#11-3
「帰るまでに雨、弱くならなかったなぁ…」
予報ハズレの雨だからか、昇降口で立ち往生している生徒は多い
折りたたみ傘だけど常備していて良かった
「それにしても…喧嘩でもしたのかな。なんでバラバラでいるんだろう」
「澤田さんも傘持ってないの?折り畳みだから小さいけど入って行く?」
「ありがとう。でも今井くんが風邪引いちゃうから弱くなるまで待ってるよ」
それに…と小さな声が聞こえた気がした
一瞬視線が動いた先には倉科さんがいる
僕はそれに気付かないフリをして、空を見上げた
「多分このままだよ」
「でも…」
「うーん…まぁ、僕がひとりで傘を差して帰ったら僕は風邪を引かないだろうね。でも澤田さんは風邪を引くだろう。もしかしたら高熱で寝込むかもしれない。2人で帰ったら2人が軽い鼻風邪だとしよう」
「え?うん…」
突然長文で話したからか、少し戸惑いながらも返事をくれる
「――僕はね、誰かが100点であるために誰かが80点である必要があるなら、全員で90点が良い。そう思うんだ。だから澤田さんが高熱で寝込まないなら、鼻風邪くらい良いんだよ」
「ふふっ、変わってるね」
「僕は真面目に話しているんだけど」
「うん。入れてもらおうかな」
傘を開くと少し傾けて澤田さんを傘に入れる
「茜ちゃんがいること、気付いてたよね…。どうして私を入れてくれたの?」
「他にバスケ部の子もいたし、倉科さんに声をかけるのはどうかなと思って」
「…あからさまだし、気付くよね」
「というより本人から釘を刺されてね。安易に手を貸すことは本人のためにならないなって。でも本当に困っているなら頼ってほしいな」
そう、僕が勝手に悩むことじゃないから
悩んで協力してほしいって言うならする
でもそんな未来は訪れないと思う。倉科さんは悩んでいないから
切実に困っていないから
「優しいね。普通は関わりたくないよ」
「倉科さんじゃなかったら、そうなんだろうね。でも本気で助けを求められたら行動するかもしれない」
「どうして?」
中学の頃、憧れていた人だから
罪悪感を持ったままだから
今も、あの頃のことを後悔をしているから
「嫉妬とか妬みとかって誰も悪くないと僕は思うんだ。だからって、もちろん嫌がらせは良くない。それだけだよ」
「茜ちゃんが釘を刺した理由、なんだか分かる気がする」
「変に首を突っ込めば酷くなるだけだもんね」
「違うと思うけど…でも、それで良いと思う」
にこりと笑うと、くるりと回ってバス停の屋根の中に入る
「どういう意味?」
「雨の日はこのバス停から乗って帰るの。ここまでありがとう」
「いつもは駅なんでしょ?駅まで行くよ」
「良いの。元々そのつもりだったんだし、良いの」
憂いのある表情に、それ以上は言えなかった
「そっか…、気を付けてね」
「うん、ありがとう」




