第96話 ライル王国大会議室にて
海龍神の祠復活に関わる許可が下りるまでの間、ソーマ達は王都で過ごすことにした。
ギガントタートルの鬼甲羅に関しては王が過去の祭りの際に使ったもので余っているものを持って行って良いとのことで、そちらの心配はなくなった。
丸眼鏡も素材であればムフフの袋に入れることを快く承諾してくれている。
ここ数日で困ったことと言えば、マキナとフィオナの対決の翌日の早朝訓練でマキナよりフィオナの方が先に起きて稽古していたことにマキナが悔しがり、二人とも限界ギリギリの深夜まで稽古を続け、さらに翌日フィオナより早く起きてマキナが稽古を始め、翌々日はさらにフィオナが先に起き……と見るからに二人がどんどん寝不足になって疲弊していったのを見たソーマが「お前らは子供か」と怒った事くらいであった。
その点ソーマと丸眼鏡は気持ちの上では引き締めたものの、決して無理せず上手に自己管理をしており、まさに年の功と言った具合である。ソーマのこの世界での年齢は15歳だが。
今日はようやく王の回答を頂けるとあって、応接間に呼び出されていた。
今回はすぐに官吏がやって大会議室という所へ呼び出されたので、四人は官吏に連れられて王の元へと赴く。
途中、官吏が会議で発言するのは代表者のみにしてくれと言うので、特に誰がどうと言うこともなくソーマが了承の意を伝えた。
大会議室ではライル王を除いて15人ほどの臣下と思われる者たちがいた。もしかすると貴族の代表者などもいるのかもしれない。
ソーマたちは促され、王と横並びの席へと付く。
「さて、お待たせして申し訳ない、こちらが件の世界を旅する冒険者のソーマたちだ。先に皆にも話していた通り、シスの街の悪政を暴き、その後大海竜を討伐して戻ってきておる。私もソーマとマキナ相手に模擬戦をしたが敗れた。屈指の実力者だ」
会議の参加者は王から事前に聞いていたものの、どう見てもまだ若く未熟にしか見えない四人に驚きを隠せていなかった。それほど王の強さに対する信頼が厚いのだろう。
「武に長ける者ということで私とも気が合ってな、エルフのフィオナは私の特別な訓練を全て修了しておる。それにハーフが多い彼らは特に信仰を持たず、旅が落ち着いた際には獣人国へ帰化しても良いとまで言ってくれておる」
この帰化の話は先日、会議参加者を説得するためにと王から提案を受けている。
ソーマ達も実際に帰化するわけではない上、事実そうなってもこの王が統治する獣人族国であればそれはそれで良いと思っていたので了承した。
「現在世界樹及び魔神神殿の復活により、世界情勢がキナ臭くなっているのは周知の事実だ。我々の調査とソーマ達の話を元に、エルフ、魔族とも聖地が復活を遂げてからステータスが全て1割ほど上がっているのも確認済みだ。さらに聖地が復活するたびに魔物も強さを増しておる。我が獣人国としては一刻も早く海竜神様の祠を復活させたい次第である。聖地復活の条件はそれに関わるダンジョン攻略が必要なのでは、というのはこれまで何度も会議で聞いているだろう。実際にソーマ達も詳細は伝えきれないが魔族大陸でそのような情報を掴んでいるとのことだ。今回ソーマ達がダンジョン攻略に協力してくれるとのことで、会議ではそのことについて話し合いたい」
王がそこまで言うと、数人の者が挙手をし、王が指名した順に発言する。
「貴族代表のシルドラと申す。ソーマ殿達にお聞きしたい、ダンジョン攻略においてそなた達のメリットはなんだ?」
シルドラは鋭い目つきでソーマ達を見回す。
ソーマは立ち上がり毅然とした態度で答える。
「ソーマです。我々は世界各地を巡り、日々研鑽やダンジョン産のアイテムを集めております。ご存知の通りダンジョンの宝箱から出るレアアイテムは開けた者に合わせたモノが出ますので、此度の攻略でも五人で潜るのであれば順番に開けていき、レアアイテムが出た場合はその者の所有物とさせて頂きます。聖地ダンジョンから出るレアアイテムには非常に期待しております」
ソーマの言葉にシルドラはあまり納得していない様子だが、了承の意を伝えた。
王が次の者を促そうとしたところをソーマが制する。
