#12-4
「帰るまでに雨、弱くならなかったなぁ…」
予報ハズレの雨だからか、昇降口で立ち往生している生徒は多い
折りたたみ傘だけど常備していて良かった
「それにしても…喧嘩でもしたのかな。なんでバラバラでいるんだろう」
「澤田さんも傘持ってないの?折り畳みだから小さいけど入って行く?」
「ありがとう。でも今井くんが風邪引いちゃうから弱くなるまで待ってるよ」
それに…と小さな声が聞こえた気がした
一瞬視線が動いた先には倉科さんがいる
僕はそれに気付かないフリをして、空を見上げた
「多分このままだよ」
「でも…」
「うーん…まぁ、僕がひとりで傘を差して帰ったら僕は風邪を引かないだろうね。でも澤田さんは風邪を引くだろう。もしかしたら高熱で寝込むかもしれない。2人で帰ったら2人が軽い鼻風邪だとしよう」
「え?うん…」
突然長文で話したからか、少し戸惑いながらも返事をくれる
「――僕はね、誰かが100点であるために誰かが80点である必要があるなら、全員で90点が良い。そう思うんだ。だから澤田さんが高熱で寝込まないなら、鼻風邪くらい良いんだよ」
「ふふっ、変わってるね」
「僕は真面目に話しているんだけど」
「うん。入れてもらおうかな」
傘を開くと少し傾けて澤田さんを傘に入れる
「茜ちゃんがいること、気付いてたよね…。どうして私を入れてくれたの?」
「澤田さんのこと、なんとなく気になって」
「えっ…っと…、それは…どういう意味で…?」
いざ口にしようと思うと、言葉が詰まってしまう
理由は多分沢山あると思う
ただ、一番大きな理由は恋に近い思いと罪悪感と後悔を同時に抱いている相手に近い人物だからだと思う
「恋…的な、そんな感じ」
「茜ちゃんのこと気にかけてるから、離れてる間も茜ちゃんのことが好きだったのかと思ってた」
「好きとかそういうのじゃないよ」
「じゃあどういうの?」
倉科さんはどこまで澤田さんに話したんだろう
どんな思いを抱いて、どんな風に話したんだろう
「なんだか言いにくそうだから先に言っておくけど、私が聞いたのは「消しゴムをちぎってくれた男の子もバスケをやってた」ってことだけだよ」
「え?…ああ、あのとき…」
「その子がどんな子とか、他になにがあったとか、その子への気持ちとか、なにも知らない。ただなんとなく分かったの。今井くんがその子だって、本当になんとなく」
「…そっか」
女の勘って怖いんだなぁ…
まぁ、なにも知らないなら気にしなくても良いかな
これは「僕の話」だから
昔あった事実を話すわけじゃない
「忘れたことはなかったよ。だけどあるのはいつだって罪悪感と後悔だった。恋に近いなにかがあったこともあったけど…あれを恋と呼ぶのなら、二度と恋なんてしたくない」
「そっか…。ねぇ、私も今井くんもお互いが気になってる。それなら、どうするんだと思う?」
「言いたいことは分かるよ。…でも「気になっている」は「好き」とは違う」
それならやっぱり、僕は倉科茜という人物を今も昔も好きでいないといけない
罪悪感と後悔を含めた、倉科茜を
「難しく考え過ぎなんじゃないかな。恋も結婚と同じでタイミングだよ。伝えるか伝えないか。伝えられた思いをどう受け取るか。全てタイミング」
「僕には屁理屈にしか思えないよ」
「そっか、それならタイミングが悪かったんだね」
その憂いた表情は、壊れないようにそっと抱きしめてしまいたくなるほど儚かった
「そんな顔しないで…」
「じゃあ引き取ってくれる?」
「…うん」
微笑んだその瞳に涙が溜まった
L HAPPY END 3




