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ドゥームズ・デイ・クロック  作者: レグルス
パラダイス・ロスト掃討編
14/16

破壊の化身

 神代学園の代表生徒達は、大都市で起こっていると言うデモを食い止める為に現地へと赴く。


 車で走る事(およ)そ40分。現地へ着いた彼女らが目にしたのは、まさに軍隊とデモ隊が交戦している真っ最中だった。軍隊は装甲車や攻撃ヘリを使って、デモ隊を一掃していく。


「何をしてるんですか!? あの人達は民間人何ですよ!」


 刀花が急ぎ軍の1人に駆け寄り、()める様指示を出す。だが、軍人は笑いながら刀花に言い返した。


「これはW.G.F.からの指示なんだよ嬢ちゃん。アイツらは最早、人じゃないから駆逐しろってさ」


 通常は注意勧告を行った後、催涙弾による鎮圧。最終手段として武力行使にでる(はず)だ。


「ちゃんと手順は踏んで有るんですか?」


「手順? あぁ嬢ちゃん極東の出身か。道理で甘ちゃんな訳だ。ウチらのやり方は最初から武力弾圧なんだよ」


 刀花は内心苛立ちを隠せなかった。人の命を何だと思っているのかと。今すぐにでもこの男の首を()ねてやりたい所だが、任務柄彼らを守る為に派遣されて来たのだから、ここは気を落ち着かせる為に一呼吸置いた。


 次々と倒れて行く民間人達を庇うかの様に1人の少女が降り立った。その少女は短めの黒髪に、血の様に赤黒い瞳をしていた。スーツの様な衣装を着用し、非常に冷めた表情で此方を見つめる。


「チッ……面倒事を増やしやがって……」


 少女が手を(かざ)すと漆黒の剣が顕現した。そして少女は剣の柄の部分にある棘の様な突起を思いっきり握り、自身の血を剣に流して行く。すると剣は赤く発光し、赤熱したかの様に蒸気と陽炎を揺らめかせる。


『スティージュ』


 少女はそう告げて、剣を逆手に構え直す。そして、力を込めて地面に擦り付けながら振り上げた。


赤き閃光(サングィス・ラーミナ)


 まるで血の様に赤黒い閃光が地面を(えぐ)りながら迫り、装甲車部隊を軽々と破壊した。遂、先程まで刀花と話していた男も消し飛ばされ、刀花は内心良い気味だと思っていた。


 次に攻撃ヘリ部隊が空対地ミサイルやロケット弾を一斉掃射し、少女に集中放火を浴びせる。激しい爆発と煙によって少女の姿は見えなくなった。


 様子を見守る刀花達、だが立ち上る土煙の中から赤い光が煌めいたかと思った途端、それは瞬く間に閃光に変わり、上空を薙ぎ払う。ヘリ部隊も瞬時に破壊され、次々に墜落していく。


 そして土煙の中から現れた少女は刀花達を見つめ、淡々と告げる。


「私はイラ。お前達も私の邪魔をするのか?」


 鋭い眼光でただ睨まれているだけで、少女イラの持つ破格の力の片鱗を感じ取る刀花。


生憎(あいにく)それが任務だからね。立ち塞がるなら倒すまでよ」


「チッ……次から次へと面倒事を増やしやがる」


 イラは(だる)そうに悪態を吐き、再び漆黒の剣、『スティージュ』を構える。


「そう言う事なら容赦はしない……。生憎(あいにく)こっちも、売られた喧嘩は絶対買う主義なものでな」


 そう告げるとイラはスティージュを地面に叩き付け、引き()りながら、此方へと歩み寄る。ギリギリと金属音を立てながら、火花を散らしつつ漆黒の刃が迫る。


「各自何時も通りの編隊(フォーメーション)を組んで、連携して倒すわよ」


 刀花は静かに告げて、自身から斬り込んで行った。


「力を貸して、『菊花(きっか)』」


 刀花が呟くと、身の丈程は有ろうかと言う長い刀身を持つ太刀が現れた。これこそが彼女の幻創天装(マギアク・ラフト)だ。彼女が鞘から刀を引き抜くと、菊の如く黄色い刀身を持つ刀が(あらわ)になる。


 そして、イラの懐迄、常人では捉えられ無い速度で踏み込み、刀を振り上げる。イラも引き摺っていた剣を振り上げ、互いの刃が鍔迫(つばぜり)合い、甲高い金属音と共に激しい火花を散らす。


