#7-1
「第一回今井くん争奪戦、料理対決ー。どんどんパフパフ」
「家庭科の授業でマフィンを作りました」
目の前に透明な袋に入ったマフィンが置かれる。口がとめてあるリボンの色は青と赤
ボクシングですか、じゃあ殴り合って決めて下さい
「どうしたんですか?早く食べて下さい」
正直に言おう
どちらも美味しそうに見えない
赤が少し焦げているのは砂糖の入れ過ぎが原因だろうか
青は半生な気がする
でもプレーンだと決まったわけじゃない
いや、その前に言っておかなくてはいけないことがある
「あのさ…勝負をするのは別に良いんだけど、僕彼女募集してないからね?」
「勝負してる最中に気が変わるかもしれないじゃないですか。良いから早く食べて下さい」
「う、うん…」
赤いリボンをほどき、マフィンを頬張る
「っま…!」
死ぬほど甘い!!!!
むせそうになるのを必死に堪えて飲み込む
勢いそのままに青いリボンもほどくと口に放り込む
「バ…!??」
一瞬、桃矢さんの肩がぴくりと動いた
バナナは嫌いだ
それはもう、名前も聞きたくないくらい
少し焼きが足りたいことなんか気にならないくらい
ただ、青い方を桃矢さんが作ったと分かって、何故こうなったのか分かった気がした
多分桃矢さんはお菓子作りが不得手ではない
だからレベルを柿谷さんに合わせた
「うん…っと、ふ、ふたつとも美味しかった…よ」
「どっちの方が美味しいんですか?」
「その前に水分補給でもしたらどうですか。普通お菓子というものはお茶と一緒に食べることを考慮していますから」
バナナが苦手だと気付いてそんなことを言ってくれているのだろうか
もしバナナが嫌いじゃなかったら、青を選んだだろう
それに気遣い
マフィンの美味しさで決められないなら、そういう判断でいくしかない
「そうするよ」
ゴクゴクと買っておいた紅茶を飲むと、2人に向き直る
「青いリボンのマフィンを選ぶよ」
「そっちは桃矢のだから、桃矢の1勝だな」
「そっか、ちょっとお手洗いに行ってくるよ」
うずくまり気味でゆっくり歩いていると、ドアが開く音がして僕の方へ足音が迫ってくる
足音の重さ的に女子ではない
良かった
「大丈夫か?確かにあまり美味しくないけど…どうした?」
「ごめん、甘いものもバナナも苦手なんだ」
「マジか。このまま帰るか?」
「そうさせてもらうよ。最低限必要なものはポケットに入っているから、急な用事だとでも言っておいて」
でもお弁当箱…
明日の朝学校の水道で洗わせてもらって、帰ったらしっかり洗おう
「こんなときでも他人、か。それが良いところなんだろうな」




