#6-3
「先輩とわたしって家、同じ方向なんですね。なんで今まで会わなかったんですかねー?」
「土曜に引っ越して来て、今日が初登校だからだね」
「え、そうなんですか?じゃあ一目惚れってやつですか」
一「目」惚れではなく一「聞」惚れだね
なんて読むのか知らんけど
「え、なんで黙るんですか」
「あまり嬉しくないなって」
「そんなことないですよ。わたし、嬉しいですよ?」
だから近い…
「あ、ありがとう…。だけど僕軽音部には入部しないから」
なんでとか言われるんだろうな…
考えただけで面倒
「分かります。沙理ちゃん、さっきもウザかったですよねー。折角先輩と2人きりになろうとしてるのに。大丈夫です、わたしも辞めますから」
「えっと…どういう意味?なんで僕が入部しないと辞めるの?」
「え?だって先輩、わたしのこと好きですよね?」
当然でしょ?って顔されても…
むしろ苦手だよ
「良いですよ、付き合っても」
「どこをどう誤解したらそうなるのか分からないけど、好きじゃないよ。だから付き合わない」
「恥ずかしがらなくても、誰も聞いてないですって」
話しが通じない
このままこの会話を続けて有耶無耶にするか、一旦付き合って別れるか
そんなところだろうか
「…まだ知り合ったばかりだし、お試しなんてどうかな?」
「良いですね!じゃあまず呼び方から変えましょう。わたしは敬語じゃなくて良いですよね?」
失敗したかな…
「う、うん…」
「でもやっぱり、年上なわけですから…わたしは歩さんって呼びますね。歩さんは未知留って呼んで下さい」
「呼び捨てってあんまり得意じゃなくて…。未知留ちゃん、で良いかな」
「照れ屋さんなんだ。良いよ」
やっぱり苦手だ…
***
「昨日無事に帰れたか?」
確か宇崎くん
真っ先に声をかけてくれたってことは、こういうことだろうか
昨日は突然だったからなにもしなかったけど、大事になっていなければ助けてくれる気がある
それなら無理だ
やっぱり昨日きちんと断っておくべきだった
少なくとも有耶無耶にしておくべきだった
「あはは…、あんまり。というより、マズいかな」
「俺だってバレない範囲なら手伝うから。頑張れ」
「宇崎くん…だったよね。そう言ってもらえるだけで嬉しいよ」
宇崎くんはなにかを悟ったように悲しそうな顔をして顔を逸らすと、一瞬だけ再度僕を見て席へ戻った
他のクラスメイトも良くない状況を理解しているらしく、誰に話しかけられることもなかった
「歩さんっ」
「ど、どうしたの…」
「どうって…一緒にお弁当食べようと思って来たんだよ」
「そっか…。折角晴れてるし、外で食べようか」
「うんっ」
『こういう状況。どう思う?』
移動しながら用意しておいた手紙を宇崎くんの机に置いた
「それでね――」
「ね?可笑しいでしょ?」
「うん、そうだね」
昼休みまだ終わらないのかな
「あ、予鈴だ。好きな人と過ごすと時間って短い」
だから僕は長く感じたけどね
「放課後、また行くね」
「う、うん…」
机の上には少し汗をかいているイチゴオレと、それを重しにして飛ばないようにしてある小さな紙があった
『ごめん』
その後別れを何度切り出しても泣かれたり有耶無耶にされたり誤魔化されたりで、関係はずっと続いている
当然、クラスに友達はいないし部活動には属していない
BAD END 2




