これは"罪"なのだろうか?
寥達が極東へと向かう一方で、鳳凰学園の代表生徒達は西の方にある、小さな街で起こっているデモを止めに向かった。のだが、いざ辿り着くと、デモ等行われて居なかった。
「一体どう言う事だ。僕達は嵌められたのか?」
冷静に告げる青年は、覇気や気功を用いた変則的な戦闘を極めるクラス、「青龍」の代表生徒武 天籟。
「えー。じゃあ戦闘は無しぃ!?」
対称的に騒がしく叫んだ少女は、純粋に格闘術を極めるクラス、「朱雀」の代表生徒王 神美。
「任務が無いなら帰ろうよぉー。ふわぁぁ……」
欠伸をしながら眠たそうに答え、目を擦っている少女は、カウンター主体の防御術を極めるクラス、「玄武」の代表生徒林 端麗。
「まぁまぁ、ここは少し周辺を探って見ましょうか」
柔らかい口調で告げた青年は、様々な武器を使った戦闘を極めるクラス、「白虎」の代表生徒黎 鴻洞。
この、性格や考え方に纏まりの無い4人が選抜されたチームだ。普段から其々のクラスで異なる教えを学んでいる為、顔見知りではあるが、正直4人での行動は初となる。
周囲を散策していると路地裏の方から人の声が聞こえた為、急いで様子を見に行く。
そこに広がっていた光景は何とも言い難いもので、多くの男女が絡み合っていた。
「あっちゃ~、何かごめんなさい……」
神美は手で目を隠し、その場を去ろうとした。
「待って。これ自体が敵の仕業なんじゃ無いのか?」
天籟が冷静に答える。
「あら、いらっしゃい。あなた達も参加希望?」
後ろから声がしたので急いで振り返ると、其処にはピンク色のストレートの髪型をして、制服を着た美少女が立って居た。
「お前の仕業か?」
天籟の質問に対して、首を傾げ人差し指で頬を突きながら答える少女。
「う~ん仕業って言うか、本人達の意志よ」
そして少女は両手を広げ、盛大に答える。
「彼ら、或いは彼女達は"愛"を欲していたのよ。誰かに認められたい、受け入れられたい、好かれたい、そして繋がりたいと」
「だから今は幸せの絶頂を向かえているのよ。毎日愛され、行為に及び、互いを求め、欲を満たし合う。あー何て素敵なの! 羨ましい位だわ! 私しも愛し、愛されたい!」
少女は両手で自身の身体を抱き締め、くねくねと身体を揺する。
「ごめんなさい、名乗り遅れたけれど、私は〈色欲〉。よろしくね♪」
ルクスリアと名乗った少女は可愛らしくポーズを執ってウィンクをする。
「この人に付いて行けないよぉー」
端麗は欠伸をしながら殆ど話を聞いていない。そう、気にしたら負けなのである。
「って事は、君もあの"七罪"の1人なのかい?」
鴻洞が甘く誘う様な声で訊ねる。そう彼は少しナルシストな性格だが、その容姿もあって女子受けが良く、学園でも1位2位を争う美男子なのだ。
「そう私も"七罪"の1人。と言うかそこのお兄さん! 素敵な顔だわ! はぁぁ……あなたに抱かれたい……」
ルクスリアは赤面して、恥ずかしそうに両手を頬に当て、くねくねとしだす。
「どうしようかなー? 君の対応次第では、答えてあげない事も無いよ?」
鴻洞は更にルクスリアを誘惑する。
「あぁダメ……そんな声で囁かれたら、私……濡れてきちゃう……」
ルクスリアは内股になり、モジモジと足をくねらせ、片手でスカートの上から股の辺りを抑える。
「おい、色男! 任務忘れないでよ!」
神美が一喝して、鴻洞に文句を言う。そして、隙ありと言わんばかりに、ルクスリアに高速の掌底突きをお見舞いする。
「えっ!? きゃぁぁぁ……」
不意に喰らった一撃で突き飛ばされ、壁に叩き付けられるルクスリア。
「はぁ~スカッとしたぁ」
神美は戦う事を好む性格故に、早く戦いたくて仕方が無かったのだ。
「相変わらずせっかちだねぇ君は。もう少しで落とせそうだったのに」
鴻洞は少しがっかりとした口調で答えた。そもそもあの少女に戦闘能力が備わっているのかすら分からないが。
「あぁ……随分大胆なアプローチなのね貴女……。」
少女は立ち上がり、神美に近付く。そして彼女の手を握り、嬉しそうにした。
「素直じゃないけれどその一撃も正しく愛……。ちょっと乱暴な愛情も嫌いじゃないの」
彼女は紫の瞳を煌々と輝かせ、うっとりとした表情で神美を見つめる。
「うわぁ! 気持ち悪い! 良いからその手を離せ!」
強引に振りほどかれ、落ち込むルクスリア。対して、彼女の目的は何なのだろうかと探る天籟。ここまで好戦的な態度も執らず、目立ったデモも行っていない。では、彼女は何を目的としてるのか?
