#7-3
「俺が軽音部に誘ったせいで面倒なことになってごめんな」
「はっきり断らなかったのは僕だからね。それは良いんだ」
いつもこうやって、なんでも諦めてきた
いけないとは分かっていても、慣れてしまった今それを変えることは難しい
「だけど、ひとつ疑問があるんだよね」
「なんだ?」
「分かっていたはずなのに、どうして安易に勧誘したの?」
悲し気に俯く
なんと言うのか分かった
でも、僕はそんな言葉を望んでいるわけじゃない
「…ごめん」
「謝ってほしいわけじゃない。理由が聞きたいんだ」
「知らなかった」
「慣れてる感じだったのに、どういうこと?」
あれ…?
でも、入学と同時に入部したと仮定しても3ヶ月くらいしか経っていない
それなのに、それより慣れていそうだった
「2人は元々知り合いだったらしい。中2のときに桃矢が転校して、高校入学と同時に戻って来た。現状のようなことがあったのは中学のときなんだと思う。少なくとも、俺は知らなかった」
「分かったよ。なにか隠しているね」
「っ…!」
俯いていた顔を勢い良く上げる
「それくらい分かる。馬鹿にしないでくれないかな」
「ごめん…。俺も同じ中学で、噂程度で存在は聞いたことがあったんだけど顔も名前も知らなかった。だから忘れてたけど、こんなことになってやっと思い出した。本当にそれだけなんだ」
「分かった。信じる」
クラスメイトの態度と矛盾する
でもこれ以上聞くことは難しい
何故なら、こうして対峙している理由が「粟野くんが僕を呼び出した」から
なんと言うか、どこまでは言うのか、決めてあるはず
それに、これ以上責め立てるようなことを言うのも気分が悪い
「話しがそれだけなら帰るよ」
「やっぱり…怒ってるよな」
「いいや、読みたい本の発売日だから早く本屋に行きたいんだ」
それで早く読みたい
「そっか、本の方が大切か」
「本の方が大切なら買ってから来れるように時間を調整するよ」
「それもそうか、ごめんな。…ありがとう」
「また学校で」
返事をしなかった理由は色々ある
ただ、返事が出来なかった理由ならひとつ
最後の一言を、まだ受け取れないから