「すみません、大変失礼ですがあまり納得されていないようですので少々場をお貸しください」
ソーマはそう言うと、丸眼鏡を連れて会議室の中央に出て演説を始めた。
さすがに会議には非武装で参加しているので、丸眼鏡のムフフの袋から武器を出してもらう。
「こちらはヒト族のダンジョンで出た私の武器、通称碧竜刀です。かの伝説のオリハルコンで出来ており、切れ味、魔力伝達率ともこの世で勝る物はございません。鑑定はご存じの通り、ココネ博士ですので間違いはないかと」
ソーマはそう言うとシルドラに剣を手渡し、興味のある者には順次回して見てもらうことにする。
さらにソーマはオリハルコンの杖と世界樹の弓を丸眼鏡に出させる。
「こちらは魔族大陸で出た、ココネ博士のオリハルコンの杖、それにエルフ大陸で出たマキナさんの世界樹の弓となります。武に明るい皆様はお分かりになるかと思いますが、どれも超が付くほどの一級品。冒険者として、武に携わる者として、自身専用のそのような武器を手に入れた時の喜びは筆舌に尽くし難い。その為なら我々は世界中、どこのダンジョンでも潜るつもりでございます。聖地復活に関わるダンジョンに潜れるなど滅多にない機会ですし、ライル国王のお役に立てることも誇りに思っております」
ソーマはそう言うとマキナと丸眼鏡の武器をムフフの袋に入れさせ、失礼しましたと席に着いた。
参加者は皆、碧竜刀に興味を示したのかどんどんと手渡され、その美しさと独特な形、それにソーマの身長にピッタリの短めな剣にいずれも感嘆の声を上げている。
「一流の剣士が己の武器を預けるなど滅多にない機会だな、私にも後で見せてくれ。さて、次の者は……うむ、ミラージュ殿」
「はい、ライル王国参謀のミラージュと申す。ソーマ殿達は獣人族国に帰化しても良いとのことだが、万が一戦争になれば獣人国民として参加されると言うことか?」
ミラージュの質問には場の全員が注目する。
ソーマは再度立ち上がり、臆することなく答える。
「お答えします。現在我々のパーティの平均レベルは50を越えており、今後もまだまだ上げ続ける予定です。また剣豪スキル持ちが二人、大魔術師スキル持ちが二人……大魔術師に関してはいずれ全員が取得予定で、その後も剣の剣王、賢者の賢王スキルの取得を各々目指して参ります。おそらく遅くとも数年後には4人で一国と対等に渡り合うことも可能なのではと言うのが私の見解です。国王、どうでしょうか」
「うむ、もしそれが現実となるのであればそうなるであろうな」
軍事力に明るい国王の賛同もあり、場は騒然とする。
当然だ、たった四人で一国と渡り合うパーティなど、引き入れた国が天下を制する。裏を返せば引き入れられなければ国が亡ぶのは必至である。
ソーマはさらに淡々と続けた。
「現時点でも軍事力という観点から見れば我々は大きく戦況を左右する実力を有していると自負しております。その我々が特定の国に加担すると言うのは、非常に繊細且つ難しい問題と認識しています。なので戦争の参加は現時点ではお答え出来ません。しかし、如何なる場合を以っても現国王が統治する限り、獣人族国に刃を向けることは無いと私と仲間の命に賭けて誓いましょう。まああと……この場に相応しい発言では無いと思いますが、ライル王が私達に友として、戦って欲しいと頼まれるのであれば断る気はありません。国や種族等関係なく、私達は王が好きで、信頼しております」
ソーマのその言葉を聞いた参加者達は安堵する者、神妙な顔をする者と三者三様であった。
その中で再度ミラージュが挙手し、許可を得て発言する。
「さすが我が国自慢の王ですな。ちなみに国王、ソーマ殿が先ほど申された剣の剣王や賢者の賢王等のスキルは取得可能なのですか?」
「うむ、もしそのようなスキルが存在するのであれば相当な苦難の道であることは間違いない。それにその道に関して少なくとも獣人国では把握しておらん。おそらくどの国もその二つのスキルの存在と取得方法は発見していないはずだ」
ソーマはすかさず挙手し、発言する。
「現在我々パーティはその二つのスキル取得に関する情報も世界中で集めており、少しずつですが成果は出ております。こちらに関しても詳細はパーティメンバー以外には門外不出としており、他者、他国に漏れることはございません。もちろん獣人国にも教えることは出来ませんが」
