第97話 んぬふぅーずvsプラトニックラブ
結局王と臣下との会食は、王がひたすら平身低頭臣下に頼み込み、根負けした臣下が渋々了承するといった形で落ち着いた。
その臣下の様子を見ていたソーマは、この人たちも大変だろうなと他人事ながら同情していた。
しかしソーマ達も、王の身に何かあれば大ごとである。
憂鬱な表情の帰路で、マキナが一人カラカラと笑っていた。
「良いんじゃねぇの? また神とかが出てこねぇ限りあのおっさんは強えし死なねぇだろ。まあ宝箱を開ける回数が減っちまうのは残念だけどよ」
「……俺はたまにおまえのそういう能天気なところが羨ましくなるよ」
「悩んだって仕方ねぇだろ、どの道行くしかねぇんだしなるようにしかなんねぇかんな」
マキナは上質な酒と料理に気分が良いのか足取り軽やかに街を進む。
「まあたしかにな……今後の勉強にもなるだろうし、気持ち切り替えますか」
「うむ、戦力的には申し分ないしのぅ」
「私も師である王と共に戦えるの、少し楽しみです」
四人はそれぞれの想いを胸に帰路へと着いた。
出発までは稽古をしながら王の準備を待っていた。
フィオナ加入からマキナの稽古の姿勢がさらに真剣になり、もしかすると海竜神のダンジョンで大魔術師取得もあり得ると言ったところまで来ている。
今日は出発前の最後の打ち合わせということで、件の王宮の個室にて王と食事をすることになっていた。
王もしばらく王宮を空けるとあって実務に追われているのだろう、食事の時間を打ち合わせにすれば時間も省けるといったところだろうか。
マキナはすっかり王宮の酒と料理が気に入ったのか、心待ちにしている。
いつも通り王がすまんすまんと遅れてやって来ると料理が運ばれ、会食が始まった。
「してソーマ、何か気になることはあるか?」
王はまずソーマの話から耳を傾ける。こういった王の姿勢もソーマは好きであった。
「そうですね、戦力や作戦に関しては船の上で聞こうと思ってます。ダンジョン攻略に必要なものとかあれば用意しておきます」
「そうか、ダンジョン攻略に関しては一般的に必要とされるもので良い。それと、そなたらのパーティ名は何というのだ?」
王の問いにソーマとマキナ、丸眼鏡は「あっ……」と食事の手を止める。
思い返せばドワーフ大陸に上陸した後、パーティ名を決めようと酒を飲みながら誰が面白い名前を言えるか盛り上がった夜から真面目に考えてなかったのである。
「くっくっく、ソーマ、アレだよな、アレ」
「いや、さすがにあれは無いだろ……」
マキナが笑いを堪えながらソーマに促すアレとは、もちろん『んぬふぅーず』である。マキナはこの場で言ってほしいのか、おいこら言えよ等と言っているが、酔っぱらいが考えた内輪ネタほど外部の人が聞いててつまらないものはないと思っているソーマは頑なに口にしなかった。
「んぬふぅ! ソーマ殿、たしかパーティ名は『プラトニック・ラブ』じゃなかったかのぉぉう?」
「おい、お前は黙ってろ」
「あ?! ちげーだろ、『んぬふぅーず』だろ!?」
結局酔っぱらいのノリが再来しているマキナと丸眼鏡にソーマは呆れた表情を見せ、話に入れないフィオナは頬を膨らませて拗ねていた。
「もしかして決まってないのか? パーティ登録出来ぬだろう?」
「ええ、俺たちパーティ登録もしてなければパーティ名も決まってないんです」
その様子を見て察した王の助け舟に、ソーマは助かったとばかりに返答する。
「珍しいな、世の冒険者は仲間を見つければ絆の証としてパーティ名を決め、登録をしていると思っていたのだが。パーティ名を名乗るのも誇りであろう。まあ、そんなのが無くても十分絆が深いということなのかもしれないが」
「あんまり意識してませんでしたね、正直ダンジョン潜ったり稽古してばかりでギルド依頼も片手間にしかやってませんし」
話を進める王とソーマの横ではマキナが「んぬふぅーずだ」とか丸眼鏡は「モブキャラの言葉がパーティ名になるのはおかしい、ヒーローとヒロインの『プラトニック・ラブ』が――」などとわりと真剣に言い合っている。
その後、まさかの王がこんなのはどうだとマキナと丸眼鏡の会話に参加し、酒も進んだこともあって各々が好きなことを言い始め、全く打ち合わせの体を為していない会食は終わりを迎えていた。
「んで、結局パーティ名どうすんだよ!」
完全に酔っぱらったマキナはいい加減決めてくれとリーダーのソーマに迫る。
「と、とりあえずパーティ名は三回まで変えられるらしいから王様の提案した『パセドの誓い』にしようかな」
「そうかそうか、まあイヤならいつでも変えて良いがな! はっはっは!」
王は自らの提案が採用されたのを子供のように喜んで笑い、マキナと丸眼鏡は「結局おまえも強い者に巻かれるんだな」と非常に、それはもう非常につまらなそうな顔をしていた。フィオナに関してはソーマの意見は全肯定である。
しかしソーマは、王の提案したこの名前に少し興味を抱いていた。
王の話によると、パセドとは獣人族に伝わる神話の神の一人で、遥か昔の神話時代に現れた悪魔から海龍神を守るため、三叉の矛を用いて戦った海の神と言われている。
