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ドゥームズ・デイ・クロック  作者: レグルス
聖組織編入編
10/16

戦いへ向けて

 昨晩の宣戦布告とも受け取れる、電波ジャックによる映像配信。


 あの映像が流された翌日から、世界各地で民衆が一斉にデモを行い始めた。


 ここ最近頻発していた犯罪も、おそらくあのミノスと言う少女が煽動(せんどう)していたのだろう。


 各国では国家警備局及び、軍隊による鎮圧を目指しているが、デモを支援していると思われるパラダイス・ロストの構成員がその力を使い、軍隊が容易(たやす)蹴散(けち)らされているのが現状だ。


 聖組織(エクスペリメント)は緊急会合を開き、対応について検討しているとの事だ。


 寥達6人は集まって話合っていた。


「いよいよ、動き出したわね」


「うーん、派手で楽しそうだけどなぁ」


 真剣に考えるフレデリカと対称的に、何故か嬉しそうなエリン。


「あのミノスって人が言っている事も、一理あるのが問題ですよね……」


 美華は冷静に分析していた。


 確かに一般の人々からすれば、ミノスの言葉は魅力的に聞こえる人も居るだろう。それ程までに社会は混沌(こんとん)と化しているのだから。


「独裁政権や貧富の差が大きい国に的を絞っている点も、敵ながら賢いやり方だな」


「兎に角このままじゃ、奴らに征服されちまうんじゃ無いのか?」


「何とか止めないと……」


 其処に学園長の壮真がやって来た。


「丁度良いところに居てくれたね。君たちに大事な話がある。付いて来てくれ」


 壮真に呼ばれ、普段は入る事の出来ない奥の方にある部屋へと案内される。


 緊張感から皆無言で付いて行き、静寂の空間の中に足音だけが響き渡る。


 そして、壮真が扉を開けた先には広い部屋が在り、見知らぬ制服を着た生徒達と、各学園長と思われる人達が居た。


「彼ら(ある)いは彼女達は聖組織(エクスペリメント)へ選抜された者達だ。とは言え急遽編成された者も居る」


 先のデモや、以前から起こっていた暴動事件の対処に当たっていた選抜組は、その(ほとん)どが死亡、良くて重症らしく、こうして再編成を行なわざるを得ない状況の様だ。


「其処で君たちに問いたい。君たちは聖組織(エクスペリメント)の一員として、あの強大な勢力と戦う覚悟は有るかい?」


 その言葉に6人共目を輝かせた。遂に聖組織(エクスペリメント)本隊として認められたと言う事なのだから。


「はい! 是非ともお願いします!」


 先に口火(くちび)を切ったのは、寥だった。何故なら、それこそが寥の夢だったからだ。


「私も戦います! 秩序無き世界など、許されるものでは有りません!」


 フレデリカが続く。


「まぁ、こうなった以上は仕方ないよな。俺だって"守りたいもの"が有るんでね」


 勝太も仕方ないと言いつつ、その内には確固たる意志があった。


「当然参加します。これも俺の夢への第一歩ですから」


 刀矢も静かに告げて目を閉じ、決意を固める。


「私も……何処まで出来るか分かりませんが、失いたく無い物が沢山有るんです! だから、お願いします!」


 美華は今までに見せた事の無い様な、強いはっきりとした言葉で告げた。


「ボクももちろん戦うよ~。だってその方がここにいるよりずっと楽しそうだからね☆」


 エリンは相変わらずだが、心強い味方である事には間違い無かった。


「分かった。君たちのその覚悟、しっかりと受け止めさせて貰ったよ」


 壮真は6人を連れて、部屋の更に中へと入る。


「皆聞いてくれ。我が中央学園からはこの6名を選抜する事とする。本隊としての経験は無いが、1度"七罪(セプテム)"の1人と交戦した経験は有る。これは大きなアドバンテージとなるだろう」