「そういうことだ。騎士団所属であれば別だが、一冒険者がここまで自らのスキルやレベルを明かしてくれることはそうそうあることではないのはご存知だろう。この話題に関してはこの辺りで良いか。では次は……ラングドック騎士団長」
「はっ。ライル王国騎士団長のラングドックだ。ソーマ殿、そなた達は何故そこまで力を求める?」
ソーマはひとしきり考えた後、ラングドックに笑顔で答える。
「お答えします。私個人の話にはなりますが、初めはただただ強くなるのが楽しかったというのが正直な話です」
そこまで言うと王とラングドックを始め、数人の人達が顔を綻ばせた。
武に通ずる者であれば、スキルを取得しどんどんレベルが上がって楽しくなるという経験は誰もが通る道なのだろう。
「今も新たなスキルや魔法の取得、レベルが上がって強くなるのが楽しいというのは当時のままです。しかし、それに加えて今は大切な仲間を守りたいという気持ちも芽生えました。さらに、ご存じの通り人間国はここ獣人国ほど大らかな国ではありません。私のような者はひっ捕らえてでも国の管理化で戦争兵器として扱う国です。ですから、自分が望む人生を手にする為に強くなりたいという気持ちも大いにあります。利用されるのは真っ平御免ですからね」
ソーマがそこまで言うと、人間国のことも当然知っているようで深く頷く者までいた。
さらにソーマは仲間を紹介していく。
「こちらのダークエルフと魔族の混血であるマキナは、その血ゆえに忌み子として扱われ幼少期に海に流され、あの海賊狩り専門の海賊、ロバーツ海賊団に拾われて育ちました。そこから冒険者に転向し、幾度かパーティを組みながらも、珍しい混血、Sランクスキルに三属性使いというのもあり、心から信頼出来る仲間に巡り合えずにソロで活動していた時に私と出会いました。強さと富と仲間を愛する、ある意味で冒険者らしい、私が最も信頼するパートナーです」
参加者達の視線はマキナに注がれる。
マキナは恥ずかしいのか顔を背けながら俯いていた。
「ココネ博士はドワーフのくせに火が使えず、獣人のくせに近接戦闘が弱いとして少なくない人々から嘲笑の的にされてきました。そこから希少なSランク鑑定スキルを用いて王都に仕えていたのはご存じの通りです。しかしそれは彼女が本当に望んでいたことではありませんでした。まあ詳細は省きますが、今ココネは私達と共に冒険者として旅出来ることを心から喜んでおり、毎日が幸せそうです。彼女が強さを求める理由は、我々と共に歩んでいきたいからでしょう」
顔見知りが多い参加者も丸眼鏡が過去に嘲笑の的となり、また冒険者と共に世界を旅することを望んでいたことなど知らなかったようで、皆話に聞き入っていた。
「エルフのフィオナは……」
ソーマが言いにくそうにしていると、フィオナが挙手をして王から許可を貰った。
「私もエルフ国では戦術の要として厳しく教育を受けてましたが、此度の誘拐事件をきっかけに自身の人生について考え直し、国が望む役割ではなく、自身が望む人生を歩みたいと思い直しました。ソーマ様には惚れてます。大好きです。そして、ソーマ様に仲間として信頼されているマキナさんとココネさんが羨ましかった。私が強さを求める理由は、ソーマ様達に認めてもらい、背中を預け合える仲間になりたいからです」
フィオナが毅然とした態度でそこまで話し、笑顔で言葉を結ぶと、参加者の中には小さく拍手を送る者、惚気に当てられ笑顔で首を傾げる者と様々な反応であった。
「うむ、高ランクスキルに複数属性持ちとなれば羨望の的ではあるが、生きにくくなることも確かだ。皆己の望む道を仲間と歩むために強さを求めているわけだな。ラングドック殿、良いか?」
王が話を纏めると、質問をしたラングドックも礼を言って席に付いた。
その後も矢継ぎ早に質問を浴びせられたソーマは、都度適切に淡々と説明し、最終的にはやはり海龍神の祠の復活は急務とのことで一致し、会議を終えた。
