第91話 大海竜戦
ソーマ達は海人族に連れられて大海竜討伐に向けて船を進めていた。
現在大海竜が出没していると言われる海龍神の祠は、海人族の島からおおよそ北東に100kmほどの場所にあると言う。
随分遠いなと思ったソーマだが、広い海の中で最も近い島から100kmであれば、そうでもないのかもしれない。
海人族は最初に会った三人が特に海の中での泳ぎに特化しているらしく、もっと人らしいタイプの者の方が多かった。
現在も船に同乗している3人の海人族は肌の色も人間と同じようなタイプで、他にも三人、船の周りを泳ぎながら案内してくれている。
海人族が船を操縦する代わりに、ロバーツ海賊団の乗組員はジャック以外、全員島に残っていた。
ソーマは同乗している海人族の中でリーダーと思われる男に、兼ねてから気になっていることをぶつけてみた。
「各種族の聖地って100年ほど前に崩壊してると思うんだけど、海龍神の祠ってどうなってるの?」
「ああ、その秘密はずっと海人族が昔から守り通していることだからね、言えないことになってるんだ」
「じゃあ他種族が勝手に調査するのは問題ないの?」
「まず海龍神様の祠がある場所を知らないだろう。今回は王の命があって特別に連れていくけど他言はしないでくれよ。これはジャック=ロバーツにもキツく言ってある」
その言葉を聞いて、ソーマはこうして海人族が協力してくれることそのものがやはり異例なことなのだなと改めて思った。
ジャックもその辺りは信用に足る男だと言うのが、海人族の耳にも届いているのだろう。
さすがは世界一と名高い海賊団である。マキナはジャックに何か言えば世界中の海賊に広まるなどと言っていたが、言ってよいことと悪いことくらいは心得ているのだろう。
一行が順調に航海を進める中、いち早く異変を察知したのは丸眼鏡であった。
「ん……。随分早く向こうから気付いたようじゃの。50kmほど先からこっちに向かっておる」
「おいおい眼鏡ちゃん、そんな遠くまで探知出来るのかよ……速度はどんなもんだ?」
ジャックが驚きを口にしつつも今後の作戦を立てるためにも詳細を聞き出す。
「船より断然早いのぅ。このままだと30分も掛からぬ」
「さすがは大海竜ってとこか。このまま20分進んだら船は停めるぜ。あとはおまえらに任せる」
「分かった。マキナ、丸眼鏡、準備は良いな?」
「いつでも良いぜ」
「うむ」
緊張感漂う船内に、海の中を泳いでいた海人族達も船上に避難して慎重に先へ進む。
大海竜は洋上で遭遇してしまえば、まず終わりと言われる悪夢のような魔物と言われている。
逃げられれば幸運とまで言われている大海竜を狩猟するなど、いくらロバーツ海賊団と言えども聞いたことが無い。
海人族達が不安な表情を浮かべる中、ソーマ達だけが落ち着いた表情で海を眺めており、その様子を見たジャックは密かに三人の戦闘を楽しみにしていた。
20分ほど北に進んだ船は予定通り洋上をぷかぷかと浮いていた。
さすがに錨は海底まで届かないので帆を畳むのみとなっている。
「接敵まであとどれくらい?」
「もう5分も無いと言ったところかの」
「よし、じゃあ準備だ」
青い空に凪の海と穏やかそのもの。
まさか大海竜が迫っているとは思えないような状況の中、ソーマ達の表情が引き締まる。
「丸眼鏡、頼む」
「うむ。いでよ、凍土」
丸眼鏡がオリハルコンの杖を海に向けて詠唱すると、洋上に細長い氷の通路が出来てゆく。
三人は船から氷の通路に飛び乗ると、疾風を用いて船から数百メートル離れた場所まで駆けて行った。
「はー、まさか海の上に足場を作っちまうとはな。マキナも強くなったと思ったが、あの眼鏡の嬢ちゃんも探知に足場作りに尋常じゃねぇ」
ジャックはその様子を見ながら感心していた。
おおよそ500メートルを一瞬にして駆け抜けた三人、その先に丸眼鏡は円状の足場を凍土で作り、さらにその上に地壁を使って平らな岩をコーティングした。
「マキナは丸眼鏡とくっついて行動! 水中探知で常に位置把握しながら水上に出てきたところを叩くぞ!」
「おうよ!」
「うむ! 接敵まで30秒じゃ!」
ソーマとマキナ、丸眼鏡で左右に分かれ、足場の縁に立って水面を睨む。
かなり深い位置を泳いでるらしく、ソーマ達をスルーして船に向かわれると困るので、三人は息を合わせて同時にスキルを使う準備に入った。
接敵まで10秒を切った所で、ソーマとマキナは覇王の豪威圧を、丸眼鏡が覇気を叩き込む。
―――ンォオオオオオ!!!