「いや待てよ。何故デモが行われていない? 軍はどうした?」
天籟が静まり返っている現状に疑問を抱き、遂にその答えに辿り着いた。
「デモ何て……そんな意味の無い事、私は支援しないわ? だってそんな事したら貴重な人間が死んじゃうじゃない! そう、貴重な私の快楽の為の人間が♪」
ルクスリアはそこで初めて不敵な笑みを浮かべ、舌でペロリと唇を舐めた。
「皆を何処へやった?」
天籟が質問するとルクスリアは答える。
「だ・か・ら~、皆で仲良く貪り合ってるよん♪ 今もホラ♪」
つまり路地裏で乱れている人間達は皆ルクスリアによって感情をコントロールされているのだろう。
「あなた達もどう~? 丁度男女ツーペア出来てるし~。溺れましょう、快楽に」
「ヤダよー面倒臭い。それにコイツらと交わる何て百も御免だね」
其処で端麗が久々に口を開いた。退屈で仕方無いと言った様子だ。
「あぁでも、そこのお兄さんは私が貰って良い? 早く欲しくて堪らないの」
ルクスリアはすっかりとろけた顔をし、鴻洞の事を懇願する。
「仕方がないお嬢さんだね。ほら、おいで」
ルクスリアは両手を広げて待つ、鴻洞の元へと少しずつ歩み寄り、そして両腕を背中に回した。そして鴻洞は右手でルクスリアの顎をクイっと持ち上げ見つめ合う。
「ちょっ!? 本気!?」
神美が赤面しながら顔を手で覆い、でも気になるのか指の隙間から覗き込む。するとルクスリアは目を閉じて受け入れ態勢を取り、今にも口付けを交わしそうな勢いだった。
「ぐふっ!?」
しかし、ルクスリアは突如感じた腹部の痛みに目を開き、震えながら恐る恐る目線を下にやる。其処には槍で貫かれ、赤く染まった自身の腹部が見えた。
「な……。なん……で……?」
「悪いね、これが任務だからさ」
鴻洞は槍を引き抜き、槍に付いた血を振り払って落とした。路地に鮮血が撒き散らされる。
「どうして……どうして何時もそうなの?」
ルクスリアは急に涙目になり、その場に膝を着き、頭を抱えて震え出した。
「誰も私を受け入れてくれない! 受け入れてくれたとしても、目的は身体だけ! あぁそっか。人類の繁栄の為だもの! そして快楽に堕ちる……。うふふっ……。あはははは……」
急に支離滅裂な事を語り出し、狂った様に笑い出す。神美はここぞとばかりに素早く踏み込み、強力な蹴りを喰らわす。
「もう十分! あの世で独り語りでもしてなよ!」
傷口の深かった彼女を蹴り飛ばした事で、返り血が其処ら中に飛び散る。
「うふふ……。上手く言ったわね……」
ルクスリアは片手を翳して呟く。
『色欲の焔』
途端、彼女の血液が発火し、路地は一瞬にして焔に包まれた。
「この程度なら大した事は無い」
天籟は覇気を纏って、足踏みをする。すると覇気は衝撃波の様に広がり、焔を消滅させた。どうやら戦闘能力はそれ程高くは無い様だ。
ルクスリアは自身の腹部に手をやり、真っ赤に染まった手の平を眺める。よく見るとその手は震えており、怯えている様子だった。
「どうしてよ……。ただ愛されたいだけなのに……。私を見て! 愛して! 愛してよ……」
ルクスリアは泣き崩れ、まるで憎悪に取り憑かれたかの様に4人を鋭い目付きで睨み、自身に焔を纏った。炎はやがて青白く燃え上がり、更に温度を増して行く。
