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ドゥームズ・デイ・クロック  作者: レグルス
聖組織編入編
9/16

パラダイス・ロスト

 聖堂の様な建物の一室。長い机と幾つもの椅子が並べられ、机の上には蝋燭(ろうそく)と、料理や飲み物が置かれている。


 椅子には十数人程の人が座り、各々が自由に(くつろ)いでいた。


「さて、お待たせしましたね、皆さん」


 漆黒のドレスを着た少女、ミノスが両脇に別の少女を引き連れて現れ、席に着いた。


「此れで手数は揃い、いよいよ我々の悲願を叶える時が訪れました」


 机の上に両足を組んで腰掛ける少女が口を開いた。あのメルカートで寥達を襲った少女だ。


「何でも良いけど、退屈だから早く終わりにしてくれない? 私にとっては何だって構わないのよね」


「大丈夫。貴女の期待は裏切らない様に、マリティアが手配してくれている(はず)よ」


 名前を呼ばれたクリーム色の髪と黄色い瞳をした少女は、マグカップに入った、ホットチョコレートを一口(すす)り、答える。


「既に敵の主力を含む、全体戦力の半数以上は撃破済み。後は大々的に宣伝(プロパガンダ)を行って民衆の不満を(あお)り、大規模なデモを起こさせる。完璧なタイミングだわ」


 少女は当たり前の様に淡々と告げると、目を閉じてもう一度ホットチョコレートを(すす)る。


「其処で貴女達"七罪(セプテム)"にデモの手伝いをして貰いたいのよ」


 ミノスが告げると、各々が違った反応をする少女達の姿が有った。


「フフフ……此れでまた支配域を拡大出来るわ。(いず)れこの世の全ては私の手に……」


 白銀の髪に橙色の瞳をした少女は満足気な笑みを浮かべ、紅茶を(すす)る。


「え~面倒臭いなぁ。シェリル頼んだよー」


 無造作に伸ばしたボサボサの長い灰色の髪と緑色の瞳をして、眼鏡を掛けた少女は隣に立っているスーツ姿の女性に声を掛けた。


「了解しました」


 女性は淡々と了承する。


 そして、ミノスは席を立つと改めて宣言した。


「全ての人々の"自由"の為、我らは改めてここに誓おう。必ずや全てを解放すると!」


 拍手喝采とは成らなかったが、遂にその闇が動き出した……。




 ー同時刻、中央学園ー


「どうしたの寥? 貴方の力はそんなもんじゃないでしょ!」


 既に何度も彼女に吹き飛ばされ、全身が痛みながらも寥は立ち上がる。


勿論(もちろん)、まだ打ち込みが足りないよフレデリカ!」


「良く言ったわ! なら、見せてあげる。私の本気を!」


 寥とフレデリカは訓練に励んでいた。勿論(もちろん)フレデリカは最初から、タービュランスを発現している。


 そして、全身に風を纏い、学園2位の刀矢に連撃を喰らわせた、奥義を発動する。


「行くわよ! 奥義、『ストリーム・レイン!』」


 フレデリカの姿が消え、寥は目を閉じた。


(彼女の能力は風を利用したものだ。つまり彼女が動けば気流に変化が現れる……)