直後、水中から籠った音だが大海竜のものと思われる雄叫びが響き、足場に無数のひびが入る。
丸眼鏡はすぐに魔法を上掛けして足場を修復した。
同時に三人の神に挑みし者スキルが発動し、全員のステータスが特大上昇する。
「来るぞ! かなりデカいな!」
水中探知で探っていたソーマは軌道を変えて足場に突っ込んでくる大海竜を捉えてそう漏らす。
「うむ、一旦飛んだ方が良さそうじゃの、足場が壊されそうじゃ」
「おう! 丸眼鏡ッち、乗りな!」
マキナの背中に丸眼鏡がぴょこんと乗り、ソーマとマキナはほとんど同時に上空へと飛び上がる。
直後、足場の下からどでかい大海竜が飛び上がり、直前までソーマ達がいた足場を粉々に粉砕した。
全体的にはずんぐりむっくりなサメのようなフォルムだが、体表は真っ青な鱗に覆われており、口内には鋭い大きな歯がびっしりと生えている。
一応竜らしく足は付いているが、あまり使われないのかかなり小さく、やはり水中戦に特化している印象だ。
ソーマとマキナは上空から即座に斬空剣を連撃で飛ばす。
その剣撃は皮膚を斬り裂くものの、大海竜の大きさの前では切り傷程度にしかならなかった。
丸眼鏡はアメジストの神眼を揺らめかせながら、大海竜を凝視する。
大きな波しぶきを起こしながら再度水中に潜る大海竜。丸眼鏡は即座に水上に足場を展開し直し、三人は着地した。
「おい! あんま斬空剣効いてないんじゃねぇか!? このまま斬ってると傷だらけになっちまうぜ!」
「む、どうやらクラスチェンジして魔物のステータスの一部も見えるようになったようじゃの。こうげきりょくは800ほどでかなり高いのじゃが、その他はそうでもないのぅ」
「やるな丸眼鏡! よし、次は口内狙ってみよう! 来るぞ!」
大海竜は深く潜った後、さらに速度を上げて海面に向かって上がってくる。
先ほどより大きく跳躍する二人。マキナは丸眼鏡を背負っているので身体強化も用いて、より高く跳躍した。
大きく開いた口に斬空剣を叩き込もうと準備した二人に対し、大海竜は飛び出したかと思うとバク宙するかのよう大きく一回転して尻尾による攻撃を繰り出してきた。
予想していなかった大海竜の動きにソーマと丸眼鏡はすぐに空中に地壁の足場を作り、さらに上へと跳躍することで逃れたる。
「助かったぜ丸眼鏡ッち!」
「うむ、しかし水中の敵というのは戦いにくいのぅ」
大海竜は特大の波しぶきを上げると、また水中へと戻っていく。
倒すだけなら出てきたところをマキナの灼熱天柱で良いのだが、素材をなるべく傷つけないようにとなると話が変わる。
ソーマ達が最も迷っている部分は、どこまで素材を傷つけないで倒すかという部分であった。
丸眼鏡が再度作った足場に着地をすると、マキナと丸眼鏡はソーマを見て次の作戦を仰ぐ。
「火竜王の時みたいに綺麗な状態ってのは諦めた方が良いな、丸眼鏡の穿通礫錐で口から尻尾まで貫こう! 多少の損傷は構わないから確実にぶち込んでくれ!」
「うむ、了解じゃ」
三度襲ってくるであろう大海竜に備えた三人だが、大海竜が北へゆっくりと戻っていく。
「おいおい、逃げるのは勘弁してくれよ」
「あ? 来ねぇのか?」
「うむ、北へ向かって……いや、何か仕掛けてくるようじゃ!」
大海竜はくるりと方向を変えると水面に顔を出し、大きく口を開けながら足場に向かって猛突進してきた。
下からよりは避けやすいと跳躍の準備をする三人だが、突然大海竜はその場で水面に立ち上がるようにその身体を持ち上げた後、体内に大量にため込んだ水をとてつもない大きさの水弾として、そこまでの速度と大海竜の体重、パワーを乗せて三人の足場に放った。
「っ!! 避けたら船がやられる! 丸眼鏡、障壁! マキナ、結界破られたら斬鉄剣で真っ二つに斬れ!!」
反射的に飛び上がって避けようとしたマキナを制したソーマは全力で結界を展開。
丸眼鏡も続いて障壁を繰り出した刹那、大水弾が結界と障壁にぶつかる。
途轍もない速度と重さを乗せた大水弾はソーマと丸眼鏡の結界と障壁を以てしても防ぎきれずにそれらを破壊する。しかし直後準備していたマキナがエアブレイドを付与していた紅竜刀の斬空剣で、威力減衰した大水弾を真っ二つに斬り裂いた。
大水弾は縦二つに割れ、三人の足場の両脇を物凄い勢いで後方へ飛んで行った。
「わりぃ! 避けるとこだったぜ!」
「想像以上に厄介な敵だな、次で確実に仕留めるぞ!」