 6人は横1列に並び、壮真に紹介され挨拶した。


「追って具体的な作戦を説明する。今は彼らとの交流を深めておいてくれ。これから共に戦う仲間なのだから」


 そう告げて、壮真は学園長達と会議室へと向かった。


 そして、刀矢にしては珍しく、真っ先にある人物の所へと走って行った。


「姉さん! 俺だってやれば出来る! もうすぐ追い付ける!」


 神代(かみしろ)学園のトップの成績を保持する少女にして、刀矢の姉刀花(とうか)は静かに告げた。


「愚かね刀矢。自ら死地へ飛び込むその行為は蛮勇(ばんゆう)にも等しいわ」


 刀花は刀矢の実力を認める(どころ)か、冷たく突き放した。


「何で……何で姉さんは昔から俺を認めてくれないんだ! 1度足りとも認めてはくれなかった!」


「貴方の実力が認めるに値しない。ただ()()()()の事よ。だから、当主なんて諦めなさい」


 刀矢は悔しくても何も言い返せ無かった。刀花の言う事は事実であり、認めざるを得ないからだ。


「まぁまぁ、その辺にしといてあげなよ刀花ちゃん」


 首元にマフラーを巻いた忍者の様な風貌(ふうぼう)をした、糸目で飄々(ひょうひょう)とした雰囲気の青年が答えた。


「どうも、俺は夜霧(やぎり) (ゆう)。主な任務は見ての通りですわ」


 攸が刀花を(なだ)め、刀花はそれ以上は言わなかった。


 刀矢は落ち込んだ様子で皆の所に、重い足取りで戻って行った。


「本当の事、伝えたらどうです?」


 眼鏡を掛けて巫女の様な格好をした少女、黒神 霊娜(くろがみ れいな)がそっと声を掛ける。


「もう、後戻りなんて出来ないのよ」


 刀花は目線を下に落とし、小さく呟いた。


 戻って来た刀矢の様子がおかしかった為、寥は(たず)ねた。


「何か嫌な事でもあったの?」


「いや、当然の事を言われたまでだ。俺は未々(まだまだ)精進が足りない見たいだ」


 そう言って決意を改める刀矢。


(待っていろ姉さん。俺は必ず追い付き、そして追い越してみせる!)


 胸中(きょうちゅう)でそっと呟く刀矢だった。


 一方のエリンは、キョロキョロと辺りを見回して誰かを見付けた様で、あっという間に姿を消していた。


「あの子、本当何者なの?」


 フレデリカの問いに、寥も分からないと答える。


「やぁ、久しぶりだね。"紅蓮の狂犬(クリムゾン・ハティ)"」


 エリンは鋭い目付きで、フリルでアレンジされた可愛らしい軍服を着た少女を見つめ、低い声で問いかけた。


「ん? あら懐かしいわね、"漆黒の魔狼(ネグロ・マナガルム)"。あれから調子はどう?」


「うん、絶好調だよ☆ でも良かった~、旧友(ライバル)にまた会えて」


 エリンは何時もの調子に戻って、左目を(つむ)ってウィンクをし、右目にピースした手を当ててポーズを執る。


「あらあら、すっかり変わったのね"貴女も"」


 そう言う少女は静かに告げた。


「確かにキミも可愛らしくなったね~。今は何て名乗ってるの?」


「イリーナよ。貴女はどうなの?」


「ああ、ボクはエリンだよー」


 互いにしか分からない会話を(はた)から聞く青年、ルドルフはエリンに突っ掛かる。


「おいおい何だこの嬢ちゃん。中央出身の甘ちゃんがズケズケと入って来やがって」


 ルドルフは、学園内屈指の素行の悪さで有名らしく、懲罰(ちょうばつ)を与える目的で最前線に送っているが、(むし)ろ戦果を挙げて帰ってくる為、誰も文句が言えない程の実力を有している。


()めときなさい。貴方じゃ()()()()()()()()()わよ。その子」


 イリーナに制止され、大人しくなるルドルフ。


「こんな餓鬼(ガキ)がお前と同レベルたぁねぇ」


 ルドルフは悪態を吐きながら、大人しく引き下がる。


 3人のやり取りを見守っていた教導役のセルゲイは、エリンから異様な雰囲気を感じ取っていた。


(中央にこんな実力者が居たとは驚きだ……)


