#10-1
今日から新しい学校へ通う
校舎を背景に何度も見たパンフレットを出し、部活動のページを開く
「よし、決めた」
職員室に行き、担任と顔を合わせ教室へ一緒に入ると自己紹介
「今井歩です。よろしくお願いします」
適当な大きさの拍手が起きる
「質問!彼女はいるのか?」
こんなこと本当に聞かれるんだ
「いないよ」
「また競争率上がっちゃうじゃんよ~」
どういう意味だろう
「あはは…、その話しはホームルームが終わってからしてね」
「はーい」
酷い愛想笑い
なんの話しかは分からないけど、先生の態度からして重要な話しではなさそう
「「今井くん!」」
「俺というものがありながら他の男を遊びに誘おうって言うのか」
「アンタのことは何度もフッてるでしょ。それにクラスメイトと仲良くしようとしてなにが悪いのよ」
…なんとなく分かった気がする
「放課後、遊びに行きましょ」
「俺たちと行くよな?!」
「ごめん、バスケ部の見学に行こうと思っているんだ。また今度誘って」
「ここのバスケ部厳しいぞ?」
他校で話題になるくらいだからね
「ブランクはあるんだけど、昔やっていたから大丈夫だよ」
「そうか。頑張れよ」
「ありがとう」
ドアを開けた瞬間、誰かとぶつかりそうになる
「あ、ごめん」
「こっちこ…今井くん?」
「倉科さん…!」
「転校生って今井くんのことだったんだ」
転校生が話題になるなんて本当にあるんだ
「他に転校がいなければそうだね」
「…変わらないね」
「進化しないと生き残れないのにね」
「退化するよりは良いんじゃないかな」
「だね…」
微妙な空気が流れる
なにか話題を探そうと視線を動かすと、手にバッシュを持っていた
「あ、それ…」
「ああ、うん。一応続けてる」
「そっか、僕もまた始めようと思ってこれから見学に行くんだ」
「良かった」
話題選びを間違えた
微妙な空気が流れ続ける
「い、一緒に行こうよ」
「あ、そうだね。目的地も一緒なんだし」
歩き始めたは良いものの、空気は微妙なまま
「どうしてた?」
「必要最低限しか学校に行かず、部屋に籠っていた。ひたすらに自分を甘やかしていたよ。倉科さんは?」
「アタシもそうだったら良かったな。ただ鬱々と過ごしてるよ」
中3のある日、僕は練習中に怪我をした
倉科さんは怪我をさせた
互いに相手ではなかった
でも「相手という立場の人間」がどう考えているか考えてしまって交わりの少なかった僕らの交わりは更に減った
ただ、避ければ避けるほど罪悪感に押しつぶされそうになっていることを自覚していた
そんなとき倉科さんの転校が決まり、ほっとした
密かな憧れを抱いていた彼女が転校することにそんな感情を持った自分が以前に増して嫌いになった
「鬱々としていたのは僕も変わらないよ。ただ場所が違うだけ。周囲に気を遣う必要がないだけ、僕の方が楽だったかもね」
「不登校は不登校で家の人とか、近所の目とか、気にすることあるでしょ?辛さとかそういうのって、比べるものじゃないよ」
「倉科さんも変わらないね。優しい」
ただ、これは僕の決めつけ
理想の押し付け
倉科茜は優しい女の子であってほしい
「――もし、怪我の件がどっちかだけだったり、どっちもなかったりしたら、どうだったのかな」
「変わらないよ。強いて言うなら、倉科さんが転校するときに挨拶は出来たんだろうね」
「大切だよ?」
「僕なんかのテンプレートな安い言葉の羅列が?」
そういう意味じゃないのは分かっている
「僕からの挨拶」ではなく「挨拶」が大切なんだ
「そういう卑屈なところは少し好きじゃない。――ねぇ、元々なんとも思ってない人ならあそこまで避けるかな」
「ど、どうだろ。僕の相手と倉科さんはキャラが似ていたから…じゃないかな」
「そうじゃなくて、アタシの話し」
「それは…どういう意味?」
ただ僕が避けていただけなのに
「ポイントガードのくせに」
「なにその悪口か悪口じゃないのか分からない悪口っぽいやつ」
「どっちもだよ。馬鹿」