少々の焦りが出始めたソーマに対し、大海竜も遠距離攻撃が有利と気付いたのか、その後は大水弾による攻撃のみに絞ってきた。
丸眼鏡が足場を作って近付こうとするも、距離を取られて埒が明かない。やはり水上戦では水中の敵が圧倒的に有利であった。
何度か大水弾を同じように防ぐ中で焦りを募らせるマキナと丸眼鏡だったが、ソーマが突破口を切り拓く。
「ちと乱暴になるけど次で仕留めよう。大海竜が大水弾を放つ直前、俺が丸眼鏡を背負ったマキナごと身体強化を使って大海竜に向かってぶん投げる。距離が足りなければ空中で丸眼鏡が足場を作って、マキナがそれを蹴って極力大海竜に近付いてくれ。大海竜は大水弾を打つ時に身体を水面に持ち上げるから、その腹目掛けて丸眼鏡は穿通礫錐を思いっきりぶち込んで!」
「うっひゃー面白れぇ作戦だ! 乗ったぜ! でけぇ水の弾の防御はおまえに任せるぜ!」
「うむ、ちと怖いがこのままじゃジリ貧だからのぅ」
覚悟を決めた三人は大海竜の動きを見ながらタイミングを計る。
そしてソーマとマキナの身体には赤い光が、丸眼鏡の身体には青い光が灯り、三人全員が身体強化を纏う。
身体強化の色の違いは術者のイメージによるもので、効果に違いはない。
「行くぞ!」
直後、丸眼鏡を背負って直立しているマキナをまるで槍投げのように、大海竜に向かって全力で投げるソーマ。
さらに三人は同時に局所突風を用いてその速度を数倍にまで加速させた。赤と青の身体強化の光が尾を引いて一直線に大海竜に向かっていく。
水面すれすれを超速で跳んでいくマキナと丸眼鏡の後には小さな波しぶきが立つほどであった。
大海竜はすでに身体を持ち上げて水弾を打つ準備に入っていた。
とんでもない速度で飛んでくる赤と青の光に気付かない大海竜ではなかったが時すでに遅し、放たれた大水弾とすれ違うように近付き間合いに入ったマキナに背負われた丸眼鏡は、特大の鋼鉄製穿通礫錐をその腹目掛けてねじ込んだ。
その形はソーマが世界樹のダンジョンで使った電動ドリルのような歯を模しており、大魔術師スキルを得た丸眼鏡の風 属性による回転力もあって見事大海竜の腹に大穴を開けることに成功する。
二人は水面に叩きつけられる前に突風を使って速度を落とすも、三度跳ねて着水した。
一方ソーマは迫りくる大水弾を三層の結界で受けた後に気迫の斬空剣・エアブレイドで斬り裂き、無事難を逃れる。
大海竜は即死だったらしく、声を上げる間もなく大きな波しぶきを立てて力なく崩れた。海には赤黒い血が広がっている。
直後、丸眼鏡が着水の衝撃で魔力が一瞬途切れたのかソーマの足場が消え、ソーマも海の中へ落ちる形となった。
丸眼鏡はすぐに足場を作り直し、マキナと共に大海竜の側まで行き、鋼鉄の首輪を作って嵌めた後にムフフの袋に入れてきた大きなロープを結って船に繋ぐ準備をした。
ソーマも丸眼鏡ほどではないにせよ小さな足場を作って二人の元に駆け寄る。
「上手くいったな! ありゃ面白かったぜ!」
「むう、わたくしは結構怖かったゆえ、今後はあまり使いたくないのう」
「まあ無事狩猟出来たし良かったよ。二人ともありがとう。そろそろジャックさん達の船が回収に来てくれるはずだけど」
そうして後ろを向いた三人の視線の先には、マストがぽっきりと折れて帆が無くなった帆船があったのであった。
「あの大海竜討伐を見れたのは眼福だがよ……」
ジャックはこめかみに手を当てて呆れた顔をしていた。
どうやら大水弾の一部が防ぎきれずに船に迫っていたところをジャックがなんとか水壁で軌道を逸らしたものの、マストに当たり折れてしまったらしい。
船が大破しなかっただけマシだが、帆船のマストが折れてしまっては航海どころではない。
「すみません……とりあえず時間は掛かると思いますが俺と丸眼鏡の水魔法で海人族の島までは戻れると思います」
「そうしてもらえるとありがてぇな。島に戻ったらちと時間は掛かっちまうが仲間に連絡を取って修理用の素材を運んでもらう。無理矢理帰れねぇこともねぇが万が一海が荒れたり大型の魔物に出くわしたらマズいからな、指示には従ってもらうぜ」
こうしてソーマ達は大海竜を狩猟した後、なんとかかんとか海人族の島へとたどり着いたあとは修理までの間、島に拘束されることとなってしまった。
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