邂逅
パラダイス・ロスト掃討編、開幕!
寥達は輸送機に乗り込み、極東にある島国の首都を目指していた。
先程までいた"セントラルアーク"からだと、其れなりに移動距離が長い為、全員が緊張した様子で固まっていた。
「まだ着かないの~? ボク暇何だけど~」
1人呑気に愚痴るエリン。相変わらずマイペースで、羨ましくも思う。
寥は以前と同じく敵の強襲に遭うであろうと推測していた。
目的地が島国故に、移動には飛行機か船を用いらなければ成らず、敵が其処を見逃すとも思えない。
暫く飛行を続けていると、案の定喧しくアラートが鳴り響いた。
「無数の機影が此方に接近中です! これは……小型無人機?」
気付くと周囲を小さな飛行物体に囲まれていた。
それは赤いレーザーで此方に狙いを定めると、ミサイルを一斉に放って来た。
「またこのパターンなのね。寥が来た頃を思い出すわ」
フレデリカは軽く準備運動をしてゴーグルを付け、大空へと飛び出す。
「行くわよ! タービュランス!」
翡翠色の光に包まれ、素早くミサイルを破壊して行くフレデリカ。
勝太は窓を開けて、狙撃銃型の聖印武装を装備し、無人機を一機ずつ正確に撃墜して行く。
「そう言う事なら私も!」
美華は勝太の側に駆け寄り、聖印武装に手を添えた。
「何するんだ? 美華?」
「轟く雷鳴よ、彼の者に力を与え給え」
美華がそっと呟くと、勝太のライフル弾に雷属性が付与された。
「凄いな美華! これが美華の魔術か!」
そう美華は魔術の源とも呼ぶべき魔元素を操り、物体に付与する事の出来る元素系魔導士だったのだ。
勝太が無人機の1つを撃ち抜くと、電撃が周囲の無人機に伝播して、一発の弾丸で、複数の機体が墜ちて行く。
「あ~! ずるいよ~。ボクにもやらせてよ~」
勝太達が次々と無人機を撃墜して行くのを見て、ムズムズと身体を震わせるエリン。
「もうムリ! ボクもう我慢出来ない!」
居ても立っても居られなく成ったエリンは、大剣片手になんと生身で大空へと飛び出して行ってしまった。
「えっ!? 流石にそれはマズいんじゃ……」
寥は心配したがどうやらその心配は無用だった様だ。次の瞬間寥の目に写ったのは、無数に飛行する無人機を足場にして、跳び跳ねながら次々と無人機を墜として行くエリンの姿だった。
「ヤッホー☆ みんな~これ凄く楽しいよ~」
音速で飛行する無人機に当たり前の様に追い付き、破壊して行く様は彼女自身が戦闘機にでも成った様だった。
「あははっ! まるで玩具だね! これ!」
挙げ句の果てには片手で機体の主翼を掴み、他の機体へと投げ付け破壊して行く。その光景はまるで某SF映画のワンシーンの様だった。
「これじゃあ……キリが無いわね。一体何処から湧いて来るのこれ……」
フレデリカも大分体力を消耗している様で、息を切らせながらも懸命に破壊して行く。
確かに破壊し続けても、一向に止む気配無く飛来する無人機。エリンはまた急に真面目になり、無人機の上に乗りながら空を見上げて茫然としていた。
「そっかぁ。そう言う事かぁ。敵も案外姑息だね」
そう呟くと無人機の主翼を無理矢理ねじ曲げ方向転換させ、輸送機の上空で斬り裂き、破壊する。そして、そのまま輸送機の上へと着地した。
「はぁ……これを使わざるを得ないか……」
エリンは無線機を取り出して、輸送機のパイロットに連絡する。
「もしも~し、キミたちって有視界飛行出来るよね~?」
明るい何時ものトーンで|訊ねるエリン。意図は読めないが、出来ると返事をするパイロット。
「そっか、りょーかい☆」
それだけ告げて通信を切る。そしてスカートのポケットから弾丸の様な形状をした鉄の塊を取り出し、大剣の柄の部分を開いて装填する。
すると大剣は中心部から左右に開き、変形した。そして中心部では電磁力が充填されて行き、激しく青白い雷が迸り、やがて一筋の光と成った。
「目標捕捉。射出準備完了」
まるで"電磁投射砲"の様な姿へと形を変えた大剣を遥か上空、宇宙へと向ける。そして静かに呟いた。
『刺し貫く閃光』
彼女が引き金を引くと、切っ先から眩い光輪が拡がると共に、一筋の閃光が瞬く間に射出された。そして、大きな花火の様な爆発が起き、途端に無人機が墜落して行く。そう、通信衛星を破壊したのだ。