話の焦点としては、まずダンジョン攻略をすれば聖地が本当に復活するのかという点、それと他種族に獣人族の聖地を復活させて良いのか、信頼出来るのかという部分であった
前者に関してはやってみなければ分からないという点が大きく、後者に関してはダンジョン攻略に明るい参謀と騎士団長がこのままでは攻略は不可能と断定した。
また、特にソーマ達が失敗したとしても獣人国には痛手が無いということで、無事ソーマ達への攻略委託が決定した。
皆やはり聖地復活に関しては悲願のようで、可決の後は各々ソーマ達に期待の声を掛けていた。
会議の後は王との会食となる。
と言っても疲れただろうと気を利かせてくれた王は、前回の個室で王とソーマ達だけでの会食としてくれた。
「にしてもソーマ殿は本当に大人びておるのぅ。15歳とは思えん受け答えじゃった」
「私もソーマ様の知的でクールな受け答えにウットリしてしまいましたわ」
丸眼鏡とフィオナの賛辞に、まあ過去に色々あったからね誤魔化すソーマ。
そこに王がニコニコとした笑顔で飛び込んできた。
「やあすまない、待たせたな。大きな会議とあってなかなか帰してくれなくてな」
「おっせぇぞおっさん! あたしはあの飯と酒が出るって聞いたから退屈な会議にも出たんだぜ」
会議では終始退屈そうにしていたマキナがようやくここで口を開く。
王は、マキナは相変わらずだな、と笑顔で答えていた。
その王に続き、先ほどの会議参加者だった参謀のミラージュと騎士団長のラングドックも入ってくる。
「黙っていてすまなかった、参謀のミラージュと騎士団長のラングドックだ。私が最も信頼を置いている臣下だよ。二人にはもう少しソーマ達のことを詳しく話しておる」
「参謀のミラージュだ。此度は海竜神の祠復活のご助力、感謝する」
「騎士団長のラングドックだ。先ほどの不躾な質問、お詫びする。王との模擬戦、それにフィオナ殿の訓練は見ていたからな、そなたたちの活躍に期待する」
(さすがに根回ししてる相手も多少はいたか。全然気づかなかったな)
ソーマ達は各々適当に挨拶を済ませ、会食の席に着いた。
その後前回と同じように一度で全ての料理と飲み物が運ばれ、王と臣下、ソーマ達のみとなる。
マキナは待っていたぜと言わんばかりに酒を浴びるように飲みながら料理にがっついていた。
「して、いつ出る?」
王は食事を取りながら、待ちきれないのか話を進める。
「僕らはいつでも良いので、そちらが良ければ明日にでも」
「そうか、出来れば3日後にしてもらえないか? 此度のダンジョン攻略、そなた達が良ければ私も同行したい」
その王の言葉に参謀と騎士団長、マキナ以外のソーマ達は一様に驚きを見せ、丸眼鏡に至ってはむせ込んでいる。
「王、それはなりませぬぞ!」
「そうですとも、であれば騎士団長の私が……!」
当然臣下の二人は物凄い形相で止めに入っている。ソーマもそれはさすがにマズいだろうと口を開く。
「さすがに一国の王が謎のパーティに加入してダンジョン潜るのはマズくないです? それに万が一のことがあったら僕らも獣人国に説明できませんよ……」
「はっはっは、普通はダメに決まっておろう! 王としては許されぬ、しかし一人の武人としてこんな強者揃いのパーティと共に戦えるなど一生に一度あるかないかの機会だ! これは王としてではなく、ヴァンヘルム=ライルロンド個人としての最後のわがままだ。私は行くぞ、どうか一生の願い、聞いてくれ!」
豪胆な笑いと共にとんでもないことを言ってのける王に、臣下の二人は顔面蒼白、ソーマも小さく「結局このおっさんもこっち側の人かよ」と溜め息を吐いたのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
この辺りを書いてた頃はあまり気にしてなかったのですが、つい数週間前に「一話を2000~3000文字で纏めると良い」みたいなことを読んで、少し長過ぎかな?と最近思い始めました。
一話で二話分くらいの長さがあるので、一日二話更新すると四話分くらいの文字数になってる時もあるかもしれません。
現在175話まで書き上げてるので、まだまだ当分一日二話更新を続けていきますが、ご負担にならない程度に楽しんで頂けたら嬉しいです。




