しいと考えたからだ。
とはいっても、一文無し。
オレが今着ている服はもともとの世界の服だから、珍しがって売れるんじゃないかと思ったのだが、
そんなものを買い取る余裕はないらしい。
この町に必要なものは、珍しいものじゃなくて、性能のいいもの。
珍しいものを欲しがる余裕はないとのこと。
もっと大きな町でないと、ダメみたいだ。
ケチめ。
防具屋に並んでいる売り物は、当たり前だが防具ばかりだ。
安いものは銀貨数枚。高いものは……金貨10枚ちょっとくらいか。
「銀貨10枚で金貨1枚だ。普通の人間の月の収入が、銀貨20枚くらいかな」
「ってことは、給料10か月分……!? たっけぇー」
「それでも、歩いて旅するよりは安いだろうよ。アステルダムは遠いからな。地道にコツコツ貯めるのがいいさ」
「そんな高いモン、誰が使うんだ?」
「冒険者は命かけてる分、高ランクだと儲かるのさ。あとは、貴族相手の商人とかな。珍しい薬の材料とか高級食材とかは、保存が難しかったりするからな」
「このあたりでもそういうものが採れるのか?」
「いや、採れないよ。いまここでガッツリ儲けたいなら、ダイアモンドドラゴンを討伐するくらいのことをしないと……」
「ダイアモンドドラゴン?」
防具屋のおっちゃんは、しまったという顔をした。
「やめとけやめとけ。死んじまうよ」
おっちゃんは手を横に振ってそれ以上は教えてくれなかった。
だが、オレはあきらめ切れなかった。
「ほ、本当にダイアモンドドラゴンとやりあうつもりなの?」
「こういう時はな、大きく賭けて、大きく取り返す以外にないんだぜ」
ジェリーが怯えていたが、正直言ってオレたちはかなりピンチだ。
腹をくくるしかない。
こういうモンスター討伐といえば、冒険者ギルドと相場が決まっている。
冒険者ギルドに行ってみると、思った通りダイアモンドドラゴンの討伐クエストが張り出されていた。
ランクはA。
討伐さえすれば、だれでも報酬はもらえるらしい。
報酬は金貨35枚。
二人分にはちょっとたりないか。
ダイアモンドドラゴンについて、受付のお姉さんに聞いてみる。
お姉さんは「こんな子が挑むつもりなの?」と怪訝な顔をしながらも答えてくれた。
「ダイアモンドドラゴンは、高い攻撃力・防御力を誇るドラゴンで、攻撃がほとんど通用しない危険なドラゴンです。ドラゴンにしては珍しく飛行しない種で、全体攻撃や遠距離攻撃もありませんが、一撃一撃が重く、人間が耐えられるものではありません。多くの場合、高威力の近接攻撃を、なん日もなん日も使って隙を見ながら一撃離脱して、少しずつ削っていくしかないんです。というのも、特筆すべきはそのスキルで——」
「おおーい。大変だ!」
と、教えてもらっている途中で、慌てた様子で男が入ってきた。
「Aランクパーティ『夜明けの星』が、ダイアモンドドラゴンに負けたらしい!」
「なに!? Aランクパーティ『夜明けの星』が!?」
「なんてこった……!」
ギルドにいた冒険者の人たちが頭を抱えて騒いでいた。
すると、奥から威厳のあるおっさんが出てきて、みんなに宣言した。
「ダイアモンドドラゴン討伐の報奨金を上げる!」
そして張り出されたのは、金貨100枚……!
「す、すげえ額だ……!」
「だが、どうやってあのダイアモンドドラゴンを倒せばいいんだ?」
オレは俄然やる気になって町を飛び出した。
「やるぜやるぜ! オレはやるぜ!」
「で、でもどうやって倒すんだよ?」
「それはこれから考える!」
「ああ……タクマを仲間にしたの、早まったかもしれない……」
町から出て森に入り、あちこち探しているも、モンスターがまるで出てこない。
ジェリーが震えた声で言った。
「ダイアモンドドラゴンがすぐそばにいるから、弱い魔物が脅えて出てこないんだ……!」
と、大きな音がした。
ジェリーがその音におびえて、オレの後ろに隠れる。
ズシン、ズシンと地響きの音。
きらめくダイアモンドの光が、木々の間で光る。
間違いない。
ダイアモンドドラゴンだ。