「もういいわ……愛され無いなら逸その事、皆殺してあげる!」
ルクスリアを纏う焔はやがて今の彼女の心境を表すかの様に、深く濃い紫色をした悍ましい物へと変わって行く。
「憎悪の業火に灼かれて消えろ!」
ルクスリアが腕を振り払うと、焔が波の様に押し寄せる。
天籟はもう一度覇気を放つが、効果は今一つだった。
「あれ? もしかしてこれ、ヤバいやつ?」
端麗は呑気に答える。1人ボヤボヤとしている端麗に目を付けたルクスリアは、焔を爪の様な形状に変化させ、振りかぶった。
『紫焔爪!』
端麗は覇気を少し含ませたアッパーで、軽々と、其れを弾き返した。その隙に神美が素早く近付き、得意の格闘術をお見舞いする。が、焔の壁に阻まれて逆に火傷を負ってしまう。
「熱っ! 流石に近接攻撃は不利か……」
足に火傷を負ってしまった神美は、動かす度に激しい痛みを伴い、まともに行動出来なく成ってしまう。その隙を逃さずルクスリアは焔弾を放つ。
『紫焔弾!』
無数の焔の弾丸が更に小さく拡散し、4人を襲う。鴻洞は三節棍を取り出して大きく回転させ、焔弾を防ぐ。
「しかし、困ったな……。これでは攻められない」
天籟は深呼吸して覇気を纏い、それを更に練り上げて行く。そして、ルクスリアへと放った。巨大な覇気の衝撃波をまともに受けたルクスリアは、再び吹き飛ばされ、壁を突き抜け倉庫の様な建物の中へと吹き飛んで行った。
次の瞬間、倉庫は大きな爆発音と共に跡形も無く燃え尽き、ユラユラと浮遊するルクスリアの姿だけが残る。
「あなた達って何が目的なの?」
ルクスリアの方から語り掛けて来る。
「パラダイス・ロストの掃討だ」
天籟が静かに告げるとルクスリアは高笑いして答える。
「でもそれっておかしく無い? 正義の味方を名乗ってる割には民衆の意見を否定している……。結局の所、国家の言いなりなんでしょ?」
「別に気にした事は無いかな。強いヤツと戦って更に強くなる! それが私の夢だから!」
神美が反論した。
「つまりあなた達こそが"敵"じゃない。そう、民衆のね!」
再び焔を巻き上げ、地面に波の様に広げる。4人は素早く建物の屋上へ飛び、其れを躱した。それを見たルクスリアはニヤリと笑い、地面に手を付ける。
『紫焔柱!』
ルクスリアが告げると焔の波から火柱が上がり、建物を次々と爆破して行った。そして、周辺を瞬く間に焔の海へと変えてしまう。
民間人達は慌てて逃げ出した。一方4人は逃げ場を失い、この焔の中で戦う事を強いられる。
「さぁ、もう諦めなさい。私がした事は"罪"でもなんでも無い。ただ人々の願いを叶えただけでしょう?」
紫焔の中で浮かびながら語るルクスリアの姿は、まるで魔女の様だった。
「人間は欲深い生き物だから、その欲を抑えなければ楽に生きられる。毎日性を貪り合いながら、気持ち良く死んで行く。其れの何が"罪"なの?」
「つまり、強姦事件の犯人はお前だな?」
鋭く天籟が訊ねると素直に認め答えた。
「強姦だなんて人聞きが悪いじゃない。例え始めは望まぬ行為だったとしても、私の力で快楽に変えてあげられる。皆"性"に飢えているのよ! あなた達だって、1人で慰める事位有るでしょう?」