 寥は何度も打ち込まれている内に、彼女の能力の特性に気付いたのだ。


 ふわりと(わず)かな風の変化を感じ、素早くサイドステップして初撃を(かわ)す。


「嘘!?」


 フレデリカは初撃が外れた事に唖然(あぜん)とした。


 その後何度も寥に突っ込むが、全てを避けられてしまうフレデリカ。


「どうして!? どうして当たらないの!?」


「君のその武器の特性は見破ったよ!」


 今度は寥が素早い連撃で彼女を攻め立てて行く。


 防戦一方になった彼女は、迫り来る刃を(さば)く事しか出来なかった。


 そして寥は彼女の背後に素早く回り込み、剣を振りかぶって、一撃を与えた。


「ぐっ!」


 フレデリカは遂に膝を着いた。


「せっ……成長したじゃない……寥」


 寥は彼女の手をとって立ち上がるのを補助した。


「一体……どういうトリックなの?」


 彼女は疲労と痛みで少しだけ、顔をしかめながら(たず)ねる。


「君のタービュランスは風を利用した能力だからね。(わずか)な気流の乱れで居場所を捕捉出来る様になったんだ。何度も打ち込まれている内にね」


 寥が告げるとフレデリカは笑った。


「ふふ、もう弱点を見抜かれてたのね。貴方の成長の早さには驚かされるわ」


 能力者相手にも立ち回れる様になって来た事が嬉しく、寥も笑う。


「フレデリカが何度も打ちのめしてくれたお陰で分かったんだ。ありがとう」


「何それ? 皮肉?」


 フレデリカは冗談と分かっている為、笑いながら返した。


 お互い親友の様にすっかり打ち解けあった2人は、(はた)から見たらまるで付き合っている様に見えた。


「ほぅ。お前にも立派な()()()()()()()が居たとは驚きだ」


 同じく訓練をしに来た刀矢が、この間のお返しと言わんばかりに言う。


 フレデリカは赤面(せきめん)して慌てふためいた。


「一応言っとくけど、そんなんじゃないから! 教導役がクラスメイトを指導するのは当たり前の事でしょ!」


「冗談に決まっているだろう。いつぞやのお返しだ」


 刀矢が冷静に返す。寥は話に付いて行けずに呆気(あっけ)らかんとしていた。


「まったく! からかわないでよ!」


 フレデリカは両腕を組んで、目を閉じて外方(そっぽ)を向く。


「あっ! ヤッホーお兄さん! 久しぶり!」


 常にテンションの高い少女エリンがやって来た。


「久しぶりだね。これから訓練するの?」


「そう! 久しぶりに先生が訓練してくれるんだ~」


 エリンはえへへ~と笑みを浮かべる。相当嬉しい見たいだ。


 そこに勝太と美華もやって来た。


「やっぱりここに来てたか。んで、進捗(しんちょく)の方はどうだ寥?」


「大分慣れて来たよ。何時までも助けられっぱなしは嫌だからね」


 そして、勝太は珍しく真面目な顔になり、独り言の様に呟いた。


「正直あの一件以来、止めちった奴も多いからなぁ……」


 そう、学園のツートップが無惨に打ちのめされ、その恐怖心から辞退してしまった生徒が多いのだ。


 特に中央学園は新規入学生が最初に入学する学園でもある為、理想と現実の差から諦めてしまう者も多かった。


 今や此処にいる6名と、数十人の生徒が残っている程度だ。そして彼らも自主的な訓練に励まず、座学をして戦闘を避けている。


「まぁ、無理も無いよな。あんなもの見せ付けられたらさ」


 勝太は少し寂しがっていたが、自身の"戦う理由"の為に、在籍する道を選んだ。


 美華も同じく決意を固め、戦う事を選んだのだ。


「先生! 早く訓練しようよ! ボク待ちくたびれたよ~」


 そんな暗くなった雰囲気を物ともせず、自己主張をするエリン。彼女のお陰で場の空気は明るさを取り戻し、各々が訓練を取り組み始めた。



 (しばら)く訓練を繰り返し、休憩に入る各自。飲み物を飲みながら、雑談を交わしていた。


「相変わらず先生は強いなぁ~。って事はお姉さんはもっと強いの!?」


 目を輝かせながらフレデリカを見つめるエリン。


「それは()って見ない事には何とも……」


「じゃあじゃあ、後で相手してよ! お願~い」


 フレデリカは困惑した顔で答える。


「良いわよ。(ただ)し全力で行くから覚悟してね!」


「ヤッタ☆ また楽しめそうだ!」


 今にも跳び跳ねそうな勢いで喜ぶエリン。


 彼女と1度闘った事のある寥は、あのたまに見せる冷酷な表情を思い出し、身震いした。


「ん? どうした寥? 便所か?」


 そんな様子の寥を見て勝太は()り気無く(たず)ねる。


「いや、ちょっとね……。でも行っとこうかな」


「なら俺も付き合うぜ。丁度したかったんだよな」


 そう言って2人はトイレへと向かった。


 一方、ジュースを飲み終えたフレデリカは、ボトルをゴミ箱に捨てた後、シュミレータールームへエリンと共に入った。


「これは面白い物が見れそうだな」


 刀矢が呟くと、美華は興味津々と2人の様子を見つめる。


 フレデリカは深呼吸をして意識を高める。そして翡翠色の光に包まれ、タービュランスを顕現する。


「わーお! それが噂の幻創天装(マギア・クラフト)だね☆ 見るのは初めてだよ~」


 エリンはそれがどんな物か知ってか知らずか、臆する事無くテンションを上げる。


 そしてエリンは、背負っていた大剣を片手で取り出し、そのまま立ち尽くす。


 やがて試合開始を告げるブザーが鳴り響くと同時に、両者の姿が消える。


「えっ!?」


 美華は初めて見る光景に驚愕(きょうがく)した。


 ルーム内では互いの姿など見えず、激しい火花だけが散っている様にしか見えなかった。


「刀矢先生には見えているんですか?」


「ああ、(かろ)うじてな……」


 美華の純粋な質問に真剣な顔をして答える。


(エリンの奴、相手に合わせてるのか?)


 刀矢は自分と戦っている時よりも、より素早く、より鋭い太刀筋のエリンを見て、自分との戦いより本気を出している事を(さと)る。


(何この子!? タービュランスに生身で付いて来るなんて!)