 視線を感じ取ったエリンはセルゲイの方を振り向き(たず)ねる。


「ん? どうかしたのお兄さん? ボクに何か用?」


「いや……何でも無い。気にしないでくれ」


 そっか、とエリンは再びイリーナと向き合い、戦果で競い合う事を約束して、寥達の所に駆けて行った。


「あっお帰りエリン。何処行ってたの?」


 寥が(たず)ねると、満面の笑みで答えた。


「ちょーっと昔のお友達のところにね~」


 相変わらず底の見えない少女だと寥は感じた。


 他にも多数の生徒で賑わって居た。部屋の中は 学園毎に(おもむき)の異なる制服や人物で(あふ)れ返っていた。


 その中の1人が誰かを見付けた様で、此方(こちら)へ歩み寄って来る。


「お会いするのは初めてですね速水 美華さん」


 やって来たのは制服の上から魔導士のローブを羽織った姿をした少女だった。


「もしかして、リゼットさんですか?」


 美華が恐る恐る(たず)ねる。


「はい、文通でしかやり取りをしていなかったので、分からないのも無理も無いですね」


 優しい口調で丁寧に答える少女。


「其れで、答えは決まりましたか?」


 美華は迷わず少女を見つめ、答えた。


「はい! 私はこのまま中央学園で学びます。ここで築いた絆を大切にしたいので」


 美華の答えを聞いて目を閉じ、静かに答える少女。


「分かりました。確かな意志を持ってご決断なされたのでしたら、そちらの方が()()()()からね」


 少女は美華にそう告げて、丁寧に挨拶をして戻った。


「美華、どういう事だ?」


 勝太が慌てて(たず)ねた。


「実は私、魔導士の血が混じってるの。其れでヴィヴリオ・マギアス学園から魔術を専門的に学ばないかってオファーが来てて……」


「何だよそれ! 初めて聞いたぞ!」


「黙っててごめんね勝太。変な事言ったら嫌われるんじゃ無いかって怖くて……」


 そう、メアリー=スーが引き起こしたあの大災害以降、能力者や魔導士など、特別な素養を持つ者は忌避(きひ)されて来た傾向にある。その考えを少しずつ改善して来たのが、ここ聖組織(エクスペリメント)でもある。


 勝太は其れを聞いて美華の肩を両手で抑え、真っ直ぐ向き合い答える。


「嫌う訳無いだろ! 美華は美華だ! 魔導士だろうが何だろうが変わり無いって!」


 美華はいきなりの事で目を丸くしたが、やがて柔らかい表情へと変わった。


「うん、勝太ならきっとそう言ってくれると思ってた。だから私はここに残りたかったの。皆と紡いだ時間を大切にしたかったから」


 勝太は居ても立っても居られずに、美華を抱き締めた。


「ちょっ……ちょっと勝太!」


「残ってくれてありがとな、美華」


 そう一言(ひとこと)告げて勝太は離れた。


「うわー意外と大胆なのね、貴方……」


 フレデリカは頬を少し赤く染めて、その光景を見ていた。


 恋愛経験とは無縁な彼女にとっては、これだけでも刺激が強かった様で、その内赤面(せきめん)して目を()らした。


 美華の方も大胆な行動に出た勝太に驚き、嬉しそうに頬を赤く染めて微笑んだ。


 そうこうしている内に学園長達が戻って来た。賑やかだった部屋の中は瞬く間に静まり帰った。


 そして静寂の中、壮真が皆を代表して聖組織(エクスペリメント)の意向を話始めた。


「学園長を代表して私から皆に告げる。我々聖組織(エクスペリメント)は本日を(もっ)て、パラダイス・ロスト掃討作戦を開始する!」


 作戦の概要は、現在主なデモ活動が行われている6つの地域に、ヴィッセンシャフト学園を除く6学園の代表生徒達を派遣し、各地でデモの支援を行っているパラダイス・ロストの構成員を排除する事だった。


 主な担当地域は、デモの規模や現在の状況からある程度の敵戦力を割り出し、相応の戦力を保有する学園が当て()められて決定する。


 寥達の担当は極東の島国の首都だった。


 其々(それぞれ)の学園の担当地域が決まり、徐々に解散していく代表生徒達。


 寥達も決意を胸に輸送機へ乗り込み、いざ極東の首都へと向かうのであった。

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[一言] (´°v°)/んぴッ 極東の島国…… もしかして日本!?
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