それを聞いて黙り込んでしまう男子達。
「はぁ!? そんな事してんの!?」
「理解出来ないなぁ……」
女子達は驚いている様だが、この2人は例外中の例外とも言えるだろう。
「ほらね。男はみんなそうなのよ。本能が"ソレ"を求めているのだから。愛に飢え、性に飢え、快楽に溺れ、絶頂を求める」
ルクスリアは空を見上ながら両手を天高く広げ、まるで祈る様に呟く。
「だから、真実の愛なんて不要なのよ。必要なのは意志と肉体だけだもの。相思相愛なんてお伽噺だわ」
男子2人は顔付きが変わって行き、女子2人に突然襲い掛かった。
「ごめんね、もう我慢出来ないや」
「済まない……これ以上は耐えられない」
鴻洞も天籟も、急に女子達と行為に及びたくなり、我慢の限界を向かえた様だ。
「離れろ! スケベ!」
「あー面倒な展開になって来たなぁ……」
神美も端麗も熟練の武闘家である為、簡単には触れられ無いが、相手も同じ熟練者だ。
ルクスリアはその様子を見てクスクスと嗤う。
「男は本能に語り掛けたら逆らえ無いのよ。それが生存本能だもの。鴻洞さんにお相手して貰えないのは残念だけど、譲ってあげるわね♪」
神美は鴻洞と、端麗は天籟と戦い始めた。
「何で嫌がるんだい、神美? きっと気持ちいいから大丈夫だよ」
神美の顔が青ざめて行き、怒りを募らせて行く。
「あんた見たいな色男! 絶対にお断りよ! てか、興味無いしそんなスケベな行為!」
鴻洞は三節棍を巧みに操り、神美の足元を絡め取ろうとする。それを上手く躱し、隙を見て反撃に出る。
一方の天籟は覇気を乗せた一撃を当て、端麗を気絶させようと狙うが、端麗は上手く中心軸を見付けてそこを突き、相殺していく。
「頼む、端麗。僕を受け入れてくれ」
「だから面倒だってー。人としては悪く無いんだけどねー」
覇気同士がぶつかり合い、激しい衝撃波を生む。一撃に重きを置く天籟とカウンターを主体とする端麗の勝負は拮抗して居た。
その時、神美の悲鳴が聞こえ、端麗がチラリと覗くと、三節棍とヌンチャクで足を絡められ、身動きの執れなくなった神美の姿が合った。先の戦いで足に火傷を負った為、上手く立ち回れ無かったのである。そして神美に覆い被さる鴻洞。
「さぁ、もう逃げられないよ神美。大人しくしててね」
神美は屈辱に満ちた顔をしていた。
「くそっ! こんなヤツに!」
鴻洞は彼女の制服に手をかけ、ゆっくりと脱がして行く。
「ヤダッ! 冗談でしょ!? 鴻洞!」
彼女は必死にもがくが、鴻洞を振りほどく事が出来ない。
「フフフ、見ているだけで興奮するわ……。逆の立場だったら良かったのにぃ」
ルクスリアはその様子を見てムラムラとし、自身を慰め始めた。逆に必死に抵抗する神美を見て、端麗はため息を吐いて態勢を変えた。
「はぁー。本当は面倒だから嫌何だけどねー」
カウンター主体の端麗は攻勢の構えに移行し、天籟の攻撃を待つ。そして、十分引き付けた所で、カウンターとも自身の攻撃とも取れる突きを繰り出した。
『硬甲拳』
足に力を込めた途端に姿を消し、瞬時に天籟とすれ違い様に突きをお見舞いして、背後に立つ。
「ぐっ! 見事……だ」