 互いに武器が弾き合う反動を利用して距離を離し、再度突撃する戦法を執っている。


 フレデリカは趣向(しゅこう)を変えてみる事にした。


『ウィンド・カノン!』


 フレデリカは距離を離した後、再度接近するのでは無く、風の砲弾を放った。


「ふふ~ん、さすがお姉さん」


 しかし、エリンは空中で身体を(ひね)り、上手く(かわ)した。


「そこは予想済みよ」


 フレデリカは一瞬で飛翔し、エリンへ突撃する。


『ゲイル・ヴォルテックス!』


 まだエリンが砲弾を(かわ)している最中(さいちゅう)に攻撃を仕掛ける。


 丁度背中から一撃を喰らわせる事に成功し、大きく吹き飛んだエリンは、そのまま天井に勢い良く激突し、やがて落下してくる。


 フレデリカはその隙も逃さず、(かかと)落としをお見舞いし、床に大穴を穿った。


 しかし、エリンは尚も立ち上がり、大剣を床に突き立てて杖代わりにし、何とか立っている。


「あぅ~頭がクラクラするよ~」


 天井や床に頭部を強打した事によって、脳震盪(のうしんとう)を引き起こしている様だ。


 フレデリカは床に着地し、エリンの様子を見守る。


「うぅ……目がまわる~。気持ち悪いよぉ……」


「あの、大丈夫?」


 フレデリカはそっと近付く。


「うっ……もうダメだぁ……ウェェ……」


 エリンはそのまま嘔吐(おうと)してしまい、吐瀉物(としゃぶつ)を床に撒き散らす。


「ああ、本当にごめんなさい!」


 フレデリカは慌てて駆け寄り、彼女を支える。


「良いんだよ……お姉さん。これで良いんだ……」


 急に人が変わった様に低い声で告げるエリン。


「これが戦場(いくさば)だったらボクは死んでる……」


 一呼吸置いて、エリンが口を開く。


「それにしても……お姉さん強いね……油断しちゃったなぁ……」


 普段の声のトーンに戻ってはいるが、何処か弱々しく、涙目を浮かべていた。


 フレデリカは彼女を肩で支えて歩き、シュミレータールームを後にした。そして、彼女をベンチに寝かせて休ませる。


「ありがとう……お姉さん……」


「いえ、こっちこそごめんなさい!苦しいわよね?」


 しかし、エリンはえへへと笑い誤魔化す。


 そこへトイレに行っていた2人が帰って来た。


「えっ!? エリン!?」


 寥が驚き彼女に近付く。


「やぁ、お兄さん……。ボク負けちゃった……」


「じゃあ、フレデリカがエリンを?」


「まぁ、ちょっとやり過ぎちゃったんだけど……」


 フレデリカはばつが悪そうに(うつむ)く。


「凄いじゃないか! 僕なんて一方的にやられちゃったよ……」


 寥が言うとフレデリカは、今の寥なら勝てるかも知れないと述べる。


「ボクをあんまり甘く見てると、痛い目に()うんだからね!」


 寥はその言葉で、やはりあの時の表情を思い出し、強張(こわば)る。




 エリンの体調が良くなった所で、各自片付けをして其々の寮へと戻る6人。


「じゃあ、また明日ね」


「うん、またね」


 寥とフレデリカは挨拶を交わし、他の4人も其々挨拶を交わす。


 自室へ戻った寥と勝太は、ベッドに横になる。


「疲れた~」


 ほぼ2人同時に告げて、(くつろ)ぐ。


「なぁ寥! ぶっちゃけどうなんだよ?」


「えっ? 何が?」


 いきなり質問されて驚く寥。勝太はニヤニヤ笑いながら続ける。


「決まってんだろ! フレデリカの事だよ!」


「彼女がどうかしたの?」


 寥は質問の意図が読めておらず、首を傾げる。


「あー分かったよ! じゃあ、単刀直入に聞くけどさ、フレデリカの事どう思ってるんだ?」