「ん? 何だ?」
「一体どうしたって言うの?」
皆が不思議がる中、エリンは大剣を元の形状に戻し、深呼吸をした。そして笑顔に戻り輸送機の中へと飛び込んで来た。
「みんな! 今の見た見た? スッゴい花火だったね☆」
1人燥ぐエリン。そしてフレデリカが帰って来る。
「お疲れ様、フレデリカ」
寥が笑顔で労うと、少しだけ頬を赤く染めて、ありがとうと一言告げた。
「しかし、酷い目にあったな。それとエリン。お前一体何をした?」
刀矢が冷静に訊ねるとエリンは態とらしく誤魔化す。
「先生、先生が何言ってるのかボク分かんないよ?」
「誤魔化さなくて良い。本当の事を話してくれ、美華と同じ様に」
それでもエリンは頑なに話さない。
「先生だって知られたくない事ってあるでしょ? それと同じだよ~」
エリンは少しニヤリとした笑みを浮かべ、続ける。
「それとも先生、放課後ボクに"えっち"な事しようとした事、ここで詳しく話ちゃおうかな~?」
その言葉に皆がドン引きする。
「不潔、最低、信じらんないわ!」
真っ先にフレデリカが反応した。
「意外と刀矢も"その気"はあるんだね」
「まぁ、思春期の男子だからなぁ」
「そんな……刀矢先生が……」
皆から誤解されて戸惑う刀矢。
「分かった……これ以上聞かんから、早く誤解を解いてくれ……」
遂に根負けした刀矢がエリンに告げる。
「まぁ、つまりそう言う事だよせ~んせい」
結局、誤解は解かれないまま話は終わったが、皆冗談なのは分かっている。その場を和ませ様と自然と息を合わせていたのだ。
エリンは自身の事に付いて触れられる事を極端に嫌がる。誰もが普通に暮らして来た訳では無いのだから当然だろう。だから、皆で話題を反らしたのだ。
「全く何で俺がこんな目に……」
さっきの茶番劇でも、相当メンタルがやられてしまったらしい、刀矢は只項垂れていた。
其処へ別の機体が近付いて来て、1人のスーツ姿の女性が乗り込んで来た。
「初めまして。残念ですがマスターの指示により、あなた方には此処で死んで貰います」
女性は瞬時に両手にサブマシンガンを構え、乱射する。
皆は一斉に散らばり、何とか弾丸の雨を回避をした。
「愚かですね、大事な事を忘れて居ませんか?」
そう言うと女性は手榴弾を構え、コックピット目掛けて投擲した。
するとエリンは急いで飛び出し、手榴弾を手に取った。
「何してるエリン!」
刀矢が叫んだが、エリンは気にしていない。
「大丈夫だよ~先生。手榴弾は爆発までに5秒位掛かるから☆」
そしてエリンは女性に飛び込み、抑え込む。
「心中する気ですか?」
「まっさか~」
エリンが飛び退くと、勝太は急いで手榴弾を狙撃し、爆破させる。
手榴弾の爆発を諸に受けた女性は何とか立ち上がるが、衣服の一部が破け焼け焦げていた。
「ナイスお兄さん☆」
そこに刀矢が素早く間合いを詰め、抜刀する。
「秘剣、『紅桜』」
刀矢の掛け声と共に薄紅色の斬撃が女性を四角く取り囲み、そのまま収束して斬り刻む。
「口程にも無いな」
フレデリカは素早く近付き回し蹴りを入れ、未だフラついている女性を大空へ突き飛ばした。
「刺客にしては弱すぎるわね」
女性はそのまま海へと落下して行った。
「まあ普通の人間が聖印武装に対抗出来る筈も無いよね」
寥は冷静に答えた。恐らく無人機の群れと彼女の乱入で、此方の体力を損耗させるのが目的なのだろう。
極東に着く迄にはまだ時間はある。各自は奪われた体力の回復に努める為、横になったり、壁にもたれ掛かって仮眠を執る事にした。
一方、パラダイス・ロストの本部では……。
「ニヒヒ……これは素晴らしいデータが採れたねぇ」
無造作に伸ばしたボサボサの灰色の髪と緑の瞳を持ち、眼鏡を掛けた少女が告げた。彼女は端末を弄り、何かを入力して行く。
「素晴らしい戦闘能力、そしてチームワーク。ニヒヒ……これぞボクの求めていたデータだ」
少女は作業を終えて、隣にあるベッドへダイブする。
「さて、ボクの仕事は終わったし、後はのんびりしてよーっと」
少女はそのまま眠りに就いた……。