その一撃は覇気を全身に纏った、要約すれば鎧を纏った状態の天籟を容易く打ち破り、腹部に強力な突きを喰らわせた。
「おやすみー天籟。少なくとも今の君とはしたく無いかなー」
気絶している天籟に一言告げて、また欠伸をして振り返る端麗。
「あーそう言えば、もう1人の馬鹿も止めないと行けないのー? あー本当に最悪な日だなぁー今日」
1人ぼやき、隙だらけの鴻洞の後頭部に素早く打撃を打ち込み、気絶させる。そして、神美の足を拘束していたヌンチャク等を外し、手を引っ張って立たせた。
「ごめん、ありがとう端麗!」
「神美も本調子だったら、鴻洞に敗けないのにねー」
2人のやり取りを見て、楽しみを失ったルクスリアは、つまらなそうな目で2人を見る。
「後もう少しで、お楽しみの時間に入ったのに……残念」
燃え盛る紫焔の海の中で、3人は見つめ合う。
「神美ー"アレ"使えるー?」
端麗が訊ねると僅かならと答える神美。端麗には作戦がある様だ。
「もう幕引きにしましょう? せっかくの楽しみも無くなっちゃったし」
ルクスリアは焔の海で2人を囲み、そのまま焼き尽くすつもりだ。
「消し炭に成りなさい! 『紫焔葬』」
ルクスリアが告げると2人を囲んでいた紫焔が一気に収束し、巨大な火柱と成った。その大きさは天まで届く程高く、街の3分の1を焼き尽くす程の範囲を誇っていた。巨大な火柱は雲を貫き、大地を穿った。まるで核爆発の様な衝撃波を伴い、周辺を薙ぎ倒して行く。
その光景を見たルクスリアは勝利を確信していた。だが、その火柱の中で動く2つの影が見えた。
「はぁぁぁぁ……『気功天衣』!」
神美は周囲の魔元素を気功として練り直し、それを鎧の様に自身に纏って飛翔した。気功によって作られた翼をはためかせ、宙を舞うその姿は正しく鳳凰と呼ぶに相応しい。
天高く飛翔してから、ルクスリア目掛けて超高速で急降下を行う。その速さは最早肉眼で捉える事は不可能に等しかった。次に視界に写ったのは、ルクスリアを抱き締める神美の姿だった。
そこで気功天衣は消滅し、彼女は少ない余力でフラつきながらも、ルクスリアにしがみつく。
「一体……何の冗談……?」
「こうされたかったんでしょ! アンタ」
神美は恥じらいながら彼女の想いを受け止める様に抱き付く。
「愛の形は人それぞれだけどー、それもある種の愛の形だよねー。友愛ってやつかなー」
さっきの大技から鴻洞と天籟を庇い、ボロボロになった端麗が訴え掛ける。
「これが……愛なの……?」
ルクスリアは涙を浮かべた。そう、彼女は誰かに受け入れて欲しかった。ただそれだけなのである。その弱みをミノスに付け込まれ、利用されたのだ。"愛"の部分だけを増幅させられ、ただ性を貪るだけの存在へと、作り変えられたのだ。
「わたしは……」
次の瞬間、彼女の身体は燃え上がり、全身を焼かれて灰に変わった。
「何よこれ! どうなってんの? これじゃあ結局あの子は救われ無いじゃない!」
何時の間にかルクスリアに感情移入してしまった神美は、泣きながら呟いた。
「人の心を誘い惑わす力、それがあの子の能力だったんだねー」
端麗は神美に歩み寄り、背中を擦って宥めた。
(パラダイス・ロストは悪魔だね)
胸中でそう呟き、神美が落ち着くまで傍に寄り添うのだった。