「どうって……頼りになるし、今は良い友達って感じかな?向こうはどう思ってるか知らないけど……」


 勝太はつまらなそうな顔をして、がっかりする。


「なんだー、てっきりアイツの事好きなのかと思ってたぜ」


「えっ!? 何でそうなるのさ!」


 寥は予想外の返答に驚き、呆気(あっけ)にとられる。


「いやー、何か良い感じじゃん2人。何か有ったのかと思ってさ」


「ただ打ち解けただけだよ。互いに理解し合ったと言うか」


 成る程ね、と納得した様に(うなず)く勝太。逆に寥は質問を返す。


「じゃあ逆に聞くけど、勝太は美華の事どう思ってるの?幼馴染み何でしょ?」


 其れを聞かれて明らかに動揺する勝太。


「べっ、別にただの幼馴染みだよ……」


「その反応だと好意はあるんだね」


「お前、案外天然そうに見えて鋭い奴だよな……」


 勝太は痛い所を突かれた様で、焦り出した。


「まぁ、正直言えば小学の時から片想いしてるよ……」


 だが、勝太は性格の割には意外と小心者らしく、中々想いを伝えられ無いそうだ。


「その内、刀矢辺りの事好きになっちゃったりしないかな?」


「止めろよ! そう言う冷やかしは! 此方は真剣に悩んでんだから!」


 ごめんごめんと謝る寥。


 勝太は気分転換の為に、部屋に備え付けられているテレビを点ける。


 丁度バラエティー番組がやっていて、良い気晴らしになった。


 その時、画面にノイズが走り映像が切り替わる。


 テレビだけで無く、置いてあったスマートフォンにも同じ映像が映し出される。


 其処には1人の少女の姿があった。


「全世界の皆さん、こんばんわ。番組の途中ですが此処で大事なお話があります」


 少女は不敵な笑みを浮かべ続ける。


「私の名前はミノス。パラダイス・ロストと言う組織を創設した者です」


 寥も勝太も真剣な表情で画面を見つめる。


「さて、本題ですが、皆さんは感じた事は有りませんか? 何故自分だけが苦しむのか、他人との差は何かと」


「自分だけが苦しまねば成らない理由は何か、仕事をしなければ行けないのは何故か?」


 少女、ミノスはまるで洗脳するかの様に訴え掛けて行く。


「安い賃金で()き使われ、死ぬ気で働き、食い付き生きていく。上に立つものはその逆で楽をする」


「とある国では貧富の差が大きく、またとある国では武力による独裁政権が()かれている。何とも理不尽で不条理な世界」


「だからこそ我々パラダイス・ロストは、人類の完全なる"自由化"を掲げ、救いの手を差し伸べる。あなたは決して1人では無い。我々と共に抗おう、この世界に!」


「故に我々はここに誓う! 法も秩序も無く真に自由に暮らせる世界を創ると! 力無き者には力を与え、その内に抑圧された感情を解き放ち、世界に抗う為の一員として迎え入れると!」


 ミノスは縛り付けて動けなく成っている、独裁政権を行っていた国の首相を映し、手にした大鎌で首を()ねる。


「さぁ! 全世界の人々よ! 我らと共に戦おう! この世の理不尽に! 不条理に! 罪には罰を! 悪には裁きを! 抑圧には解放を!」


 其処で映像は消え、元の番組に戻った。


 "パラダイス・ロスト"、倒すべき敵が遂に自ら姿を現した。


 寥達6人と聖組織(エクスペリメント)は、遂に黒幕との戦いへと身を投じる事となった。

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[一言] \(´°v°)/んぴッ パラダイス・ロストか…… なんかヤバそうΣ( ˙꒳˙ ;)
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