#2-6
「急に…ごめんね」
「ううん、どうせ暇してたから」
「ひとりだと店員さんに声かけられたときに困るし…その、男の子の意見が聞きたいと思って…ご、ごめんね、服の買い物になんて付き合わせて」
そんなに恐縮されることじゃないと思うんだけど…
「大丈夫だよ、行こう。どこか見たいお店はあるの?」
「特には…」
「じゃあ歩いて気になったところに入ろうか」
「うん」
「付き合ってくれてありがとう」
「ううん、僕も楽しかったよ。少し休憩してから帰ろうか」
「え、だ、大丈夫だよ。これ以上付き合わせるのは悪いし…」
正直自分が疲れただけなんだけど
「実は限定フレーバーが飲みたくて」
これも嘘じゃないし、良いよね?
「あ、そ、そうなんだ。…行こっか」
案内された席に座ると意を決したように口を開いた
「あ、あの…なんでわたしの方に来てくれたの…?」
同時だったのは僕が先約優先であることを察していたから、恨みっこなしでとそうしたわけか
でもそれだと、まるで2人が僕のことを好きみたいだ
自意識過剰は良くない
「赤城さんは理由に察しがついたからね」
「え?」
「本の感想はいつでも話せるけど、きっと黄朽葉さんはそうじゃないと思ったから」
「え…えっと…」
なんで視線が泳いでいるんだろう
「黄朽葉さんが声をかけられそうな男子って宇崎くんぐらいかなって。でも宇崎くんと2人で出掛けるわけにはいかない。ってことかなって思ったんだけど、違ったかな」
「ち、違うよ…」
「じゃあどうして?」
「それは…その…」
別に責めてるわけじゃないんだけど…
「す……、だから…」
…えっと、ほとんど聞こえなかった
聞き返したら謝られそうだしなぁ…どうしたら良いかな
「す、好き、だからっ」
好き…スキ…すき…………!??
「今井くんははっきり言わないと分からないって、赤城さんが…」
「相談が出来る仲になったんだね。それは良かったよ」
「そ、それは…その、ただの偶然だけど…。は、話し逸らさないで」
バレた
「ごめん、そんな気はなかったんだけど…」
確認しなくちゃいけないことがある
「そんなことしないと思うし、怒ると思うけど、まずひとつ確認させてほしい」
「なに…?」
「ドッキリじゃない…よね」
否定されても俄かに信じがたいけど
「そんなこと…!しないよ」
「うん、ごめん」
普通そう言うよねって、完全に信じられなくてごめん
「それに、それなら放課後の方が簡単だと…思う」
「そうだね。でもそうしないといけないような人生だったんだ。たった16年と少し生きたくらいでって感じだけどね」
「わたしはそう思わないよ。…その、人生を1日に例えると20歳が夜明けだって聞かない?」
なんとなく、本当になんとなく
返事をする気にはなれなくて、でも反応をしなくちゃ駄目だって思って、小さく頷いた
「あと3年で夜明けなんだよ。夜明けって6時くらいかな。だとしたら1年は18分だから、あと1時間もしない内に夜明けなんだよ。5時間もあったら、色々なことが出来るよ」
少しも言葉を詰まらせず、少し早口に言う黄朽葉さんをただ見ていた
「だから…そんな悲しそうな顔しないで」
「ありがとう」
「ううん。…帰ろう」
このまま優しさに甘えて、なかったことにして良いのだろうか
いつも僕は卑怯だ
今だって、躊躇っている理由は失うのが怖いから
まだ手にしていないのに、変だよね
「こんな僕を、失礼なことを言った僕を、受け入れてくれるのなら、僕と付き合ってほしい」
「…本当に?」
「うん」
「嬉しい」
こんな卑怯な言い方すらも赦してくれるんだ
僕はきっと、黄朽葉さんを好きになるだろう
L . HAPPY END 4