「何故邪魔をする? これは民衆の望んだ結論だ。貴様らの正義とは一体何処にある?」


 刀花はその言葉に一瞬迷いが生じ、力の弱まった所を弾き返され、強力な蹴りを入れられる刀花。刀を突き刺し、何とか態勢を保つ。だが、内臓器官への攻撃を諸に受けてしまった為、吐き気を催す。


「うぅっ……この程度で……」


 そんな刀花の頭上を式神が数枚飛んで行き、イラを囲む。


「氷結符、『冰枷(ひょうか)』!」


 背後に控えて居た霊娜が告げると、式神は氷の塊と成って、イラの両手足に纏わり付き、彼女の行動を制限する。


「刀花ちゃん、無理せんで下がっとき」


 攸が壁に沿って走り抜け、短刀を両手に構える。


(今しかチャンスは無い……喉元掻き斬って終わりにしたるわ!)


 攸は壁を蹴り、素早く身動きが執れなくなっているイラの元へと飛び込み、その喉を斬る為に短刀を振り上げる。


「あああああ……!」


 突如イラが雄叫びの様に声を張り上げて叫び、自信に纏わり付く氷塊(ひょうかい)を砕き、左手で攸を掴み、強引に投げ飛ばす。その後、全身から赤い雷を(ほとばし)らせ、赤黒いオーラを纏う。


「クソッ! 黙ってれば調子に乗りやがって!」


 イラは更に口調が荒くなり、先程迄の冷静さなど当に消え失せていた。


 一方、投げ飛ばされた攸はビルの壁に大穴を穿ち、かなりの深傷を負わされた様だ。


(ただ投げただけであの威力!? 一体何者なの?)