そのパセドの威圧は全ての海と大地を揺らすほどと言われ、鬼神の如き活躍で海龍神から悪魔を退けた。
しかし悪魔の呪いにより四六時中身体を激痛に苛まれることとなったパセドは、『我が血を受け継ぐ子孫が未来永劫海龍神をお守りするだろう』と誓いを立て、海龍神の護り手として子孫を残し、苦痛から逃れるために海龍神に自らの命を断ってもらったとのことだ。
海人族はパセドの子孫とされ、海龍神の護り手と称されるのはその為である。
尚、獣人国ではパーティ名に海龍神やパセドの名を使うことは禁止しており、このパーティ名を名付ける為なら王は国王直々の書簡を持たせても良いとのことであった。本当に大人げない国王である。
ソーマはその話を聞き、既視感のようなものを覚えた。
(話しの所々は違うけど全体的にはギリシャ神話のポセイドンの話と似てるんだよな。三叉の矛を持つ海の神とか地震を起こしたとか。最後に神の手で殺してもらうとこもそっくり。パセドとポセイドンって名前も似てるし。神話の世界を通して地球とこの世界は繋がってるのか? これは各種族の神話なんかも調べてみたら面白いかもしれないぞ)
聞けば物語の伝承によってパセドは、パセドネやポセド、ポセドネなどの言い方があり、今はパセドで統一されているらしかった。
転生してしまってからは元の世界との関わりを諦めていたソーマにとって、この話しは興味深く、今後も調査したいと思える貴重な情報であった。
勿論、戻りたいと思っているわけではない。
しかし真相を知りたいと思ったソーマが、唯一と言える元の世界との接点(女神を除いて)と思しき神の名をパーティ名にするのは、なんとなく良い気がしたのだ。
そんなこんなでパーティ名を決めるだけの打ち合わせの会食が終わり、ソーマ達は帰路の途中、ギルドでパーティ登録をすることにした。
ライル王都のギルドは閉店間際とあって人もまばらで、ソーマ達は受付に向かい、パーティ申請したい旨を告げた。
言われるがままに全員のステータスプレートを出し、受付に預ける。
隣の獣人パーティは若く珍しいハーフと異種族混合のソーマ達、それにソーマ以外全員美人揃いとあって怪訝な目を向けていた。
「それではリーダーとパーティ名をお願いします」
獣人の受付が尋ねるので、ソーマは記載式じゃないんだなと思いながらも口にする。
「リーダーは俺、ソーマで、パーティ名は『パセドの誓い』です」
受付嬢がパーティ名に使えない旨を伝えようとする前に隣の獣人パーティが口を挟んできた。
「おい兄ちゃん、人間と……魔族のハーフか? 知らんけどその名前は使えねぇぜ」
「大体なんで純血の獣人がいねぇパーティでそんな大層な名前を付けるかねぇ! 名前負けしたら獣人族が恥かくじゃねぇか!」
獣人パーティは酔ってるのか、嘲るような笑いをあげている。
ソーマと丸眼鏡はまためんどくさいヤツに絡まれたなと構わず手続きを進めようとしていたが、マキナとフィオナが黙っていられなかった。
マキナが丸眼鏡から国王の書簡をぶんどると、ギルド受付の机に叩きつける。
「おうおう、これがあの、王様……えっと名前なんつったっけ?」
「マキナさん、ヴァンヘルム=ライルロンドですわ」
「そうよ! ヴァンヘルッちが出してくれた許可書だ。あのおっさんが直々にこの名前をあたしらのパーティに是非付けてくれってよ!」
獣人パーティはそんなわけあるかと、わらわらと立ち上がり書簡を覗いて目を凝らしている。
ギルド受付もそのような異例なことは聞いたことがないと、書簡を隅々まで確認した。
ついでに周囲にいたパーティも聞こえていたのかぞろぞろと集まって、覗き見する始末である。
「ええ、たしかに正式な書類ですね。ではこのパーティ名でお受けいたします。少々お待ちください」
受付嬢も書類が正式ならば受けない理由が無いので、四人のステータスプレートと書簡を持って手続きの為かギルドの裏へと向かった。
獣人パーティと集まってきた周囲の者たちはいったい何者なんだと騒然としている。
「で、誰が恥をかくってお話でしたっけ? 純血の獣人さんばかりのくせに王から見向きもされないどこのパーティ様が恥をかかれるのでしょうか?」
「名前負けしてるかどうか試してやっても良いぜ、全員まとめて相手してやっから文句あるヤツは表出な」
勝ち誇った顔で獣人パーティを一蹴するマキナとフィオナに対し、嘲笑していた獣人パーティの面々はたじたじであった。
「けっ、女相手にケンカも買えねぇ腰抜けの方がよっぽど恥ずかしいぜ」
「ソーマ様を嘲るなんて200年早いですわね」
「おい、お前がそういうこと言うとあたしら全員がこいつの女みてぇに思われるだろうが」
その後受付嬢が不穏な空気を察知したのかいそいそと戻り、ステータスプレートを受け取った四人はギルドを後にした。
こうして四人は晴れて『パセドの誓い』として、パーティを組んだのであった。
余談であるが帰り道に獣人パーティを黙らせ気を良くしたマキナが、この名前も悪くねぇなと高笑いしていた。実に単純な子である。
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