#9-2
「綺麗…こんなところがあるんだね」
「ここで曲を作るのが好きなんです。なんだか、ここにいるだけで色々なドラマが見えてくる気がして」
「なんとなく分かるかも。この時間、あそこに人がいたらどんなドラマが生まれるかなって考えることあるから」
いつもマイナスなことばかり考えていて、転校したら変われるかなって少し期待した
でも、実際はなにも変わらない
部活の勧誘ひとつもまともに断れない
当然なんだ
環境が変わっても僕自身がなにも変わっていないのだから
「…今井先輩が見ていた景色には、悲しいドラマが多かったんですね」
「そうだったのかもしれない。でも、そうでもないよ。だって、こうして笑っていられるんだから」
「――ふふっ」
初めて笑ってくれた
「そんなポジティブ先輩に悲報です」
「なに?」
「柿谷さんは今井先輩を落としにかかります。理由は私に負けたくないからです」
「それだと桃矢さんが僕のことを好きみたいに聞こえちゃうよ?」
「この話の主人公は柿谷さんなので、そう聞こえるように話しています」
つまり柿谷さんの勘違い
そして分かっていて慣れている風ということは、良くあることなんだ
「だからバンドのメンバーが足りなくて、クラスメイトたちが面倒事って顔をしていたのかな」
「男子だとそういうことが多いです。女子だと排除することが多いです」
怖いよ
「それで、どうすれば平和に解決出来るかな」
「ひとつ簡単な方法があります。私と付き合っているフリをするんです」
「ああ…、既に敗北したことになるからってことだね。頃合いを見て別れたことにして、柿谷さんがアプローチしてきたとしても「すぐにはちょっと…」みたいな無難なことを言って避け続ける、と」
小さく頷き微笑む
「理解が早くて助かります」
「でもそれって桃矢さんに迷惑がかかるんじゃないかな」
「柿谷さんが暴走しても迷惑なので変わりません。こっちの方が簡単かつ平和です」
なるほど…
でもやっぱり、迷惑の度合いは違うだろう
巻き込んで辛い思いをさせたくない
「ありがとう。でも自分のことだし、自分でなんとかするよ」
「一応言っておきますけど、どっちにしろ私に災厄は降りかかります」
「分かっていて、どうしてそんな部活に入っているの?」
あ、嫌な言い方しちゃったかな
「今井先輩には関係ありません」
「そっか、うん、じゃあ僕も僕で頑張るよ。相手を知らないから信頼出来ないとかじゃなくて、やっぱり傷付いてほしくないんだ」
「無理ですよ」
「じゃあ言い方を変えるよ。僕は関わって傷付くより関わらないで傷付く方がまだ良い。桃矢さんがどっちは分からない。でも僕のことだから、僕の押し付けで行かせてもらうよ」
「そうですか。じゃあ頑張って下さい」