 刀花は(ようや)く呼吸を落ち着かせ、再度刀を上段に構える。そして、一気に近付きイラの回りを素早く数回斬り込む。


「一の型、『鎌鼬(かまいたち)』」


 彼女は斬り込んだ後に納刀し、イラの方を見る。すると彼女の斬撃が空気中に固定されていた。これこそが彼女の持つ『菊花』の能力、"斬撃の固定化"だ。


 その配置は見事で、僅かでも動けば全身が斬り刻まれる様に配置されていた。


 だが、イラはお構い無くそれを強引に突破し、全身に傷を負いながらも()()()()を抜け出す。


 必然的にスティージュに血が伝い、再び赤熱化する漆黒の剣。其れを大きく右から左へと横に振り、前方を赤黒い閃光で薙ぎ払う。


鮮血の閃刃(フィロ・サングレ)!』


 その斬撃は無数に(そび)え建つ何棟もの高層ビル群を横薙ぎの一閃だけで倒壊させた。明らかに刀花を狙った物では無く、ただ辺りを破壊しただけだ。


 霊娜は式神を数枚並べて円形に陣を組み、霊力を収束させて行く。


「破魔符、『邪気滅懺(じゃきめつざん)』!」


 イラとは対称的に蒼白い閃光が放たれ、彼女を狙う。イラは其れを迎え撃つ様に剣を振りかぶる。


乖離滅裂(プロフォンドゥム)!』


 一際巨大な赤黒い閃光が、霊娜の放った閃光と衝突し、凄まじい衝撃波を生む。衝撃波は周辺のビルの窓を割り、硝子の破片がガシャガシャと音を立てて地面に散らばった。


 互いに拮抗した2つの閃光は共に消滅し、爆発する。爆煙の中からは互いに無傷な2人の姿が現れた。刀花はその隙を逃さず、背後から斬り込む。


   イラは素早く反応して剣で防ぎ、互いに斬り込んでは弾き返され、何度も打ち合う。刀花の太刀筋は常人では捉え切れない程素早く、鋭い。


 だが、イラはそれに反応して確実に弾き返して行く。


「チッ! 揃いも揃って、ちょこまか鬱陶しいんだよ! とっとと、くたばりやがれ!」


 イラは更に力を込めて大きく剣を振り上げ、刀花を弾き飛ばす。だが、刀花は空中で態勢を立て直し、納刀する。


「二の型、『大蛇(おろち)』!」


 彼女が納刀すると、先程迄まで斬り込んでいた斬撃が、固定化能力によって再び現れ、イラを幾百の斬撃が襲う。


 不意に現れた斬撃には流石に対処出来ず、全身を切り刻まれるイラ。身体中に出来た無数の傷から、血が流れて行く。


「ああ……そうかよ! 小賢しい真似ばっかしやがって!」


 イラは、流れ落ちる血によって赤熱化した剣を地面に突き刺し、周辺に赤黒いフィールドを形成する。


灼熱の沼(パルスインフェルヌス)!』


 途端そのフィールドは煮えたぎる沼の様に変わり、周辺の物を飲み込んで行く。そして、イラ自身もその沼の中へと飲み込まれて行く。


「クズ(ども)が! 面倒だから、纏めてぶっ殺してヤるよ!!」


 イラが煮えたぎる沼に飲み込まれてから数秒程経った後、巨大な飛沫をあげて2本の角と翼を生やしたイラが現れた。手にしていた剣は最早無く、一度溶けて彼女の両腕に爪の様に固着していた。その姿は最早、悪魔そのものの様だった。


憤怒の角(サタン)!』


 イラが叫ぶと周辺の沼が火山の様に吹き上がり、巨大な爆発を起こす。 それは一瞬の内に周辺のビル群を薙ぎ倒し、更地へと変えてしまった。


「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"……」


 イラは瞬時に近くに居た刀花とうかに飛び掛かる。その速度は先程の何倍も速く、流石さすがの刀花とうかも反応出来なかった。


「えっ!?」


 イラはそのまま刀花を腕で掴み上げ、何度も出鱈目に叩き付ける。周囲の地面は最早大穴だらけだった。


 其処へ攸が背後から忍びより、短刀で幾度か斬り付けるが、翼が思っていたよりも硬く、傷を付けられ無かった。


「んなチートな……!」


 そのまま刀花を投げ捨て、翼で攸を吹き飛ばす。そして、標的を残ったら霊娜に絞ったイラは漆黒の爪を赤熱化させ、彼女に迫る。


 霊娜は平常心を保ちつつ、無数の式神を放って漂わせる。そして、五芒星を描き其々の式神から複数の閃光を放つ。


「禁忌符、『煌陽天照(アマテラス)』!」


 太陽の光にも似た無数に輝く光の帯は、迫り来る悪魔を迎え撃つ。


「ウガア"ァ"ァ"ァ"……」


 これはかなり効いた様で大きく蹌踉(よろ)けるイラ。其処へ復帰した2人が合流する。


「何て……化け物なの……」


「せやな……あないなモン、初めてやわ……」


 刀花は瞳を閉じ、精神を統一する。大きく深呼吸をし、雑念を払う。そして、呟いた。


「ごめんなさい。本調子が出せなくて。でも、此処から巻き返すわ!」


 瞳を開き、斬るべき相手をただ一点に見つめ、静かに鞘から刀を抜く。


「風見家次期当主の名に掛けて、必ずアイツを葬る事を誓う!」


 刀花の目付きが変わり、鋭い眼差しをイラへと向ける。そんなものはお構い無しと突撃して来るイラ。


 刀花は鞘を投げ捨て、正眼の構えで敵を見据え、感覚を研ぎ澄ます。そして、あらゆる雑念や思考を排除し、無の境地へと至る。


 其処そこに大きく振り上げた、イラの赤熱化した爪が迫る。それをギリギリ迄まで惹き付けて、刀花が踏み込んだ。


「風見流秘伝奥義、『鏡花水月(きょうかすいげつ)』!」


 それは究極のカウンター技だった。相手の攻撃を極限まで惹ひき付けてからの素早い連撃。固定化された斬撃に回避する術は無く、敵は無惨に斬り刻まれるのみとなる。まるで、空間そのものを引き裂くが如く、無数の斬撃が絡み合い、敵を囲み残滅する。


 ある種の賭けの様な技だが、卓越した剣術を持つ刀花にとっては不可能では無い事だと言える。ただ、それでも今回ばかりは、かなりギリギリの駆け引きだったと言えよう。


「成る程……それでも任務を全うするか……ははは……」


 冷静さを取り戻したイラは笑いながら告げる。


「ならばこの不条理な世界……お前達が正してみせろ……!」


 そう告げるとイラは煮えたぎる血の沼の中に溶けて行き息絶えた。


(私が迷っていたせいで、仲間に損害を出してしまった……。刀矢の事言えないわね……)


 刀花は胸中で呟くと、仲間と共に静かにその場を後にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読しました〜! んー良い!良いですたい!好きですたい! 戦闘シーンの迫力! お気に入りのキャラが必ずいるんじゃない?ってくらい練られた設定に大満足です( ꈍᴗꈍ) エリン好き!
2020/09/20 15:07 退会済み
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